2023/11/09 おしろいはな

「ヴェルナー、パウダーフラワーって知ってる?」
「パウダーフラワー? あれか、麻痺の効果のある攻撃をしてくる花タイプの魔物だよな?」
「そう、それって何かあるの?」
「ん? どういう意味だ?」

 ちなみにゲームでのビジュアルはあの音でくねくねと踊る花の玩具みたいな感じだったはずだ。実際の姿はもう少し魔物寄りの姿であんな愉快なものではなかったんだよなぁ。
 マゼルの話を聞いたところによると、俺が出なかった授業で魔術科の女子生徒がもうすぐ季節で楽しみだという話をしていたらしい。が、俺もわからんので、こういうことはドレクスラーだ。
 女子生徒の噂話に詳しいということもあるが、魔物の討伐隊の経験もあるので俺の知らない話も知っているだろう。と、思ったのだが正解だった。

「あぁ、あれだ。パウダーフラワーの種が貴族女性のファンデーションの材料になるらしい」
「へ?」
「ほー」

 その種が爆発すると粉塵が上がり、その粉を吸い込むと麻痺してしまう。だがうまく種だけ回収できると、その中につまっている粉を加工してファンデーションになるらしい。おいおい、麻痺毒になるの大丈夫なのかよ。と思ったが、結構古くから使われているそうだ。

「んで、その回収するにはパウダーフラワーを眠らせる必要があるんで、この時期ギルドには眠らせ要員の魔術師がよく募集されてるんだとよ」

 眠り粉を使ってもいいが、その分報酬が減ってしまうため、元手のかからない魔術師が人気なのだそうだ。ついでに、参加すると少し分けてもらえるとかで、女子生徒に人気なんだそうだ。
 あれだ、小学校のころに種を潰して遊んだオシロイバナみたいなものか。前世のオシロイバナの種の中身はおしろいには使えなかったが、この世界のは使えるんだな。

「加工自体は学校の設備で出来るんで、そっち方面の生徒もこの時期人気だぜ」
「へー」
「なるほどな」

 さすがドレクスラー。と言いながらそれでその時は話が終わった。
 それからしばらくして、マゼルが魔王討伐に向かった後、たまたま王都に戻った時の土産と持ってきたのがパウダーフラワーのいや、さらにその上位種の種だったわけだ。

「これは、王族御用達ともいわれているダンシングフラワーの種!!」

 驚愕しているお袋には悪いが、頭の中ではサングラスをかけたシャカシャカ動く陽気な玩具でいっぱいになった。ちなみにゲームではパウダーフラワーの色違いグラフィックだったはずだ。
 思わずラウラに視線を向けたが、神殿育ちの彼女はいまいちピンと来ていないようだ。そう言えば、ラウラもリリーもすっぴんだよな? 元村人だったリリーはともかくラウラはすごいの、か? いや、ポーションって肌荒れに効くんだろうか。なんてどうでもいいことが脳裏をよぎる。
 ともかく土産はお袋のツテでファンデーションになってリリーにも分けられるそうだ。

「いいのでしょうか、そのようなものを」
「マゼルからの土産だし、受け取っておきなよ。今から練習だと思って」

 練習素材が最高級なのはどうかと思うけど。気になるなら普通のファンデーションを買ってもいい。が、こういうのって男から贈っていいのか? 全く未知の領域すぎてわからない。

「その、ヴェルナー様はお化粧をした方がいいのでしょうか」
「いや、しなくてもリリーは綺麗だとおも、う」

 思わず素直に答えた俺は、真っ赤になったリリーに思わず声が細くなる。自分の頬が赤くなっているのは、熱くなっている頬でいやでもわかる。
 結局、二人して真っ赤になってうつむいているのをフレンセンに発見されるまでそのままでいたのだった。


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