2023/11/29 25.ソレイユ ルヴァン
「あぁ…………」
部屋の中にさんさんと降り注ぐ太陽の明かりに、思わず目を細める。ランプの明かりを緩慢な動きで消す。
うっかり、徹夜をしてしまった。屋敷だとノルベルトが止めに来るのだが、ここは学園の寮。誰も咎める者がおらず、ついつい読んでいた文献が文章として面白かったためにのめり込んでしまったのだ。
しぱしぱする眼を何度か瞬きを繰り返し、滲んだ涙を指で拭う。すっかり冷めてしまったカップの底にわずかに残っていた紅茶を飲み干し、大きく伸びをして立ち上がる。
「あ゛ー、さすがに眠いな」
とはいえ、高位貴族の子息として眠そうな顔を衆目に晒すわけにはいかない。冷たい水で顔でも洗うか。と、部屋付きの使用人を呼び――念のため交代制で二十四時間ついている――冷たい水とタオル、ついでにお茶を頼む。一瞬、徹夜しましたね。と言う顔をされたので、親に報告されるなぁ。と、思ったがたまになので許してもらいたい。
数分して、水の入った桶とタオルが持ち込まれる。それを受け取り、顔を洗ってタオルでふく。あーさっぱりした。
紅茶と一緒にドライフルーツと一口サイズに切り分けたパウンドケーキが付いていた。朝から甘いのかー、と思っていたが、アプリコットの酸味が強いもので、食べやすい。ついでに徹夜で酷使された脳みそが糖分を得て動き出した気がする。うちの使用人は本当に気が回るなぁ。
「美味い」
紅茶を飲んでほっと呟くと、小さく頭を下げて静かに去っていった。あと二時間もすれば他の部屋も起き出すだろう。騎士科の生徒はすでに起き出して朝練をしているかもしれない。
俺は紅茶を飲み終えると、先ほど読んだ文献の中身をまとめるべく、羊皮紙とペンを取り出すのだった。
なんてことを、ふと思い出す。
すっかり仕事が忙しくなり、徹夜は効率が悪いので適度な仮眠をとるようにはしているが、それでも朝日が目に染みることが一度や二度ではない現在。
「ヴェルナー様、なにか軽くお召し上がりになりますか?」
「……あぁ、そうだな。えっと、前に食べたアプリコットの奴、あったらそれがいい」
いつも隙のない身のこなしのフレンセンも、さすがに少しやつれて見える。その彼の申し出にうなずいて、思い出したものを告げる。朝から甘いものは苦手なのだが、今は脳みそが糖分を欲している。
しばらくして、フレンセンは身支度も整えたのだろう。メイドと一緒に戻ってきたときはさっぱりした顔をしていた。俺にも桶とタオルを渡してくれたので、さっぱりする。そう言えば、そろそろ髭とか生える時期だよな。……時期だよな? ドレクスラーは生えてるっていうし。マゼルはどうなんだろうか。
まだつるっとしている自分の顎を撫でながら、いつか父の様にひげを蓄える自分を想像して、なんとなくこそばゆくなった。
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SOLEIL LEVANT=朝日
学園三人組だと、ドレクスラーがすでに髭が生えていると思うので、野外授業とかで夜をこしたりすると無精ひげがうっすら生えていてマゼヴェに「おー」「いいなー」とか言われてるとよい。
ちなみに今回参考にしたのはあんずとグノーラだった。たぶんたたうらはグノーラはまだない。
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