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重音テッド×氷山キヨテル
過去に書いたテッド誕生日記念SS


 十月四日。その日は重音テッドが歌声(こえ)をあげた日。いわゆる誕生日である。
 しかしテッドにとって誕生日などたいして意味のないものだった。片割れであるテトや同胞とも言えるルコ達だけで過ごすのならまだいい。だが仕事でしか付き合いがなかったり、そこまで親しくない女性達と“誕生日パーティー”と称して大勢で馬鹿騒ぎをするのは、人付き合いが苦手なテッドからすればこの上なく面倒でしかなかった。
 そんな一日が三年くらい前から変わっていった。氷山キヨテル――彼はテッドにとって面倒でしかなかった誕生日を心から喜べるような誕生日に塗り替えていった。
 付き合って初めての誕生日。キヨテルは決して豪華とは言えないけれど、とても手の込んだ料理を作ってくれた。二回目の誕生日はお揃いのマグカップを。三回目の誕生にはいつも似たようなネクタイをしてるテッドに「たまには違うものを」と赤いチェック柄のネクタイをくれた。どれも高価なものではないが、キヨテルが自分のために選んだと思うと今まで感じたことのない幸福感でいっぱいになった。
 こうしてテッドは誕生日を祝われる幸せを知ったのである。
 そして二人で迎える誕生日は今年で四回目になった。






「おはようございます、テッドさん」
 誕生日当日。寝起きのままリビングに姿を現したテッドを迎えたのは、花を抱えた笑顔のキヨテルだった。
「おはよ。キヨテル、その花……」
「テッドさん、今日お誕生日でしょう? だから、はい。お誕生日おめでとうございます」
「ん、サンキュ。……この花、なんていうんだ?」
「ステルンベルギアです」
「ス、ステルン……?」
「ステルンベルギア。ヒガンバナ科の花でちょうど今の時期に花が咲くみたいですよ」
 ふーん、と感心しながらテッドはキヨテルから花を受け取る。鉢に植えられたその花は二十センチほどの大きさで、鮮やかな黄色の花びらが印象的だ。花についての知識も興味もないテッドだが、キヨテルがくれたその花は素直に綺麗だと思った。昔は花を見て綺麗だと思ったことなどなかったのに自分も随分変わったものだ。きっとこれもキヨテルのおかげだろう。
「気に入りました?」
「あぁ」
 テッドが花を気に入ったことで安心したのか、キヨテルは「良かった」と安堵の色を浮かべた。
「お前がくれたんだから喜ばないわけねぇだろ」
 そう言うとテッドは手に持っていた花を近くのテーブルに置き、見上げてくるキヨテルを抱き寄せ、そっと頬に唇を寄せた。
「その花、テッドさんの誕生花なんですよ」
「誕生花?」
「生まれた月日にちなんだ花のことです。定義が曖昧で文献によって誕生花が違ったりするんですけどね」
 へぇー、とテッドは本日二度目の感嘆の声をあげる。誕生花ということは誕生石のように何か意味がるのだろうか。
「それで、この花に何か意味はあるのか?」
「意味……というか、花言葉ならありますけど」
「どんな?」
 テッドは気になった。キヨテルがくれたこの花にどんな意味が込められているのか。しかしそれを聞いた途端、キヨテルの顔が赤くなり、まるでテッドから逃げるように視線を外した。その姿を見て逃がさまいと思ったテッドはキヨテルの腰に回している腕に力を込め、ぐっと自身の方に引き寄せるとキヨテルの弱点である耳を甘噛みしながら徐々に彼を追い詰めていく。耳を責められもう逃げられないと悟ったキヨテルは、戸惑いながらもゆっくりと口を開いた。
「あの……ステルンベルギアの花言葉はですね……」
 そうしてまるで内緒話をするようにテッドの耳元でステルンベルギアの花言葉を教える。
「……そういう意味があんのか、この花」
「他にも花言葉はありますけど、僕はこれが一番好きだなって……」
 テッドは顔を赤くして俯いてるキヨテルの頭を撫でる。彼がこの花を選んだことも、この花の意味を考えるとどうしようもなく愛おしかった。
「キヨテル」
「はい?」
「ありがとな」
 テッドはありったけの感謝と愛情を込めて、キヨテルに優しいキスを贈る。
 二人の甘い一日はまだ始まったばかりである。

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