さあ手を鳴らして/山月(2024.4.27)
何十、何百と打ち合わせてきたてのひらだった。何千、何万のボールを打ち、弾いてきた、てのひらだった。お互いのナイスプレーの熱狂で、そのままぱぁんといい音が立つ瞬間が、俺はずいぶん好きだった。なんといっても、相手はあきらめすらしれっとした顔のままこなす男であったから。堪えきれない高揚に、ともすれば厭味にも取れそうな笑顔を浮かべる幼馴染だ。決まるはずだったスパイクに、あるいは取れなかった攻撃に悔しさを表出する相手を、にんまり見下ろすのが好きな俺の幼馴染だった。
触れたことならこれまで幾度となくあった。ものの手渡し、並んで歩く通学路、俺が勢い余って飛びついて邪険にされることも、もちろん。試合中に緊張する俺の背を気付かれないよう叩き、安心とリラックスを与えてくれるチームメイトでもあった。ともすれば一触即発になる同期他三名の手綱を握るのは知らぬ間に俺の役目になっていて、俺から間に割って入ったことも数えきれないほどある。よく飛びよく走りよく手を掲げるその身体は、俺が軽く胸板を叩くくらいではびくともしない。成長期とはいえ伸びる身長におそろしさをおぼえるほど。俺より上に視線があることが、俺の誇りですらあった。そういえば、初めて会ったときもこうして、地面に尻をつける俺をツッキーが見ていた。
「ほら」
長い腕が俺に向かって差し出されていた。手のひらはうわむき。わああと盛り上がる相手コートの盛り上がり。こちらにも讃える歓声は聞こえるが、それは俺たちの望んだものではなかった。いちど、飛びつかれてぐちゃぐちゃになった選手たちも、すぐにここを退かなくてはならない。わかっている。
ツッキーはしゃがまない。いっかなその腕が長かろうと、俺も手をちゃんと挙げなくては届かないところで、そのやわらかな皮膚が俺を待っていた。めまいがしそうなほどの疲労。とほうもなく重く、一歩も動きたくないと訴える足。いまだにじりじりと熱を持つ手首。
気力を振り絞る。俺のために天井を向くそこに、打ち下ろすように手のひらをぶつけた。ぱん、と鼓膜を揺らす小気味いい響きだ。体重を預ければ、強く引き上げられる。
「行くよ、キャプテン」
「うん。ありがと、ツッキー」
礼を言われるようなことはしていないって、逸らされる顔とあっけなく離れる指だけが、返答だった。
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