2023/11/28 24.白桃煎茶

「あ」

 久しぶりに【ストレージ】の整理をしていた。制限がないものだからやたらめったらいろいろ放り込んでいるのでたまには整理しないと自分でも忘れているものがですね。
 今もそう言ったものを見つけたばかりですしね。




「今日のケーキは桜の葉っぱの塩漬けとクランベリーです」
「だいぶ季節外れだね」
「【ストレージ】の肥やしになっていた」

 ペテロの庭の庵にて、茶請けにと出したものにペテロが首をかしげた。まぁそれはそうだ。以前、ペテロと扶桑の花見をした時に【採取】したものを加工したものだしな。

「ん、塩気が緑茶によく合う」
「よかった」

 ほう。と、それぞれ一息をついたところで、ペテロが「さて」と口を開いた。思わず身構えてしまうのは思い当たるところがあるからですね。

「どうしてこうなった」
「遺憾の意」

 私は無実ですよ! と、全身で主張しつつ憮然と返す。先ほどまでペテロの暗殺クエストにいっしょに行ってきたのだ。たまにあるペアで受注するもので、今回はアイルの貴族が開く仮面パーティに参加して、そこでひそかに取引されているという麻薬のバイヤーを見つけるというものだった。
 暗殺者とは? とは思ったが、それはまあいい。それ自体はさほど苦労しないで見つけられたのだが、問題はそのあとだ。
 なぜかその、バイヤーだけではなく、黒幕ともいえる薬の作成者たる錬金術師まで捕まえてしまったのだ。ちなみに私はそいつがそうだとは気が付かずに暢気に会話してました。だから私のせいではないです。

「まぁ、依頼人は喜んでたみたいだし、結果オーライだね」

 今回の依頼人は、そいつがばらまいていた薬物の中毒になって自殺した男の恋人だったとか。今回のパーティではさらに中毒性を強めた薬が売られていると聞いていても立ってもいらず暗殺者に依頼したという。警察、と言うか、憲兵ではなかったのは貴族が関係していると思ったからだとか。実際、主催者もグルだったっぽいしな。

「実物も手に入ったし?」
「作るなよ? まぁこちらも解毒剤と言うか、中和剤の作成依頼が薬士系クエストで出てるな」
「作りませんよ。毒じゃないし、スキルが足りない」

 ペテロが肩をすくめる。スキルが足りてたら一回ぐらいは作りそうだな。
 麻薬は煙状にして使うもので、吸い込むと酩酊状態になる効果がある。暗殺にも確かに使えそうではあるな。
 私の方は中和剤の作成自体はスキルが足りているので難しくはないだろう。私の【調合】の得意は【状態回復薬】【予防薬】【丸薬】だしな。

「そういや、最後に黒幕に何を言われてたんだ?」
「ん?」

 そう言えば。と、思い出す。最後にペテロに気絶させられる前に何かを呟いていたようだったのだが、何を言っていたんだろうか。
 尋ねた私に、ペテロが何とも言えない顔をした。

「あ~~なんて事のない、ただの負け惜しみだよ」
「ふーん」

 ペテロの口調になんとなくごまかしているような引っかかりを受けたが、深く突っ込まなかった。あまり口にしたくない罵倒だったのかもしれないしな。
 私がそう言って頷いて引き下がったのを見て、ペテロがほっと息をつく。うむ、気にはなるが仕方がない。重要なことならいうだろうし、案外暗殺者系の謎が関係していたのかもしれないな。




 気にはなるのだろうが、引き下がってくれたホムラにほっと息をつく。捕まえた黒幕の錬金術師は、麻薬で人が壊れていく様子を「美しい」と感じる変態野郎だった。そいつが目を付けたのが寄りにもよってホムラだったんで、私が気が付いた。
 ホムラ自身は気が付かずに暢気に話していたが、私の眼はごまかせない。それで注意していたら、そいつが不穏な動きをし始めたのでとっ捕まえビンゴだったっていういう。こういうのも怪我の功名と言うんだろうか。
 ともかく、気を失う瞬間にそいつが言ったのは大したことのない戯言だ。

 ――お前も、キレイなモノが見たいんだろ?

 そう、戯言だ。ホムラが綺麗なのは、好きなことをして、生き生きとした姿だ。まぁ、私の腕の中でトロトロになっている姿も綺麗だけど、そこに麻薬なんて無粋なものは必要ない。
 私はそう内心で吐き捨てると、手に入れた麻薬を部屋にあるチェストに放り込んだ。

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