覚醒


もう寝てしまっただろう。
そう思って起き出すと、今の今まで寝息を立てていた彼は、すう、と覚醒して、暗がりのベッドの中で手を付いて彼の様子を伺っていた譲介の方へと手を伸ばした。寝つきが悪いにも程がある。寝室の暗がりで、こちらを見つめる彼の視線を感じる。
「……徹郎さん。」
譲介は、困惑した声を隠すことが出来なかった。
TETSUは、「寝らんねえのか?」と譲介の方へと手を伸ばす。髭が生えて来た顎に、彼の暖かな指先が触れる。
「いいえ。」と。譲介が諦めて目を瞑ると、「このまま寝ちまえ。」と譲介の瞼にも触れた。
その瞬間、ぐっと身体を引かれて、譲介は彼の胸の上に受け止められる。
「え、あ……、ちょ、徹郎さん。」
いつもの黒のTシャツ。固く弾む胸筋の上で、唇同志を触れあわせるだけのキスをしてから、彼は譲介の首筋に顔を埋めてふ、と息を吐いた。
吐息に含まれる熱。
腰から下を覆う柔らかなネルのパジャマに隠れた彼の股間は、布越しにも分かるいわゆる半勃ちという状態だ。それに気づいた時、譲介の身体の奥にも、新しい熱がとぐろを巻いた。
気づけば反射のように「あの……触っていいですか。」と口にしていた。
TETSUは、何だ、というように眉を上げてから、譲介が頬を上気させているのに気づいて、小さくため息を吐いた。
「朝にはおさまってる。」
あくまで譲介を寝かしつけようとする、後頭部の髪を撫でる指先が妙に優しく。この人のこうした振舞を知っているのは譲介だけではないような気がして胸がきしむ。
「でも触りたいです。」
性交渉、という単語がふと頭に思い浮かぶ。もしくは、ただの交渉。
掠れた囁きに含まれる譲介からの欲の気配に、彼は気づくだろうか。
性交そのものを許される前段階のところで、彼の赦しを待って譲介は足踏みしている。
譲介は、ほとんど彼しか知らない。童貞を捨てるために寝た相手はいないではないが、欲しいと思ったのは後にも先にも彼ひとりだ。柔らかいわけもない胸の上、肌に直に触れたいところを、いつものTシャツの上から鼻先を擦りつけて食い下がると、TETSUは大きなため息を吐いて譲介の肩に触れ、暖かな身体の上から押しやった。
「……終わったら寝ろよ。」
譲介という重しがなくなった彼は、ずるずるとヘッドボードの近くにずり上がって、パジャマのズボンを下ろした。
「え、」
もう寝ろ、と後頭部を叩かれるのがせいぜいだと思っていたのに。
いいんですか、と聞いたら、せっかくのチャンスが逃げてしまうだろうことは分かったので、譲介はもう一度口づけて彼に触れた。

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