2024/03/28 05.UNION JACK

「だめだ、いったん解散! 頭冷やそう」

 休憩! と、パーティリーダの言葉にそれぞれ頷いで解散してログアウトする。

「っあ゛ー!!」

 バイザーを外して、眉間を揉みながらうめき声をあげ、固まった体をほぐすように体を伸ばすと、ベッドから起き上がった。そのままキッチンへと行き、棚をあさってそれを取り出す。気分を入れ替えるためにもちょっといいものが飲みたかった。
 たしか、同僚がイギリス出張の際に土産として買ってきてくれた紅茶だ。上品でオーソドックスで、毎日飲んでも飽きない味である。それをやや丁寧に入れる。立ち上る香りにささくれ立っていた神経が落ち着いてくる。

「――――、今大丈夫?」
「あぁ」

 そこに通話が来たので応える。今回パーティを組んでいる一人だ。現在挑戦しているのは、とあるダンジョンのボスである。すでに新ダンジョンの追加が発表されており、それに伴いそのボスはナーフされることが決まっていた。で、クランのメンツの一部がナーフされる前に倒しておきたいというので、予定を合わせて参加しているんだが――。
 もう三回連続凡ミスで失敗している。先ほどはラストフェーズまでいっての失敗なので、疲労感が酷い。

「役割が上手く回ってない感じだよね~」
「見直すか?」

 すでにクリア方法が周知されているような相手だ。あとはそれに合わせてそれぞれの役割を確実にこなせばいい。――のだがそうは問屋が卸さないというかなんというか。イレギュラーなことやらかす奴がちょいちょいいるからなぁ。
 今回の参加者はそれの辺踏まえても楽しめる連中だが、さすがに三回連続オツは心に来る。ギスギスオンラインになる前にリーダーが休憩を言い渡したってところだな。
 紅茶をすすりながら相手とあれこれ話していると休憩時間の終わりを伝えるアラームが鳴った。

「それじゃそういう方向で」
「わかった」

 通話を切り、紅茶を飲み干す。ベッドに横になってバイザーをつける。さて、今度こそ倒しに行きましょうかね。




 ――という思い出がある茶葉が再び私の手にやってきました。異世界をやる二つ前ぐらいのゲームだったはずだな。あれは。あの後、一回失敗したが、その次に何とか倒し終わったんだったな。今のレオの中の人が奇跡を起こし、予期せぬ挙動を引き起こすというおまけつき。もちろん運営にはメールし、ナーフついでに修正されたそうだが、その時の討伐記録は取り消されなかった。

「ふふ」
「何、思い出し笑い?」

 やーらしい。と、ペテロに突っ込まれ、そんなことないと返す。クランハウスで待ち合わせ時間のため、お茶をしているところだった。お茶請けはミルクの代わりに生クリームを使った濃厚な味わいのスコーン。コクがあり、しっとりとした食感はなかなかだ。
 ジャムもいいが蜂蜜がいい。それを飲み込んで、昔のゲームを思い出しただけですと、そのゲーム名を口にすると、ペテロが「あー」とうなずく。あの時の攻略チームにはペテロもいたな。私とペテロ、お茶漬が攻略済みだったんだか?
 ペテロもまた思い出したのか「ククッ」と笑う。そうだな、笑うしかないよな。

「あの時はきつかった。けど、笑った」
「最後ひっくり返ったもんなぁ」

 レオが見つけたのはとある特定行動をすると、ボスがひっくり返って元に戻れなくなるというバグだ。しかも攻撃がこっちに来ない。もちろん全員でたこ殴りにしましたとも。ラストはヒーラーもげらげら笑いながら殴ってたもんな。

「結局あれ、検証したんだっけ?」
「お茶漬はしてたと思うぞ?」

 私は知らんが。と、言いつつ気になったのでお茶漬に聞くと、「ラストフェーズで敵に向かってハイジャンプをかけるとひっくりかえる」らしいとわかった。

「ハイジャンプって緊急回避スキルだよね。敵にかけられるんだ?」
「いやそもそもなぜかけた」
「レオだし」

 うん、まぁ、それを言われると何も言えない。私とペテロは顔を見合わせると首を振ってそれ以上その話題を忘れることにしたのだった。

「そろそろ行くでしよー」
「次がボス部屋だな!」

 菊姫に促され、動き出す。レオが言うように次がボス部屋だ。気合を入れていこう。

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