「幸福を告げる」

今日は、特別な日。
お母さんからこの時間には帰ってきてね、と告げられ、了承して家を出る。
庭の花たちにも行ってきますをする。私がいない間、お兄ちゃんが必死にお世話してくれたお花たちは、今年も色とりどりに揺れている。


タナカ先生に会いに行った。
今でも月1で通ってはいるけど、今日はいつもの検診じゃない。
私のためにわざわざ時間を空けてくれた先生は、大きくなったねと涙ぐんでた。
そして、私のためだと言って、小さなネックレスをくれた。他の人には内緒だよ、って。
ありがとう、先生。きっとまだお世話になっちゃうだろうけど、先生にはいくら感謝しても足りないよ。


ヤマダさんの家にも行った。
ムギちゃんを思う存分なでて、とろろちゃんに手を合わせた。
今もこうして快く中に入れてくれるヤマダさんとは、色んな話ができるほど仲良くなった。今日がなんの日か伝えると驚いて、また今度来たときにデザートを出してくれると言ってくれた。そして、アルバムに入っている、私のお気に入りのとろろちゃんの写真を一枚、プレゼントしてくれた。
こんな大切なものいいんですか、と慌てると、データ自体は残ってるからねと笑ってた。
とろろちゃんの写真を見てると、にゃーと声が聴こえてきそうだった。
大切に、ずっと大切にします。


あの河原にも行った。
未だに水切りはできないけど、いつかお兄ちゃんをビックリさせるんだ。
私はいつも、ここで釣りをするのが大好きだったという、お父さんにも思いを馳せる。
──お父さん、私、お母さんとお兄ちゃんのおかげで、今も生きてるよ。大変になっちゃってゴメン、はもうあの日たくさん伝えたから。また言うとお兄ちゃんデコピンしてくるの。だからもう言わない。その代わり家のお手伝いとか頑張ることにしてるんだ。
お兄ちゃんは、今もお父さんとの約束を守ってくれてるよ。私のことも、お母さんのことも、大事にしてくれてるのがすごく伝わってくるんだ。
──あ、そうそう、お兄ちゃんったらこの前彼女さん連れてきたんだ!とっても可愛くて優しい人でね。私とも仲良しになったんだ!ふふっ、私との約束も叶えてくれるかなぁ?
……そろそろ帰らなくちゃ。お母さんとお兄ちゃんが家で待ってる。


「……ただいま。」
「お、おかえり。時間ピッタリだな。」
「お兄ちゃんこそおかえり。お仕事忙しいのに早く帰ってきてくれてありがとう。」
「俺がこうしたくてこうしてるの。ほら、もう母さんそわそわしてるから、手洗いうがいしてこい。」
「うん!」


今日は、特別な日。
迎えるなんて思ってなかった、20回目の、私の誕生日。
「じゃ、改めて。」
「「お誕生日おめでとう、成人おめでとう。ミツキ」」

私は今日も生きている。
生きて、愛してくれる人がいる。愛する人がいる。
当たり前だけど、当たり前じゃない。
普通とは少し違うんだと思う。
でも、生きている。

「──ありがとう!」

……お兄ちゃん。私は今も、幸せだよ。

powered by 小説執筆ツール「notes」

29 回読まれています