みつ"目"あい。
どくん、どくん。ちっちゃな心臓がおおきな鼓動を高鳴らせている、アタシの音かトレーナーの音かは分からない。もしかしたらどっちも…の可能性もあるけど、そこは重要じゃなかったんだ。
「なぁ…。キス、って…こんな雰囲気でいいのかな。」
ふと口に出てしまった緊張の言葉、それに対して優しく肯定する様にトレーナーが頷いてくれた。アタシを膝の上に乗せて、骨ばった腕で抱き締めてくれるオマエの姿が眩しくて眩しくて仕方が無い。
「…ありがとう、アタシも覚悟を決めたぞ。」
今からキスをするのだと決意を示す為に、トレーナーの首に両腕を回す。お互いに抱き合うことで必然的に距離も近くなって。その凛々しい顔が間近に迫ってくると、胸がどんどん熱くなってくる。キャロットマンのシリアスなシーンをテレビに張り付いて応援している時みたいな感覚。いや、それ以上かもしれない。
けれど、ここでうじうじしていたらダメだ。目を大きく見開いてトレーナーを見つめる。きっと、アタシの瞳にはカッコいいオマエの姿が映っている。大事な相棒をこの目で見据えたら、じっくりと、ゆっくりと顔を近付けて。緊張か期待か、目は閉じれなかった。
頬が紅潮する感覚を鮮明に感じながら丁寧に距離を詰めると、ぴとっ。トレーナーと鼻先が触れ合った瞬間、滑らかなリップ音と一緒に唇へと熱いものが走った。
…はっきり言うとその瞬間は一瞬だった。次々とライバルを追い抜き、後方から前方へ一気に駆け上がる電撃戦。ターフの上での決着よりも呆気なくて、切ない…そんな体感速度。
「……んっ。」
つややかな声を漏らしながらも唇を離す。何秒か、もしかしたら何分かもしれないけど…予想以上に短く感じられたファーストキスが終わりを迎えた。触れ合う時間が終わる事に物寂しさを覚えてしょんぼりと眉をひそめていると、トレーナーが耳を撫でてくれた。アタシを包み込む朗らかな手のひらがキスの熱を思い出させる。
「へへっ、これ以上のこともしたいけど…。それはもっと先のお楽しみ、だなっ。」
今は、ファーストキスの味に酔いしれる…この感覚だけでいい。
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