24. シエラザード 風に舞う砂(たたうら)
「砂の海だ」と、初めて見る砂漠にマゼルが呟いた。
内心でルゲンツたちも同意する。口に出さなかったのは、口をひらけばたちまち砂が口の中に入ってくるからだ。
現在勇者一行は砂漠の地に来ていた。中心に古いダンジョンがあるらしく、そこに前勇者の所縁のものがあるというのだ。
「行きましょうか」
ラウラが念入りに顔を覆う布を押さえながら言えば、それぞれも頷いた。
肌はできるだけ隠すこと、水はすぐに飲まず、しばらく口に含んでからゆっくりと飲むこと。日焼け止めはこまめに。
付近の村で聞いた注意事項を確認しながら歩く。
「ほーそこまで行ったのか」
無事に戻ってきたマゼルがヴェルナーに話すと、彼は何かを考えながらうなずいた。
「それにしてはあまり焼けてないな? そんなにすごい日焼け止めなのか?」
「そんなに量がなくてね。ラウラやフェリに優先して回したのもあって」
ルゲンツなどは女じゃないから日焼けは気にしないなどと言っていたが、本音はそんなところだろう。それを聞いたヴェルナーが顔をしかめる。
「重度の日焼けは火傷と変わらないぞ?」
「みたいだね。でもそこまで行くと逆にポーションがきくんだよ」
「あ~~~」
苦笑いするマゼルにヴェルナーも半笑いを浮かべる。
「実際、夜はヒリヒリして眠れないぐらいいたいしで、もったいないとか言ってられなかったよね」
「勇者も音を上げる日焼け、怖いな」
「ね」
クスクスと笑い合いながらマゼルは紅茶をゆっくりと飲み干した。
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