もう帰らない土地へ - デプ/ウル
どこぞの星のどこかの森は不思議に木々が灰色で、風はのろく重力を纏って吹いているようだった。切り立つ崖に据えられた趣味の悪いビルの屋上からは歪な地平線がよく見えたが、鬱屈とした灰に囲まれているせいか気分は晴れるよりも牢獄に囚われたように塞がれる風情がした。
ビルの外壁に沿って組まれた足場はところどころに錆びて、片方掛け金の外れた部品が風に揺れて音を立てている。重たい風はいっそう重たく、不意に背中を押すように背後を横切り、一瞬、そのまま前に倒れる自分の姿が風と一緒に脳裏を掠めた。
名前のわからないこの土地を、ずっと胸に抱いていた気がした。初めて来た宇宙の土地に覚える感覚ではないかもしれない。だが他に表しようもないほど、そこはよく知ったかつての居場所だった。
「そんなとこにいたら危ないよ、ローガン」
控えめな忠告が肩を叩いて、声よりも確かな手が腕を引いた。振り向くと、マスクを脱いだウェイドが奇妙な笑みを浮かべて立っている。腰掛けていたキャットウォークが鈍い音を立ててウェイドのいる方へと傾く。
「……手を貸せ」
「喜んで」
グローブ越しに結んだ手が、揺るがなく体を引き上げて世界をまたぐ扉へ俺を招く。
"ここ"を離れられる日が来るとは思わなかった。誰かに心を配られることは、二度とないと思っていた。誰かの手を取って歩き出せる日が訪れるなんて、思ってもみなかった。
「早く帰ろう。こんなとこで楽しく生き延びる話はアンディ・ウィアー以外には書けないから」
「違いない」
歪んだ地の果てには、赤い陽が昇り始めていた。
@amldawn
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