2024/03/25　02.DARJEELING THE FIRST FLUSH（ホムラとサディラス）

　サディラスの王から茶会の招待状が来た。どうやら春摘みの紅茶の茶葉が出来たので、それを楽しむ会のようだ。
　政治的なものではないこと、またこの会を今後政治的な利用はしないこと、世話になったレンガードに我が国の紅茶を味わってほしい旨が丁寧にこれでもかと書かれたものだった。
　正直なところ来は進まないのだが、サディラスの紅茶と言えば美味として有名だ。しかもその中でもおそらく王族しか口にできないだろう最高級品。紅茶党としてこの誘いを無碍にするには心が痛む。
　しかし、特定の王室と関わるのは面倒くさい。というか国の上層部とかかわるのはちょっと。帝国の皇帝と直通のツテ持ってんだろ。と言われると何も言えんが。だからこそ余計にこれ以上は。っていうのがですね。
　そもそも政治的利用はしないって言っても、相手が勝手に勘違いするのは問題ないって奴だろうし……。

「どうするかなぁ」
「参加されればよろしいかと」

　上質な紙で出来たいい匂いすらする招待状を手に悩んでいると、カルがそう告げてきた。いいのか、と視線を向ければ穏やかな笑みで頷かれた。

「即座に断らなかったということは、参加されたい気持ちがあるということでしょう」
「まぁ、そうなんだが」

　そう言われてしまえば何も言えない。

「主の希望をかなえ、憂いを払うのも騎士の役目ですから」

　いやそれはどうなんだろう。騎士ってそうものなのか？　ガラハドたちが迷宮に行っててここにいないのが悔やまれる！
　それはともかく、カルもついてきてくれるというので政治的なあれこれは丸投げしよう。そうしよう。私はそう決めるとご招待に応じる返事をしたためたのだった。


＊


「今年の茶葉は、爽やかな渋みもそうですが、フルーティな香りがより深く出来上がりました」
「あぁ、素晴らしい香りだな」

　美しいバラのティーカップに、オレンジが強い琥珀色の液体が満ちる。ふわりと漂う香りに思わず目が細まった。
　サディラスの少年王、名前は確かハディルだったか。ニコニコと楽し気に微笑む彼の横に彼の異母姉と、その反対にはもちろん宰相が座っている。あぁ、私の猫宰相……。
　マーリンに猫の呪いのかけ方を聞いたんだが、あれは命を削る呪いを別の呪いに転化した結果なので、マーリンは関わってないそうです。残念。
　私はもう呪いの解除方法を知っているので、どれだけ愛でても問題ないというのに！

「主……」

　おっと、いい加減切り替えねばならんな。私はカルにうなずくと、カルがテーブルの上に箱を取り出してのせた。

「さて、せっかくの茶葉を楽しむということで、茶菓子は私の方で用意させてもらった」

　なお、隣ですました顔で座る人物の強い要望です。面倒なやり取りを丸投げするのでこれくらいはどうってことない。
　さて、サディラスの茶葉はおそらくダージリン系じゃないかと付き合いのあるプレイヤーの茶道楽人に言われていた。そしてダージリンの春摘み茶は先ほど少年王が言った通り爽やかな渋みとフルーティな香り。どちらかというと日本茶に似た味わいだ。
　よってバターやチョコレートは不向き。軽めの生クリームやメレンゲ菓子。あと日本茶に似ているので餡子もあうのだ。
　てなわけで、本日は桜の練りきりに、淡い色合いのマカロン、砕いたカシューナッツを混ぜ込んで焼いたメレンゲの三種類を用意しました。

「これは、素晴らしい」
「実に春らしいですね」
「綺麗ですわ」

　反応は上々。特に王女が嬉しそうだ。店で取り扱うなら女性受けしそうだな。
　シルヴィア王女はあの後は婚約者であり、神官長に身体を乗っ取られた青年の喪に服していたようだが、現在はサディラスに滞在している聖女――ユニちゃんの支えもあって立ち直りつつあるそうだ。まぁ、あいつがその辺しくじるとは思えないので、王女に関してはもう大丈夫だと思っていいだろう。
　一口食べてうっとりしている三人から視線をそらし、紅茶を楽しむ。あぁ、いい陽気だなぁ。


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茶道楽人
不思議の国のアリスに出てくるマッドハッターの帽子をかぶったプレイヤー
ファストで店を出している。
初登場は「ティーパーティー」（https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17314974）