2023/11/24 20.抹茶黒豆玄米茶
豆だ、豆を炒ろう。
前回の緑茶が中途半端な結果に終わった俺は次は豆にターゲットを変えた。幸いにして我がツェアフェルトの特産品は豆。
ツェアブルクで育てているもののほか、あちこちから豆とか種とかを取り寄せる。ついでに魔物の可食部で豆っぽいのも。豆もどきは味はコーンなんだが、これ挽いて粉にしたらパンとかできないか?
目標はコーヒーだ!
……と、でっかく目標を決めたのだが……。うん、その、コーヒーっぽいのは見つかった。色が黒ではなく赤いけど。大丈夫か、これ。いや、よく考えると黒い液体もアレだよな?
手当たり次第に豆を炒って挽いてお湯を入れている嫡男に何をしているんだといぶかしんでいた料理人たちも何がしたいのかわかってからは積極的に協力してくれた。
ついでにいくつかは穀物と言うか、パンっぽいのにも応用できそうとのことだ。今まで豆は茹でただけだったが、挽いて粉として使えるなら他にも応用が利くだろうという話だ。
ついでに、抹茶に続いてきな粉がうちの甘味のラインナップに入りました。次は餡子か? 色が青かったり緑だったりしないといいな……。
「これが、ヴェルナーがここの所いろいろ実験していたやつ?」
「あぁ」
久しぶりにマゼルがツェアフェルトの屋敷に遊びに来ている。マゼルは魔王討伐後、ラウラと婚約関係になった。そのため王族としての知識とか礼儀とかあれこれを詰め込まれている。物語だと平民から迎え入れられた英雄やヒロインなんかはいじめられたりするんだが、今のところ問題はなさそうだ。
まぁ勇者と聖女の結婚は王族の肝いりだ。下手に横やりを入れるようなバカはそうそういないだろう。……いないよな? まぁどこにでもバカはいるから油断はできないが。
それはそうとして、数日ぶりに会った友人は王宮で磨かれているのかピッカピカのキラキラだ。イケメンがよりイケメンになっている。そんなことを思いながら「面白いことをしてるって聞いて探って来いって殿下に言われた」と、馬鹿正直に言うのはどうなんだ。そしてその理由はどうなんですか王太子殿下。いや、理由をつけてマゼルの息抜きをさせてくれているのだろう。きっとそうだ。
「別に面白いことはしてないんだがな」
俺としては緑茶も満足とは言えない結果だし。やっぱり物語とかで料理関係で無双できる人ってすごい。いや、成功させるまでの情熱が俺にないのかもしれんが。きっとできる人は突き詰めるんだろうなぁ。俺はそれなりに似たものが出来ればいいや。って思ってしまう。
「で、これ?」
「あぁ、コーヒーと名付けた」
ヴァイン王国の南、奇しくもアンハイム近くで自生していた豆だった。食べられるのはわかっているが、何分豆っつーか、種つーか、果肉が少ないので無視されてきたものらしい。それを果肉をそいで、乾燥させ、焙煎して、砕いて、紙で濾しながらお湯を注いだのが目の前にあるものだ。そうだよ、コーヒーのフィルターも紙なんだよな!
植物の方はツェアブルクでも育てられるかはこれからなんだが、いっそあっちで作ってもらってもいいな。
「まずは一口飲んでみてくれ。苦いから」
「うっ」
マゼルの唇がへの字に曲がった。たぶん、魔法学の教授の部屋で飲んだ薬草茶の味を思い出したのだろう。あれはなんつーか、ハーブティっつーか、せんぶり茶っぽい感じだったからなぁ。ちなみに、他にも何かないかと料理人たちがあれこれ葉っぱをローストして試した結果、似たようなものを作っていた。さすがに俺は飲んでない。
そういやカップも紅茶用の口の広いのじゃなく、薬草茶の口が狭くて嵩が高いカップだから余計に思い出したのかもな。
「あぁいう感じの苦さじゃない」
「う、うん」
あの時のマゼルは全身の毛が逆立つような感じだったもんな。と、思い出しながら俺も一口飲む。それを見た後にマゼルが恐る恐る飲んで、「うえっ」という顔をした。思わずくつくつと喉が震えた。
「ヴェルナー……」
ジト目で睨まれるが別にわざと苦いのを出したわけではない。と言うように手のひらをそちらに向けて「待て」と言うようにしてカップを置く。
「苦いなら砂糖とミルクを入れてみてくれ」
そう言って用意してあった砂糖とミルクポットを引き寄せる。ジト目のままカップに角砂糖とミルクを入れた後、恐る恐る飲んだマゼルだが、パァァっと目を輝かせた。
「美味しい!」
「よかった」
「うん、紅茶とはまた違った感じだね」
マゼルがコーヒーも飲めるタイプでよかった。フェリだと多分砂糖を山ほど入れてもダメそうだしな。いや、お子様舌と言われてもおかしくない年齢だが。
「相変わらずヴェルナーはいろいろやってるなぁ」
「食い物が多いけどな」
「平和でいいじゃない」
マゼルの言葉に肩をすくめる。英雄なんて肩書を貰っちまったので、下手に何かやると王家に目をつけられるからな。せいぜい、バカなことをやっている程度で済ませておきたい。
俺は少しだけ酸味の強いコーヒーを一口飲みながらそう内心でため息をついた。とりあえずコーヒーを挽く器械とフィルター用の紙を作ってもらおう。うん。
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