【裏話】小技集【その1】
今回は、個人的に「気づかれるか気づかれないか」くらいのラインだと思っている、文章や構成レベルでの小技を、本作から抜粋してみます。
一部ストーリーの大枠が神話のパロディである、という話は以前どこかで触れたと思いますが、今回はそれよりももう少し細かい、技術面(というより、単なる自己満足のこだわりに近いかも)の話です。
「自分でそれ言うのかよ、自慢かよ」と思われるかもしれませんが、自分は作者が自作について語るのを聞くのが好きなので、たぶん読者の中にもそういう人はいるはず……たぶん。
絵師の方が「脚のムチムチ具合にこだわって描いたからここを見てくれ」と語る、あのノリをここでやらせてください。
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【同じセリフを違う文脈で繰り返す】
同じセリフでも、使い方によって印象が変わる、というのはよく知られていると思います。本作でも、同じセリフを異なる文脈で使った例があります。一部抜粋して紹介してみます。
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①第7話 【前編】正義とは【解答③】より
「むしろ地位のある人間が来るというから、わざわざあの格好を用意したのだぞ?」
「はあ!?」
「衣を整えた方がいいと貴殿の部下から助言されたのだが、どうせなら正装の方がいいと思ってな。古来より地位の高い人間はみなこういう衣装を身に着けているぞ。貴殿らも昔はこういう恰好で王権を表したりしたのではないか?」
「知りませんよそんなの!」←(使用例1)
「本来、付け髭もあった方がいいのだがな。威厳を出すために必要なものだ」
「いつの時代の話をしているのですかあなたは! 現代で威厳のためにそんなもの付けている人なんかいませ……」
その瞬間、カヤの脳裏にレッドウィンター連邦学園の生徒会長の顔がちらついた。
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②【後編】正義とは【解答③】より
「はは……何故ですって? 気に食わないから、ですよ」
カヤは挑発的に口角を釣り上げながら荒い呼吸と共に吐き捨てる。オシリスがカヤの胸を掴む手の圧が増す。彼女の苦悶の呻きが溢れる。
「がぁ……っ!」
「お前は“否定の告白”を拒む者がどうなるか、わかっているのか!?」
「さて、ねえ……」
「来世が無くなるのだぞ!!!! 死者を導く審神者としての我が権能をお前は踏み躙ろうとしている!! 何故だ!? そんなに自分の汚れた魂を肯定したいのか!?」
「……はっ! 知りませんよ、そんなの」←(使用例2)
「――!!!!」
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「知りませんよそんなの」というセリフを、片方ではギャグとして、もう片方ではシリアスとして使っています。
これによって、カヤが
・どのような場面においても
・良い意味でも悪い意味でも
「知りませんよそんなの」というセリフに象徴される、「他者を顧みない」という性質において一貫した人物であることを表現する狙いがあります。
投稿版では2回繰り返すのみにとどめていますが、当初は3回繰り返して反復をよりわかりやすくする案もありました。反復が2回だけだと、偶然同じようなセリフが出てきただけに見えてしまうような気がしたからです。でも3回も繰り返すとわざとらしすぎねえか……?とも感じ、悩んだ結果、反復は2回、ただし2回目のセリフは太文字表記にするという折衷案に落ち着きました。最終出力が表現としてうまくいっているかどうかは、読者の方々の反応次第と言ったところです。
これは「同じ人物が同じセリフを使う」例ですが、「同じセリフを異なる人物が使う」例もあります。言わずもがな、先生とシロコのケースです。
「何か、まだ話していないことがあったりしない?」
「何かがあるなら、一人で背負わないでほしい」
これらは、何かを隠している相手にかけられた言葉です。先生はホシノに、シロコは先生に向けてこの言葉を使っています。さらに、
・夜の校舎で
・二人きりの状況で
・問いかけられた側が誤魔化す
という構図も共通しています。
先生はホシノに同じ言葉をかけたにもかかわらず、シロコからそれを向けられたとき、皮肉にも結果的にホシノと同じ行動を取ってしまう。これによって、ホシノと先生の「似ている部分」をエピソードとして示したいという意図があります。
また、「先生→ホシノ」「シロコ→先生」という形で援助の手が差し伸べられている点から、両者の関係性が相似であることも示唆しています。いわば、現時点で先生にとってのシロコは、ホシノにとっての先生と同じ位置にいる存在です。原作の先生は、いわば生徒たちのライナスの毛布としてふるまいますが、本作ではライナスの毛布としての役割を、ときに先生-生徒間で交代しながら相互に演じる構造を強調しています。
もちろん先生とシロコには違いもあります。しかし共通点を強調することで、逆説的にその差異も際立つ効果があるのではないかと思っています。
こうした「同じ構図を作る」「ほぼ同じだが一部だけ違う構図を作る」という対比は、自分の中ではかなり意識的に使っている手法です。探せばいっぱい見つかると思います。逆に「完全に反転した構図を作る」こともありますが、対比構造を意識して書いている点では同じです。細かな文章表現で勝負できない分、こういう構造的な部分でポイントを稼ごうとしています。
「細かな文章表現で勝負できない」というのは、もちろん自分の筆力の問題もありますし、読者目線で考えたとき、素晴らしい文章に触れたいから二次創作を読むというモチベーションの人がそもそも少数派だろうという意味でもあります。
私自身、いち読者として作品を読むときは、文章そのものの質はある一定の水準に達していれば十分で、それ以上をあえて求めるようなことはしないかなあ……と思っています。そもそも、いい文章読みたいなら三島由紀夫とか読むよって話ですもんね。ブルアカだから、ホシノがメインだから、ユメ先輩乗っ取りモノだから、エジプト要素が新鮮だから読みに来てくれた……というような人が多数派なのですから(アンケートもそういう結果でした)、文学系ではなくエンタメの作品を書いている限り、なるべく読者へ目線を向けて作品を書いていきたいところです。
ちなみに、対比構造に関してはもっと細かな水準でも入れこんでいたりします。例えば以下のような部分も対比を意識して書いています。
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扉を開けると、清涼な風がふわりと吹き抜けてくる。眼下の庭園から運ばれてきたであろう藤の花の香りが微かに混ざったその風は、ちょうどテラスの中央で佇むひとりの女性の髪を、ふわりとなびかせた。
「――よくいらっしゃいました、ヒフミさん」
ティーパーティー現ホスト、桐藤ナギサ。
トリニティ総合学園における最高意思決定機関の一翼を担う、格式と品位を兼ね揃えた少女は、こちらを振り向くと、薄紅に彩られた唇をほころばせた。柔らかな陽射しが、彼女の艶やかな長い髪に黄金色の暈を纏わせる。
ヒフミは扉を閉めると、丁寧に頭を下げた。制服の裾が小さく揺れ、磨き上げられた床に淡い影を落とす。
(第17話より)
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ナギサに対する描写の「柔らかな陽射しが、彼女の艶やかな長い髪に黄金色の暈を纏わせる」と、ヒフミに対する描写の「制服の裾が小さく揺れ、磨き上げられた床に淡い影を落とす」の部分が対比です。光と影の対比です。
品性、格式、知性、地位、権力、名誉、富、etc.……を持ちあわせ、学園のトップに君臨するナギサは、いわば神の栄光を象徴する存在です。一方、後ろめたいこと(成り行きとはいえ稀代のアウトローになってしまった)を隠してナギサと向き合うヒフミ。対比としては結構良いポテンシャルがあると感じたので、気づく人は気づくかな?くらいのニュアンスで表現しようとした結果こうなりました。
【多人数の会話で、誰が話しているかを迷わせない】
地味ですがかなり気を使っているポイントです。
メインストーリーに沿って書くと、一つの場面に10人以上のキャラが登場することがあります。しかし一般的な小説では、ここまで人数が多い場面はあまりありません。なので、典型的な小説のノウハウしか知らない場合、こういうシーンを処理するのに少々迷うことになります。もちろん私も困りました。
原作では立ち絵があるため、セリフの識別に気を配らなくても発言者を視覚的に区別できます。しかし小説ではそうはいきません。ビジュアルの助けなしで、それでも読者が迷わずキャラの声を脳内再生できるようにする必要があります。
この問題を強く意識するきっかけになった場面を一つ挙げます。
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「だ、だ、脱走って……。ホシノ先輩大けがしてるのに……どうしてですか!?」
「落ち着いてください、ノノミ先輩!! 先生、行き先はわかりますか?」
アヤネが冷静に確認を取る。先生は眉をしかめながら首を振った。
「いや、窓を破って飛び降りた後、あっという間にいなくなったらしい。病院の職員が追いかけたけど振り切られたって」
「うそぉ!? ホシノ先輩の病室って、だって、5階にあったはずじゃ……。そこから、あの状態で飛び降りたってこと!?」
「セリカ、ホシノ先輩なら手負いだろうとそのくらいわけない。今はホシノ先輩がどこにいるか突き止めることが優先」
「で、でもシロコちゃん! 今は市街地の爆破事件にも対応しないと……大将がどうなっているのか確認しに行かないと……!」
ノノミは必死に考えを巡らせているが答えが出ず焦燥感を滲ませている。
(第10話 ユメが残した足跡? より)
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本文の順番でセリフや地の文をどう微調整していったのか説明します。まずは引用の最初の部分からです。
①「だ、だ、脱走って……。ホシノ先輩大けがしてるのに……どうしてですか!?」
②「落ち着いてください、ノノミ先輩!! 先生、行き先はわかりますか?」
③アヤネが冷静に確認を取る。先生は眉をしかめながら首を振った。
この場面を書く際、個人的に開発したコツは「呼びかけ」と「地の文」です。
まず冒頭のセリフですが、単体ではノノミにもアヤネにも取れる曖昧さがあります。そこで次のセリフで「ノノミ先輩」と呼びかけさせ、その直後に地の文で「アヤネが確認を取る」と明示することで、
①=ノノミ
②=アヤネ
と自然に確定できるようにしています。
また、「呼びかけ」は人物ごとの呼び方の違いでも識別に役立ちます。同じ相手でも、「シロコ」「シロコちゃん」「シロコ先輩」といった呼び分けによって、発言者を絞り込めます。
続くやり取りでも同様です。
①「うそぉ!? ホシノ先輩の病室って、だって、5階にあったはずじゃ……。そこから、あの状態で飛び降りたってこと!?」
②「セリカ、ホシノ先輩なら手負いだろうとそのくらいわけない。今はホシノ先輩がどこにいるか突き止めることが優先」
③「で、でもシロコちゃん! 今は市街地の爆破事件にも対応しないと……大将がどうなっているのか確認しに行かないと……!」
④ノノミは必死に考えを巡らせているが答えが出ず焦燥感を滲ませている。
①はまあ、口調的にセリカしかいなさそうではありますが、②で「セリカ」と呼びかけさせることで念入りに確定させています。問題は②以降です。
実は②のセリフは、口調的に先生のものになるかシロコのものになるかギリギリのところにあります。たとえばこれ単体で見たとき、セリフ内の「ホシノ先輩」を「ホシノ」にしたら、それは先生のセリフにしか読めなくなります。なので、ここで「ホシノ先輩」と言わせることで、後輩であるシロコの発言であると限定しています。さらに③で「シロコちゃん」と呼びかけさせることで、②=シロコであることを確定させています。
また③も、ノノミになるかアヤネになるか紙一重になっています。「シロコちゃん」じゃなく「シロコ先輩」と呼びかけさせたら、それはアヤネになってしまいます。ここでは「シロコちゃん」と呼ばせる部分を入れ、続く地の文で「ノノミは〜」と示すことで、発言者を明確にしています。
一見すると何気ない会話ですが、こうした細かい調整を積み重ねて、読み返さなくても理解できる状態を目指しています。最終的には「作り込んでいることに気づかせず、自然な会話として読ませる」ことが目標になります。例示したシーンは呼びかけが多くて違和感を覚えた人もいるかもしれませんが……。
しかし、それでもこのシーンはまだ楽な方です。登場人物が5人に収まっているので。ここに便利屋が加わると、一気に10人近くになり、「呼びかけ」と「地の文」だけでは限界が見えてきます。全セリフに呼びかけを入れるか、一言話すごとに地の文を挿入すれば理論上何人いても区別はつきますが、そんなことをしてしまったら文章として読みにくすぎます。
この場合は、口調や記号的な特徴で補助します。例えば、
・シロコの「ん」
・ノノミの「☆」「♧」
・ムツキの「〜♪」「くふふ」
といった要素です。
ただし多用するとキャラが記号的になりすぎるため、あくまで補助として使うのがよいと考えています。基本は「呼びかけ」と「地の文」、それでも足りない場面でのみ補助的に使う、というバランスです。
これらの工夫を施すのはもちろんのこと、単語を一つだけ入れ換えてみたり、セリフの順番を組み替えたり、もしくはセリフの内容・趣旨そのものを変更したり……などなど。こういった調整の後、一晩寝てからなるべく初見のつもりでもう一度読み返してみて、それでも発言者の識別に特別の労力を要さないようだったらその話を投稿する条件が一つ満たされたと判断します。
まあまあ大変です。
少なくとも、自分程度の筆力だとそれなりに意識してリソースを割かなければならない行程だというのは事実です。しかし大変ではありますが、ぶっちゃけた話、頑張ればセリフの識別は案外なんとかなってしまいます。どうやってもここの曖昧さが取り除けない、もしくは無理に曖昧さを取り除こうとしすぎて文章が破綻する……というようなことは今のところありません。(自分が無いと勝手に思い込んでるだけだったら申し訳ありません)
私はこの事実にゲーム製作陣の凄さを垣間見ています。
各キャラクターの個性がしっかり立っていなければ、このようなことはできないからです。少なくとも、自分で作ったキャラクターたちを10人以上登場させたら、どう工夫しても誰が何言っているのか分からなくなってしまうと思います。二次創作がしやすいようキャラクターをチューニングをしているのかどうかは知りませんが、普通ならキャラの区別がつかなくなりそうな状況下でも、なんとかできてしまう。おかげで楽しく書けています。
そろそろ今回の裏話も終わりにします。
第1話の大枠の構造の解説を以前したことがありますが、そのうち第7話と第8話を材料にしてもう一度同じような解説をやってみようかなと思います。実は話の見た目こそ全く違いますが、第1話の発展・応用型が第7、8話に相当します。具体的には、第7話のオシリスが上半身素っ裸だったというギャグは、単にギャグをしたかったからというだけで書いたのではなく、理論の導きがあって書くことを思いついた……みたいな話を含む予定です。これは現状出していい情報だけで解説できるはず。“千の顔をもつ英雄”を読んだことがある人に向けて予告的に紹介すると、あれは“女神との遭遇”フェーズのパロディのようなものとして書いていました。こう言っても一体何言っているかわからない人も多いと思うので、また次回以降、折を見てご紹介します。
毎回長々とこんなところまで読んでくださる読者の方には感謝しかありません。
今後もよろしくお願いいたします。
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