きっと私だけのフレンズを

アイカツフレンズ かつて”慰めてもらう”関係だったエマみお前提、あい←みお無自覚恋心です。
まだアニメの序盤で、みおちゃんが誰をフレンズにしたいかはっきり自覚なかったタイミングで書いたやつ。



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「あれ?みおちゃん、一人?」
 レッスン室で柔軟していると、エマちゃんが入口からひょっこりと顔を出した。
「あいねは今、千春さんとドレスの打ち合わせしてるので」
 そう答えた私に、エマちゃんはくすっと笑った。
「私、この部屋に他には誰もいないのかって聞いただけで、あいねちゃんのこと聞いたわけじゃないんだけど?」
「あっ……」
 指摘されて初めて気付いた。何だか恥ずかしくなって急速に顔が熱くなってくる。
 エマちゃんはそんな私を特に気にすることもなく、そのままレッスン室に入ってくる。
「次のステージのダンス、練習してるの?私も一緒にやっていい?」
「もちろん!」
 二人で柔軟の続きをやって、ダンスの振りをお互いに確認し合う。
 苦手な部分だけを繰り返した後で、曲に合わせて何回か通して踊ってみる。すると、急にエマちゃんが動きを止めた。
「エマちゃん?どうしたの?」
「みおちゃんさ、何かあったでしょ」
「え!?」
「ダンスに気持ちが入ってない!そんな状態じゃ何回やっても上手くいかないよ?ほらほら~お姉さんに聞かせてみ?」
 そう言いながら私の頬をぷにぷにとつついてくる。
 エマちゃん特有の距離感に少しドキッとしてしまう。それに、言われた内容にも心当たりがあって、私の胸はざわついた。
 何があったか、原因が何なのかなんて、自分でも分かっていたことだから。
 でも、こんなことを話してしまってもいいのだろうか。
「あの、私、あいねが……」
 その名前を口にしてしまった瞬間、あまりに大きなモヤモヤしたものが私を濁流のように飲み込んで、それで私はそれ以上何も話せなくなってしまう。
 自分でも、自分がこんな気持ちになることが想定外で、更にどうしていいか分からなくなってしまった。
「……そういうことね」
 俯いた私に、エマちゃんは何か納得したようにそう言った。
 察しの良いエマちゃんのことだ。きっと私のことなんて、さっきの一言でお見通しに違いない。
 いやだな。自分でも上手く話せない、どうしたらいいか分からないような気持ちを悟られてしまうのは。
 情けなくて恥ずかしくて、私は恐る恐るエマちゃんの方を見る。
 彼女も私の方を見ていた。それは、とてもとても優しい瞳。
 ああ、そうだった。エマちゃんはいつも、こういう人だった。
 私が初めてのステージで失敗した時も、バラエティ番組で全然ちゃんと話せなかった時も、こんな風に見ていてくれた。
 上手く弱音を吐けない私の拙い言葉を一つ一つ、大切に聞いてくれた。
 ――それから。
 エマちゃんは私の頭を撫でる。
 そっと、大切なものに触れるように、優しく。
 だから私は、これまでそんな彼女に、何度か甘えてしまったことがあったのだった。
 好きとか嫌いとかそういうのじゃなくて、単純にただ、”慰めて”もらったことがあったのだ。
「あの、エマちゃん、前みたいに、また……」
 だからまた、どうしたらいいか分からない私は、そんな温もりを求めてしまう。
 自分から彼女の方に唇を寄せた。
 するとエマちゃんはハッとして、私から手を離した。
「エマ、ちゃん……?」
 以前抱きしめてくれた、柔らかな腕の感触を無意識に期待してしまっていた私は、彼女の意外な反応に驚いてしまう。
 エマちゃんは目を反らして、困ったように笑った。
「あー、つい癖で頭撫でたりなんてしちゃったね。ごめん」
 それから改めて私に向き直る。
「この前みんなに言ったけど、私、舞花とフレンズを組むから。だからそういうのはさ、もう違うかなって」

 ――ああ、そうか。

「ごめんなさい……」
「やだなぁ、そんな真剣にあやまらないでよ」
 エマちゃんはさっきとは違って、わしわしっと少し乱暴に頭を撫でてきた。
 すると、彼女の練習着のポケットから着信音が鳴る。
「もしもし?ああ、舞花か。今?ちょっとみおちゃんと一緒に自主練してたとこ。
……今から?りょ!」
 エマちゃんは、通話を終えた後も、少しの間その画面をじっと見つめていた。
 それは今まで私に向けてくれていた優しい視線とはまた別の、どこか熱を帯びたキラキラした眼差しだった。
 なんか、いいな。素直にそう思えた。そこにはエマちゃんを取られた、なんて子どもっぽい嫉妬心なんてなくて。
 こんな風に思い合えるのが、ベストフレンズってことなのかな、と思った。
「そんじゃ、私、これから舞花と一緒にちょっとやらなきゃいけないことがあるから。行くね」
「うん、頑張って」
 彼女はその金色の髪を元気そうにぴょこぴょこさせながら、部屋を出て行った。

 落ち込むたびに誰かに甘えてなんていられない。時間は進んでいくんだから。
 私だって、踏み出さないといけないんだ。

 ――私も、いつか見つけられるのかな、私だけのフレンズを。

 そう思った私の脳裏に、何故かあいねの姿が浮かんだ。
 変なの。
 私、アイドルの先輩として、あいねをもっとしっかり指導出来なきゃいけないって思ってたのに。一緒にいるうちに、あいねに対する自分でもよく分からないモヤモヤした気持ちのせいで、指導はおろか、自分の練習にまで身が入らなくなってしまっている。
 今なんて、フレンズのことを考えていたのに、あいねのことが浮かぶなんて、本当に変だ。集中しなきゃね。

「よし、いつか絶対、私だけのフレンズを見つけるんだから!」
 私は自分自身に言い聞かせるようにそう言うと、ダンス練習の続きを再開したのだった。

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