いつでも君を

アイカツ蘭あお。あおいちゃんお誕生日祝いなssです。


-----------------------------------
「お疲れさまでしたー!」
「あおいちゃんお疲れ様ー。」

スタッフさんに挨拶をしてスタジオを出る。外はすっかり夜も更けていた。
ドラマの撮影もクライマックス。
今日は長丁場だったが、あと数シーンだからよっぽどのことがない限り明日がクランクアップとなるだろう。
あおいはふーっとため息をついた。その息が全て白くなって消える。
スタジオの中との気温差に思わず身震いしてしまう。
すぐそこに学園からの迎えのバンが停まっていたから急ぎ足で乗り込んだ。

「お疲れ様です。お待たせしてすみません。」
運転手に声をかけ、座席につく。
「いえいえ。霧矢さんも遅くまで大変でしたね。」
「今日は役者数も多くて殺陣もあったシーンでしたから打合せや調整も色々あって・・・」

当たり障りのない返答をしながら、なんとなく、小腹がすいたなと思った。
休憩中にお弁当は食べたけど、その後も長く撮影が続いたからだ。
寮に戻ったらココアでも飲もうか。
いちごは先日のステージの打ち上げでもちろんその時のドレスを作った
天羽先生におうちにお呼ばれして、まどかちゃんともっとお話ししたいから、
という理由で今日は天羽家にお泊り。
一人だし部屋にある食べかけのお菓子も気兼ねなく食べてしまおう。
そう思って、ふと彼女の顔が浮かぶ。
また甘いものばっかり、なんて言うだろうか。
代わりにこれ、なんて梅昆布茶でも差し出すだろうか。
そんな自分の想像に思わず笑ってしまう。

でもそんな彼女、渋い味覚の美しき刃、紫吹蘭がそう言うのを、
今日は聞くことは出来ないだろう。
蘭もまた、ファッション誌の泊りがけグラビアロケでお昼前には学園を出ているはずだから。
あおいは朝早く撮影に入ったから今日はお互いの姿を見ていない。
しかもここ最近、お互いに仕事が忙しくてすれ違ってばかりだ。前よりも更に。
寂しいと思う。

あおいと蘭は恋人同士だ。
付き合いだしてもう1年半になる。
けれど、寂しくてどうしようもないということはない、とも思う。

別に倦怠期という訳でもないし、蘭のことは大好きだ。
前よりも、むしろ今の方がずっと彼女を好きだと思うし、大切だと思っている。

恐らく、あおいの中で以前と「好き」のあり方が変わったのだ。
そう、例え離れていたとしても、ずっと一緒に側にいなくても、
好きだし大事なことに変わりはないということ。


以前の、いちごを好きだった自分ならきっとそんな風には思えなかった。

あの日、いちごがアメリカに行ってしまった日から、恐らく2週間くらいは
あおいは再起不能状態になっていた。
もちろん仕事に穴をあけるわけにはいかなかったから、現場には入ったが、
どこにいってもずっとうわの空。何とか周りの人がフォローしてくれて、
最低限のことだけが、やっと出来るような
今思い出すと恥ずかしいくらいに何もかもが駄目な状態だった。

それまであおいの中心にはいつもいちごがいた。
幼いころからいつも一番近くにいたし、アイドルになるのも、
アイカツをするのもいつも一緒だった。
もちろん、「霧矢あおい」がトップアイドルとして活躍することも大きな目標で、
今もそれは変わらないけれど、やはり以前のあおいはいちごがいるから
存在していられるような、いちごが原動力だったとつくづく思う。

好きな人の一番近くにいたい。いつも一緒にいてほしい。

それまであおい自身も気付いていなかったいちごへの気持ちだった。
思えば蘭と3人一緒の時も、無意識にいちごのことを優先していた気がする。
自分のアイカツはいちごへの恋情そのものだったのではないか。
離れてみてようやくそれが分かって、親友にそんな気持ちを抱いていた自分にショックを受けた。

いちごがいない喪失感といちごへの罪悪感と。

どうしていいのか分からなくなって、あおいは前に進むことが出来なくなった。
仕事でも授業でも、周囲の人にはかなり心配と迷惑をかけた。
しかし誰もがあおいを責めることなく、まるで腫物のように扱ったから、それが逆に辛かった。

そんな中、以前と全く変わらず接してくれたのが蘭だった。
本当に新入生でもしないような大ポカをやった時にちゃんと怒ってくれたのも蘭だし、
眠れない夜に一緒にいて話を聞いてくれたのも蘭だった。

最初はうまく自分の気持ちなんて話せなかったけれど、
蘭は変に聞き出そうとはせずに待っていてくれた。
だんだん、ぽつりぽつりと言葉を紡いで、思っていたことを、
誰にも言っていなかったいちごへの想いや欲望も、言葉に出すことで、随分整理できた。
まあ整理出来るまで、涙でぐちゃぐちゃになった情けない顔を思いっきり蘭に見せてしまったのだけれど。

それから半年して、あおいがすっかりいつもの「霧矢あおい」に戻って、
今まで以上にアイカツに力を入れ始めた頃、蘭から告白を受けた。
久しぶりにオフが重なった日だった。

会話の流れで、蘭が「仕事、順調そうだな」と言ったから、
蘭のおかげだと感謝の言葉を伝えた時だ。

「ごめん。」

蘭は何故かあおいに謝った。
あおいがきょとんとしていると、言いにくそうにもごもごしながら
目を反らして言ったのだった。

「・・・その、純粋に、あおいのことを親友として助けた訳では、実はなくて・・・
なんというか、その、下心なんだ・・・!」

「―—うん?」

「弱ってるところに付け入るなんて真似、よくないと思ったけど、見てられなかったし、
そんな時だからこそ、側に、いたかったから・・・
だからそんな、私のおかげとか言われたら何というか本当に申し訳ないというか・・・
その、だから、ごめん・・・。」

「えっとー、つまり蘭は私のことが好きなの?」

「う・・・あ・・・」

「顔、真っ赤だよ?」

「~~~っ!いっ、いっぱいいっぱいなんだ・・・っ!!」


蘭は耐えきれないというようにそっぽを向いて、ていうか、と言葉を続けた。

「気持ち悪かったらそう言ってくれ。もう近づかないし・・・」

蘭の、白く長い指先が震えているのに気付いて、気持ち悪くないし、
むしろそれを愛おしいと思ってしまった自分がいて。



――そして、今に至る訳だ。

そんな昔の思い出に浸っていると、すぐに学園に着いてしまった。
運転手にお礼を言って車を降りる。
この時間だと、もう中庭にも寮へ続く道にもほとんど生徒はいない。
時折向こうの方で誰かがランニングしているしているようで
アイ!カツ!アイ!カツ!という掛け声が聞こえてくるくらいだ。
あの声は中等部の後輩のあの子かもしれないと、アイドル博士らしく分析してみたり。


寮の部屋に戻ってきて、ココアを淹れた。
疲れたときにはやっぱり甘いものがおいしい。
その後、お風呂にも入って、アイカツフォンで明日の仕事のチェックと
色んなアイドルのキラキラッターをチェックして。

少しウトウトしてベッドに横たわった時だった。


ジリリリリリリリリリリリリリリリリリ


いきなり、けたたましく目覚まし時計が鳴った。


「きゃぁああああ!!!!」

夜遅くにも関わらず、驚いて思わず大きな声をあげてしまった。
なぜこんな時間に目覚まし時計が鳴るのか、訳が分からないと
軽くパニックになりながらも、とりあえず起き上がって止める。

時刻は0時ちょうど。
こんな時間に設定するはずはない。
今まで電池がなくなって鳴らなかったことはあれど、間違った時間に鳴ったことなんて一度もなかった。
更に言うと電池は最近変えたばかりだ。
怪訝に思って裏側を見ると、すぐに犯人が分かった。

小さな封筒が貼り付けてあった。紫色の蝶のシールで封がしてある。

大きくふーっと息を吐いた。

「あいつーどういうつもりなんだか・・・」

少しほっとしながらも、目覚まし音にあまりにも驚かされたせいで軽く悪態をつく。
蘭ってこんな変ないたずらするタイプだっけ?と首を捻りながら封筒をあけると
中から小さく折りたたまれた便箋が出てきた。

『あおいへ
まずは驚かせてしまってごめん。』

手紙は謝罪の言葉から始まっていた。
そして。

『でも今日、1/31に一番最初に伝えたかったんだ。
誕生日おめでとう。』

「え・・・」

思いがけないサプライズにさっき驚いた時とは別の意味で心臓が飛び跳ねる。

『それから、本当は手渡ししたかったんだけど、今日は仕事で泊まりだから、
この手紙と一緒に入れておきます。
そんなに高いものじゃなくて悪いんだけど、多分似合うと思う。』

封筒の中にはピンキーリングが一つ入っていた。
青い、恐らくイミテーションの石と銀色の小さな星のモチーフが付いている。
小指にはめるとぴったりだった。
胸の奥に甘酸っぱい気持ちがこみあげてきて、あおいはしばらくまじまじと指輪をはめた自分の手を眺めた。

蘭に電話をかけると3コール目でくらいで出てくれた。

「驚かせてごめん・・・。」

彼女の第一声はそれだった。

「ほんとにおだやかじゃなさすぎ!!思わず悲鳴あげちゃったから誰かが心配して部屋に来ちゃうかもしれないよ?どうするのよ?」

「あー。全然考えてなかった。もし誰か来たら謝っといてくれ・・・。」

電話口の声は本当にシュンとした声色だ。
実際、悲鳴を聞いて部屋まで訪ねてくるような子はいなかった。
近くの部屋の子はもうぐっすり眠っていたか蘭のように仕事でいないのかもしれない。
まぁ、あおいを驚かせたことへの反省は十分なようだからよしとする。


「こういうサプライズ、かえでちゃんでしょ。」

「うあー。あおいには何でもお見通しだな。そうだよ、相談した。」

「私に解けない謎はない!だってただの警視総監じゃない。」

「イケナイ警視総監だもんな。」

「ばっきゅーん!その通りー!」

他愛もないやり取りに思わずお互い笑ってしまう。



それから少し改まった声で蘭が言った。

「改めて、あおい、誕生日おめでとう。」

「ふふっ。ありがとう。」

「ちょっと、というかかなり驚かせてしまったかもしれないけど・・・
 でも、今日は一番最初に伝えたかったんだ。最初に私のこと考えてほしかった
・・・って何言ってんだろ。最後のは忘れてくれ・・・っ。」


「えー絶対忘れなーい。」

「いやほんと忘れて・・・」


クサイ台詞を言っておきながら自分で恥ずかしがる蘭。
いつものことだけど、やっぱりかわいいと思ってしまって顔がにやける。


「指輪ね、ぴったりだったよ。」

「そうか。ならよかった。」

「ありがとうね。帰ってきたらほんとに似合ってるか蘭にも見てほしい」

「うん。」

「ごめんね、明日も早いでしょ。そろそろ切るね。春物新作コーデの特集だっけ?」

「そうそう。撮影今日も寒くて死ぬかと思った。」

「風邪ひかないように気を付けて。」

「ああ。あおいもな。」

「うん。じゃあね。おやすみ」

「おやすみ」

電話を切って再びベッドに横になる。
小指のピンキーリングはまだつけたままだ。
というかきっとこのままずっと外さないとあおいは思う。
例え本物の宝石じゃなくても、青い石は部屋の明かりを反射してキラキラと輝いていた。


『今日は一番最初に伝えたかったんだ。最初に私のこと考えてほしかった』


さっきの蘭の言葉を思い出す。


「蘭は、馬鹿だよね。そんなの、私はいつでも考えてるよ。」

今日だって、ふとした瞬間に蘭のことを考えていた。
昔話を思い出したりもして。
いつの間にか考えているし、やっぱり好きなんだなと思う。

蘭が好きで、蘭を好きな自分自身も好きだと思える。

例え離れていたとしても、ずっと一緒にいられなくても、
寂しいんじゃなくて、苦しくなるんじゃなくて、心が温かくなるような、
そんな気持ちになれるようになったのは蘭と一緒にいたからだから。

彼女を思いながら、あおいは小指の青い石にそっと、唇で触れてみた。

powered by 小説執筆ツール「notes」

16 回読まれています