2023/10/29 おにぎり四品
「うううううう」
「み、みず」
カーテンの隙間から差し込む陽の光に苦しむゾンビのようなうめき声が上がる。続いてシャー! と、開かれたカーテン。窓から陽の光が部屋中を照らす。
「おはよう、ヴェルナー、ドレクスラー!」
「ううううう、イケメンが、イケメンが目に刺さる」
「すまんマゼル、光量を落としてくれ」
「どうやって?!」
朝日を背に輝く笑みを浮かべるマゼルに、ヴェルナーとドレクスラーは呻きながらそう言うのだった。
「ほら、ふざけてないで顔洗ってきなよ。朝ごはんできてるよ」
「はーい」
「はいはい」
よろよろと起き上がった二人が並んでバスルームに向かったのを見送り、マゼルはキッチンに戻ると手早く朝食をテーブルの上に並べる。
「あ~さっぱりした。改めてサンキュ、マゼル」
「おはよーさん」
「おはよう、二人とも。おにぎりだけどいい」
「いつも言っているが、あるだけでありがたい」
「サンキュー」
飲んだ日の朝は、どうせたくさんは食べられねぇし。と、ヴェルナーが言いながら席につく。それからマゼルが淹れてくれた緑茶を一口飲んで、ほあ。って息をついた。
目の前には海苔をまいたおにぎりが二つ。それから香ばしい香りの焼き色が付いたおにぎりが一つ、ピンクと黄色の具が入ったものが一つ、皿に乗せられていた。一つのサイズは朝はあまり食べれないヴェルナーを思ってか、さほど大きくはない。ヴェルナーの手のひら半分ぐらいだ。
「うめぇ、ん~~~鼻に、鼻に!」
「あははは、梅にワサビを入れてあるんだよ」
「っかー! 目が覚める!」
先に海苔をまいたおにぎりを一つ手に取ったドレクスラーが高い鼻をつまんでわめく。大きさ的にドレクスラーには一口で半分以上いけてしまったが故の悲劇である。ヴェルナーも覚悟して一口口にすると、ワサビとも違う辛みが口の中に広がる。と同時にぐにっと何とも言えない食感。
「ン、キムチ? けど、なんだ、これ」
「あぁそれ、昨日のイカの燻製の残り」
「おかーさんか、お前は」
柔らかい奴。と、言うマゼルに思わずそんな言葉が口をついた。確かにそんなものがあったのを覚えているが、まさか翌日にこんなリメイクで出てくるとは思わずそんな言葉が出た。
いや、ヴェルナーの母親が自らキッチンに立つことはほとんどないのだが、なんとなく他の友人たちから聞く「かーちゃんのリメイク料理」がそんなイメージなのだ。以前ここにはいない友人が「木曜の肉じゃがが金曜日にカレーになって、カレーが土曜にグラタンになって、最後はコロッケになる」と言っていた。その応用力がすごい。そしてそれを聞いたマゼルが目を輝かせていたのを思い出す。
「だめだった?」
「いや美味い」
びっくりしただけだ。と、ヴェルナーは返して残りも口にする。マゼルも同じようにキムチのおにぎりを口にし、「うん」とうなずいた。
「こっちはハムとタクアンだな」
「昨日の残りか~」
コンビニで買った漬物の盛り合わせの残りだろう。ハムはドレクスラーが実家から送られてきたと言って持ってきてくれたハムだろう。キムチのものを食べ終えたヴェルナーも手に取る。種類の違うしょっぱさが何とも食欲をそそる。緑茶で口の中をさっぱりさせ、梅わさびを食べる。気を付けたおかげか、ドレクスラーの様に騒がずに済んだ。
「これはふりかけ、だけじゃねぇな?」
「パルメザンチーズも一緒に入れてあるから香ばしいでしょ」
「あーなるほど、それだわ。んまい」
最後に焼きおにぎりを口にしたドレクスラーが首をかしげたが、マゼルの説明にすぐに納得して残りを食べ切る。ドレクスラーの胃袋としては足りないが、ひとまず空腹は満たせた。このまま家に帰ってから食べれば問題ないだろう。低血圧気味のヴェルナーはゆっくりと四つ目のおにぎりを咀嚼している。
「ごっそさん! 今日も美味かったぜ」
「ありがとう」
にこにことヴェルナーが食べている様子を見ながらこちらもゆっくりと食べているマゼルに、自身の使った食器をシンクに持っていく。手際のいいマゼルは作りながら片付けも並行してやっているため、シンクも綺麗に片付いていた。
「ごちそうさま。今日もありがとうな、マゼル」
「おそまつさまでした」
すべてのおにぎりを食べ終え、お茶を飲み干したヴェルナーがパチンと手を合わせるのに、マゼルもヴェルナー曰く「眩しいほどのイケメン笑顔」を浮かべたのだった。
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