ルーシル2


 その日、フィエルテは民衆に混じって『観劇』を観に来ていた。
 観劇といっても本当の観劇ではない。それは公開処刑を意味する。人々がそれを娯楽とするなら、『観劇』さながらではないか。
 とはいえ、フィエルテは娯楽のためにここに来たわけではない。道中で何やら騒がしく感じ、目線の先に断頭台の姿を見出したためこれから何が行われるかを察しただけだった。
 いささか趣味が悪いような気もするし、観たいと思っていたわけではなかった。だが立ち止まっていたら民衆の波に飲まれ自分も『観客』とならざるを得なかった。
 処刑台の上に凛として立つ死刑執行人の姿を見た。
 「(あの方が処刑人…? 俺が想像していた姿と随分違うな。もっとおぞましい人間かと思っていたが)」
 死刑執行人は誰がどう見ても若さを感じる男だった。ところどころ外向きにはねている赤髪が特徴で冷淡な目つきをしておりまるで動じない。フィエルテと同じ歳くらいだろう。周りの人々は「貴族のようだ」とすら比喩している。その言葉を耳にして妙に共感した。
 「(若いのによくやるな……)」
 思いを巡らせている間にも死刑は速やかに執行された。重い刃が落ちていく瞬間を見た。死刑執行人が高らかに罪人の首を掲げたが、その光景を見る前にフィエルテはその場を後にした。

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