23.白桃烏龍
本日はフォスにある骨董市に来ております。【鑑定】のレベル上げついでにあれこれと見ながら散策中。ついでにスリがいたら避けます。
「おっ」
ふと目を止めたのは、粗末な|茣蓙《ござ》の上に乗せられた家具だった。どれも古ぼけていて薄汚れているが、作りは頑丈そうだし、どうやら同一シリーズ品らしい。チェスト、化粧台、イスにカップボード。それから同じく古ぼけたティーセット。
【鑑定】してみると亡国の職人が手掛けた逸品とでた。ただ古く薄汚れているために評価もランクもかなり低いし耐久値も少ないな。化粧台のガラスも薄汚れていてぼんやりと映るだけだし、化粧板はところどころ剥げているし、彫刻もすり減っていた。しかし妙に私にはそれが気になった。
「主人、これどうしたんだ?」
そう言って茣蓙の向こうに座っている店主に声をかける。店と言っても茣蓙を引いたスペースだけで非合法の屋台のようなものだ。明日には違う人間が違う商品を並べているだろう。
「うちのばあさまの嫁入り道具だったらしい。おいておいても邪魔なだけだし、売れば二束三文にでもなればめっけもんてな」
そう言って男は肩をすくめる。心底、商品には興味がなさそうだった。ひとまず私は提示された金額より多めに払って一式すべてを買い取ることにした。
「兄さん物好きだなぁ。まぁいいさ。全部引き取ってくれた礼に、こいつはおまけだ」
そう言って男が差し出したのは自家製の桃のジャムだそうだ。こちらもお婆さんとともにこの国にやってきて、庭に植えられたという桃で作ったとか。お婆さんから彼のお袋さんにレシピが受け継がれているとかなんとか。
とりあえずそれを受け取り、私はフォスを後にした。さて、家具の修復というのはどこでやってもらえるんだ? おそらく耐久値を元に戻す関係のスキルではなく、それ専門のスキルが必要だろう。あとは手作業だな。
とりあえずどこの国の流れを汲むのかを確認しよう。そちらの職人がいればいいだろうな。と思って雑貨屋に飛んだ。昔のことはおじいちゃんに聞くに限ります。
*
「うむ、これはまた、懐かしいものを」
「たしか、旧ラディウス国の様式でしょうか」
雑貨屋の四階に上がり、マーリンに見せるべく買ったものを出すと、マーリンと一緒についてきたカルがそんなことを言い出した。
「ラディウス?」
「帝国が今の状態になる前に併呑した小国です」
あぁ、帝国はいくつもの小国を平定して今の状態になったんだったな。ラディウスというのはそのうちの一つらしい。
「王族はそのまま領主として据え置かれていたが……たしか末娘が別の国に嫁ぎ、その国が帝国とは別の国に攻め滅ぼされて行方知れずになっておったな」
マーリンが何かを思い出すように言った。すでに帝国に併呑されていたために娘の嫁ぎ先に援軍を送ることもままならなかったようだ。変な遺恨が残ってなければいいのだが。
ともかく、私が買った家具には旧ラディウス国の王家に愛された様式が残っているとのことだ。
「ということは、職人はその地方か」
「まだ技を伝えるものがいれば、おそらく」
あーそっちの可能性があるのか。とりあえず物は試しだ。行ってみよう。私がそう思った時だ。
「ラディウス領と言えば、桃の産地として有名でしたね」
「あぁ、七十年前の虫の大量発生で全滅してしまったのが惜しいのう」
「へ?」
なんですかそれは。と聞けば、『ラディウスの太陽』と言われた桃で、とても有名だったそうだ。初代帝国の国王も気に入っていたそうなんだが、マーリンが言うように桃の葉っぱを好んで食べる虫が大量発生し、なすすべもなく全部枯れてしまったそうだ。
「…………ここに、その国からお嫁に来たお婆さんが植えたという桃から作ったジャムがあります」
私がそう言って店主から受け取った桃ジャムの小瓶を手にすると二人が勢い良く振り返った。
その後、カル、ガラハドとともにラディウス領主にアポイントを取り、私がもらった桃のジャムが間違いなく王家に伝わっている秘伝のレシピであることが判明。間違いなく『ラディウスの太陽』の桃であるとわかるとぜひ生き残った桃の種なり枝なりが欲しいと意気込む領主に、フォスの裏道で会っただけでどこの誰かもわからん私。
結局探す依頼を受けフォスの街をあちこち渡り歩く羽目になりました。
その後、己が帝国の領主の血を引いていると知った男の家族だが、ジーアス国から出るつもりはないとのこと。桃の種と接ぎ木用の枝を貰いうけ、領主から預かっていた代金を渡す。帰ってこない場合は『ラディウスの太陽』の名前を使わないようにとの誓約書付きだったので、縁切りも兼ねている気がします。
その後、種と苗木を領主に渡し、礼として家具の修復が可能な職人を紹介してもらいました。ついでに桃の種は私も一つ貰ったので『庭』に蒔こう。
綺麗に修復された家具はとりあえず「家」の客室に置きました。もろに女性用なのでどうしようかなぁ。
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