後悔/レムラキ(2020.9.7)
「ど、銅像ですか⁉︎」
「なンだ、嫌かい? いい申し出じゃないか」
こうなるような気はしていたが、伝えるとすぐにレムナンは叫んだ。内気なところがあるのは活動を始めてからも変わらない。怯えるだけだった頃を思えば、反撃を覚えた今のほうがよっぽどいい性格になったとラキオは思っている。
「そ、そんな……僕にはできません」
レムナンが俯き、目線を下に彷徨わせた。そういうじめじめとしたところは好かないんだけど、と額をぐりぐりと押してやる。恨めしそうな表情でこちらを見遣る顔こそ、最近のレムナンがよくするものだ。
革命が成功し、硬直していた支配体制は崩壊した。組織を立ち上げたラキオとレムナンはこのところようやく心休まる日が多くなりつつあり、まだ対処すべき問題が残るまでも、常に張り詰めていたた空気が緩まり始めていた。抱えている仕事のうちのひとつは革命記念公園の設立である。そこにリーダーであるレムナンの銅像を設置すれば良いのではないかという意見が上がってきたのだ。
「言っただろ、レムナン。大きな運動には時として象徴が必要なんだ。それになる、と決心したのは君だろう? やれやれ、ここにきて日和るつもりかい?」
「それはラキオさんが推薦してくれたからでしょう。僕は今でも、あなたのほうが相応しいんじゃないかと思っているんですよ」
ラキオは細い肩をひょいと竦めてみせた。この話題は何度も二人の間で繰り返されていて、レムナンを説得するのには骨が折れたが、結局はラキオが参謀、レムナンがリーダーというところに落ち着かせた。
「今は銅像の話だろう。君が嫌なら、僕でもいいンだよ?」
資料に目を通しながらラキオは答えた。なにかとあるとラキオを褒めようとするレムナンに悪い気はしないが、組織のリーダーとしての自覚を持ってもらわなければ困る。この忠告も、もう何度もしてきているのだが、レムナンが従おうとする様子は全くなかった。よく言えば図太くなったというんだろうけどね。
「それで、いいんじゃないですか? 僕よりも、きっとラキオさんのほうが良いですよ」
溜息をついても、レムナンは目尻を下げてにこにこと笑うばかりだ。全く鬱陶しい。
「僕は君への評価を改めたほうが良さそうだね。君はもっと賛同してくれるものだと思っていたンだけど?」
「銅像を建てるのには賛成ですよ。でも、それが僕である必要はない。そうですよね?」
「リーダーよりも参謀の銅像が立つなんて聞いたことがないよ」
僕はラキオさんを尊敬してるんですよ。
ふ、と脳内に浮かんできたレムナンの声を振り払う。自分が優秀であることくらい自覚はあるのに、レムナンからの評価だけが頭を離れなくなっていく。自らの制御が効かなくなっていく。不愉快──なはずなのに、拒みきれなくなっていく。
煩わしくなって舌打ちをする。こんなことになる予定ではなかったのだ。グリーゼさえ過ごしやすくなればと考えたことの結末がこれだなんて思いもしなかった。悪態をつく気力もない。腑抜けたままのレムナンの頭をはたきながら、やはり連れてくるのではなかったと後悔したかった。
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