観葉植物
部屋に戻ると、見知らぬ観葉植物の鉢があった。
小学生が夏休みに持ち帰る朝顔の鉢ならいざ知らず、車も、タクシーに使う金もないようないい大人が、持って歩くようなものではない。
「なんか増えてませんか?」
部屋の隅で座布団に座り、稽古していた男は悪びれもせず、「あ、バレた?」と言った。
「そうでなくとも狭い部屋なのに、ものを増やすんなら、事前に聞いてください。押入れの中の小草若兄さんの服を減らすとか、先にすべきことがあるでしょう」というと、「なんや欲しなってしまったんや。」と拗ねるように兄弟子は言った。
「そうですか。」
気持ちはわからなくもない。
部屋の隅に置かれている観葉植物は、かつて師匠の部屋にあったものにそっくりだった。
拗ねた横顔を見つめていると、別に昔を懐かしいと思ってんのとちゃうで、と言う呟きが聴こえるようだ。
背の高い鉢植えを、鉢植えのようにひょろっとした男が、歩いてここまで持って帰ってくるところを想像した。
「部屋に置くのが無理なら、日暮亭に置いて貰えるとこないか、明日若狭に頼んでみるわ。」と言う言葉には(たまには物わかりのいい兄弟子になったるで)という虚勢が透けて見える。
とっさに「置いてもいいですよ。」と返事をしてしまった。
「ええんか?」
「……この部屋、殺風景ですし、ええんとちゃいますか。」
小さな嘘。
「オレもそないに思ってたんや。」
人の言葉の尻馬に乗ろうという男の鼻を抓んでやりたいような気持ちで「その代わり、水やりとかの世話はお願いします、ちゃんと日に当てないとあきませんよ。」と言うと、「小草若ちゃんに底抜けにお任せあれや〜!!」と言って、兄弟子は上機嫌で稽古の続きを始めた。
その声を聴いた平兵衛さんが「オマカセ!!」と一声、元気に鳴いた。
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