二千文字

 初夏。教室の隅で、霧ヶ峰が机の上のハガキと睨めっこをしていた。
 俺が挨拶をすると彼女は困った顔でこちらを向いた。

「ハガキなんか珍しい、俺なんか年賀状くらいでしか見ねーぜ、それ」
「いやあ、隣の県に進学した友達に連絡を取ろうと思ったんだけど、その人。スマホ持ってなくてね。せっかくだしここは古風に手紙を出そうと思ったところなんだ」
「ふーん、で、何を悩んでるわけ?」
「内容はかけたんだけど、表書きの割合が難しくて……」
「ああ……うちの県住所なげーしな」

 俺はそう言って彼女が鉛筆の先を載せているハガキに目を落とした。霧ヶ峰は”ある一点を除いて”、慎重な性格をしていると自他ともに認めているところだ。したがって、彼女はハガキに住所を書く前に鉛筆で下書きをしていた。だが俺たちの住んでいる町の住所は長い。
 
『前立腺引き摺り出して直接握る県お母さん(ふたなり)にオナホプレゼントしたら今日だけアナルの栓抜いてくれた市おまんこほじり放題町おまんこ』

 ハガキには丸っこく読みやすい字で住所が綴られていたが、それでもハガキの半分程度は住所で占領されている。
 相変わらず、俺たちの住んでいる町の名前は長すぎる。

 ……なぜこんなにも住所が長い?おかしくないか?

 直感に心臓が居心地悪そうに早鐘を打ち始めた。

「なあ」
「何だい黒潮さん?」
「俺たちの隣の県って何県だっけ?」
「長野県だよ黒潮さん」
「じゃあその逆の位置は」
「そりゃあ栃木でしょ、黒潮くん都道府県忘れちゃったの?」

 聞けば聞くほど、目眩の時のような気持ち悪さが脳を揺らし、吐き気がすぐそこまでせり上がっていくのを感じる。

「ここは群馬県……」
「グンマ……?どこそれ」

これは俺への罰なのか。

「ハァーッ!ハァーッ!」
「く、黒潮さん!?」

 俺は『いつもやっているように』ポケットからスマホを取り出し、画面を顔に向ける。ロック解除失敗。
 どれだけ酷い顔をしているのか、自分の顔をポンコツが読み取らない。ロック解除失敗。失敗。成功。
 俺は画面が割れるのではないかというくらい力の限りに画面をタップし、画面右上の催眠アプリを開く。
 そしてその画面を『自分に』向けた。

「この町は普通、この国は普通、この世界は普通……!」
「またそのアプリ……?黒潮さん電子ドラッグは体に悪いよ……ジャンキーの僕が言えた義理じゃないけど。おまんこほじろうか?」
「ううん……大丈夫だよ霧ヶ峰さん、おまんこは触って欲しいけど」
「辛い時は無理しないで言ってね黒潮さん」

 催眠アプリによる催眠で落ち着きを取り戻した俺は、イボ付きの指サックを取り出してみせた黒潮さんのありがたい申し出を丁重に断り、自身の席に座って息を整えることにした。自席の机の木目を見つめていると脳内がダブルシンクを再開し、思考がもやを取り戻していく。霧ヶ峰さんは遅れてきた友人たちと談笑を始める。


「霧ヶ峰〜、新しいタトゥー思いついたから放課後マンコに掘らせてくれよ〜」
「やあキリマンジャロ、またかい?いいけど絵は上手になったんだろうね?」
「おうともよ!前より惨めな見た目にしてやるぜ」
「楽しみにしてるよ」

 霧ヶ峰の格好を見る。

 ボーイッシュでシュッとした顎のラインの下には名は体を表すといって差し支えない巨乳。
 乳首が㊙︎マークのニップレスで隠れているが、その中心からは大きな乳首がピンと立っており、それぞれの乳首には黄金の串が刺さっている。
 その下には巨乳に強調されたスレンダーな腰つきと、それに不釣り合いな妊娠線の跡がアンバランスに設置されている。
 そして、大きく開いた股にはおまんこと竿のないたぬきの置物みたいなでけーキンタマ。
 
 霧ヶ峰は世にも珍しい『竿なしのふたなり』であった。
 この、過剰な性欲によって自ら人権を放棄した、生まれながらの惨めではしたない、おまんこマゾ奴隷は、自身の人生を閉じる汚らしいモチーフのタトゥーを入れる約束をこともなげにすると、他の学生と同じように自席で静かにディルドオナニーをして始めた。

「ヴィーン」
電動持ってきてんじゃねーよ。


(この世界は地獄だ……)

 『自分が考えた設定通り』、マゾビッチと化した霧ヶ峰はその気の狂った様子を誰に憚ることなく見せ続けている。
 
「ウギイィぃぃ!」
「うわっ漏らした汚ねえ!」

 霧ヶ峰はちょっと目を離したスキに、前の席のヤンキーにディルドがうッせーんだよ、と因縁をつけられていた。
 キンタマを握られてうっとりと泡をふきながら苦痛にうめき、周囲にギャハハハハ、と嘲笑われている様子を見た俺は。

 「あれ、黒潮くんもう大丈、ぶげっ!?」
 「うわっ黒潮くんそれはやり過ぎじゃない?頬骨にヒビが……」

 自身の性欲を暴力で発散することにした。悲しいほどに俺も地獄の一員であった。




 ここ、『お母さん(ふたなり)にオナホプレゼントしたら今日だけアナルの栓抜いてくれた市立服装マジで自由高校』はこの近辺で唯一まともな学校生活を送れることで(恐らく転生者の間で)有名な学校であり、ついでに私服登校が可能な数少ない市立高校だ。かくいう俺も自分で隣の高校の制服から局部の空いている部分だけを縫い合わせて作った『逆に校則違反制服』を来ているが先生たちに何か言われたことはない。

 

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