2023/10/26 ポテトサラダ

「軽く飲もうぜ」

 と、カインが言い出したのは秋も深まってきたころだった。イデルバを旅立ち、三人旅にもぎこちなさがようやく取れてきたころの話だ。
 とある島に立ち寄った三人は、宿がないような長閑な村に滞在していた。滞在中の宿を提供してもらい、日中は畑仕事を手伝うことになった。数年前に出稼ぎに出たという息子が使っていた納屋に近い小屋で、狭いんだけどとラインハルザを見て老夫婦はすまなそうに言ったが、軍で雑魚寝にも慣れている三人には夜露をしのげればさほど問題はなかった。
 ベッドは女性であるレオナに譲る――ちなみに彼女は最後までカインに譲ると渋っていたが――二人は備え付けられた暖炉の前で毛布をかぶって過ごしている。次はもうちょっと温かいとこ行こうぜ、とはカインの希望である。

「いいぜ、何か摘まむものを作るか」

 ラインハルザはそう言って、日中分けてもらった食材の入った籠を覗き込み、ジャガイモとタマネギを取り出す。
 さほど凝ったものは作れねぇが。と、言いながらも暖炉の火に水を張った小さめの鍋を置き、ジャガイモを放り込んだ。ジャガイモを茹でている間に薄切りにしたタマネギに塩を振っておく。
 ジャガイモが柔らかくなったら鍋から水を捨て、カインに「そのまま適当につぶせ」と、自分のフォークを差し出した。大柄のドラフ用のフォークはカインにとってはかなり大きい。愉し気に皮ごと潰したそこに、出てきた水気を絞った玉ねぎを混ぜ込み、さらに混ぜ合わせてもらい、最後にマヨネーズを入れ、胡椒を荒く砕いて振りかけた。

「シンプルだけど美味そう」
「だな」

 ウキウキと蒸留酒のビンの封を開け、カップに注ぎ込む。ふわりと花の香りに似た芳香が鼻先をくすぐった。

「変わった香りだろう?」

 ラインハルザの表情に気が付いたのか、カインが目を細めるように笑うと自分のカップにも酒を注ぐ。なんでもこの島固有の花の花粉や蜜を使って発酵させているらしい。アルコールはさほど高くはないが、コクがあり飲みやすい酒だとか。

「うん、うまいな」
「あぁ」

 一口飲んだカインが呟くと、同じようにカップを傾けたラインハルザも頷く。パチパチと暖炉の火がはぜる音と、昼間の話をしつつつまみをつまみつつ酒を飲む。この島から船が出るのは一週間後。島には他にも村があるそうなのでそちらも回る予定だ。きっとそこでも何かしら騒動が起きるのだろうなと、ラインハルザは半分あきらめとともに確信している。ちなみにこの村で農作業を手伝うことになったのは、老夫婦の夫の方がぎっくり腰で倒れているところをカインが見つけたからである。おかげで今晩の宿が見つかったのだから良しとするべきだろう。

「あ~~~二人だけでずるい!」

 そうこうしているうちにレオナが気配で起きてきたようだ。頬を膨らませている様子にカインが苦笑いを浮かべ、ラインハルザがやれやれとため息をついた。

「レオナが食うほどの量はねぇぞ」
「なんかあったかなぁ」
「もう二人とも!」

 干し肉とドライフルーツならある。と言うカインに何か作れるものはあるかと考えるラインハルザ。そんな二人の間に座るレオナは、カインが差し出すカップを受け取ったのである。


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旅の途中なのでグラスではなくカップです。
コーヒーも酒もお茶もみんなこれで飲む感じ。

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