俺っちと奥さんと時々子猿(団地妻パロ)

※よちさんの燐ひめ団地妻パロのファン創作でした





 奥さんは不用心すぎる。
 人間に壁は登れねェはずと思ってンのかもしれねェが、だとしたら読みが甘い。炭酸の抜けきったコーラよりも甘々だ。団地の外壁なんて掴んだり足掛けたりできる場所はいくらでもあるし、何より俺っちだし。中坊の頃はあちこちの運動部に助っ人参加して大活躍してた俺っちには、「ちょっとあそこのベランダまで登ってみる」ことくらい朝飯前なわけで。
「もう夕飯の仕込みしてンの? 早ェね」
「⁉ あなた、なんでっ……」
「ちわ〜す、お邪魔しまァす」
 窓から上がり込んだらきっちり靴を揃え、キャップを取ってぺこりとお辞儀。野球少年みてェなことしちまった。
 キッチンに立っていた奥さんはびっくりしてこっちへ駆けてきた。品の良いグレーのスリッパがぱたぱた床を鳴らす。振り返ったらいきなりリビングに俺っちがいたンで動揺してるらしい。
「どこから、」
「窓から」
「不法侵入ですよ……!」
「今更。窓も鍵閉めといた方がいいぜェ、俺っちみてェな奴もいるンだからさ」
 いけしゃあしゃあと忠告してやれば「あなた頭おかしいんじゃないですか⁉」と眉を吊り上げる。お〜怖。
 ──そんで恐らく、こう言っとけば今後も鍵はかけないでおくだろうことも、知ってる。
「いやァ〜実は俺っちサボってンのバレちまって、怖ァい現場監督に目ェつけられてンだよなァ〜。三十分でいいから匿って♡」
「何馬鹿なこと言って……ちょっと!」
 ぷりぷり怒る奥さんを無視してリビングをずかずか横切る。支度中のキッチンには切りかけの野菜がたくさん。玉ねぎ、じゃがいも、茄子にパプリカ、トマト、それからカレー粉と……料理なんか勿論しない俺っちにはよくわかんねェ色んなスパイス。さて、推理してみよう。
「……夏野菜カレー。正解?」
「あなたに関係ないでしょう」
「冷てェ〜。当たりっしょ? 当てたンだからご褒美くれよ」
 勝手に冷蔵庫を開けると作り置きの麦茶を勝手に取り出し、勝手にコップを拝借して一杯いただく(本当は麦酒がいいけどこの際贅沢は言わない)。何度かお邪魔していたら大体の物の位置を覚えてしまった。
「帰ってください」
 さっき入ってきた窓をビシッと指差して睨みつけてくる奥さん。美人の怒った顔は怖いと言うが、俺っちは同意しかねる。美人は何してたって美人っしょ。特にこの人は別格だ。こんなショボい団地に暮らしてたら浮くに決まってる。現にこの人が誰かと一緒にいるところは見たことがない──こないだ隣んちの奥さんに会釈してたくらいか──し、旦那の顔だって見たことがない。彼はいつだって、独りだ。
「つれねェなァ」
「あ……っ」
 手首を引くと痩せた身体はすっぽりと腕の中に収まった。ちょっと立ち位置を変えてやれば奥さんの背中がキッチンカウンターに当たる。ほォら、やっぱり不用心。
「いいねェ〜エプロン。そそる」
「! やめ、」
「マジで嫌ならそこの包丁で脅すなり何なりすりゃいいっしょ。別にあんたを人殺しにしたいわけじゃねェし? そこまでされたらまァ、帰るか〜ってなるンじゃね? たぶん」
 デニム地のエプロンから伸びる紐の、首の後ろのちょうちょ結びを解こうとして──やめた。せっかくならエプロン着けたままの奥さんとイイことしたい。
 ぎゅっと眉を寄せて俯いた彼はしばらく黙っていたけれど、やがて苦々しく「脅しませんよ」と呟いた。自分も悪事に加担してる自覚があるからだろう。殊勝な心掛けだ。
「ンじゃあ、やめなくていーよなァ?」
「ひ、う……っ」
 無防備な耳に舌を突っ込んで、性器に見立てたそこをぐちゃぐちゃしゃぶる。ついでに膝を股の間に割り込ませて、中心をぐいぐい押してやる。奥さんはぴくんぴくんと肩を震わせながらも声を噛み殺そうと唇を噛んで耐えていた。強く噛みすぎて傷がついちまっても気分悪りィし、エロくて可愛い声が聞けないのは俺っち的に面白くない。そこで天啓が降ってきた。
「こォら、噛むなっての。これでも咥えてな」
「んぶ、ン♡」
 俺っちが手に取ったのはまだ切られていない茄子。そうだ、こいつを咥えさせときゃいいじゃん。天才の思いつきに心の中で惜しみない拍手を贈ってやる。
「う、ぐぅ♡ ンンッ♡」
「そーそ、そのまましゃぶってろ。駄目にしちまったら勿体ねェから、あとでちゃあんとカレーに入れて旦那に食わせてやれよなァ?」
 口に茄子を突っ込まれて嘔吐いた奥さんの唇の端からたらりと涎が伝い、エプロンに染みをつくる。う〜わ、エロ。涙目で睨み付けてくるけど、そんな風に顔真っ赤にして怖い顔されてもこっちは興奮するだけだっての。馬鹿な奥さん。そんで俺っちはそんな馬鹿でスケベな奥さんにメロメロってわけ。
 男にしては長めの髪をひとつに括ってるお陰で、普段隠れてる白い首筋が今は目の前に晒されている。俺っちは吸い寄せられるみたいにそこに鼻先をうずめて、においを嗅ぐ。すうと息を吸い込めば上品な柔軟剤の香りが鼻腔を擽った。誘われるまま、すべすべした肌をべろりと舐め上げる。と、奥さんが俺っちの胸を弱々しく押し返した。
「んぅ……! うう〜、あぐ、」
「なァんだよォ、言いたいことがあンならはっきり……って言えねェか。ぎゃはは!」
 大方キスマークなんか付けられたら困るとでも言いたいンだろうが、俺っちも馬鹿じゃない。何も家庭を壊したいわけじゃねェんだ。俺っちは『貞淑そうな人妻のあんたを抱くスリルを味わいたい』、ただそれだけ。この人の不貞がバレちまえば俺っちの楽しみも終わる。そんなつまんねェ結末にはさせねェよ。
「はいはァい、もういいぜェ」
「……ッ、ぷあ、けほっ、けほ」
 口から茄子を引き抜く頃には、敏感な耳を苛め抜かれた奥さんはトロトロだった。こんなに簡単で大丈夫なのかね、なんてつい要らぬ心配をしてしまう。チョロい妻を持った旦那が気の毒でしょうがない。いやァ悪りィねマジで。
「くく、物欲しそうな顔してンねェ、奥さん」
「はあ、っ……♡ ほしい、れす、もっと♡」
「何がァ? 野菜じゃなくて何がほしーの?」
 ニヤニヤと我ながら下品な笑みを浮かべながら揶揄うと、金色の目を下の方に泳がせた彼は小さな声でオネダリをくれた。
「もっとおおきくて太いのが、ほしいのです♡ あなたの本物ちんぽ、舐めたい……♡」
 ちっちゃいおくちをいっぱいに開けて懇願されれば躊躇う余地なんてない。なお、欲求不満な人妻をここまで淫乱に育て上げたのは俺っちの手練手管の賜物だ。旦那ですら知らない奥さんのスケベな一面、これを最高と呼ばずになんと呼ぶ?
「ンじゃあ有難く……」
 すっかり目をハートにした奥さんがキッチンの床に座り込んで、ドキドキしながら俺っちのちんぽを待ってる。意地悪で勿体つけてやれば、我慢できないって顔をして前のジッパーを下ろそうとする。可愛い。エロい。クソみてェな団地の工事もそう悪いことばかりじゃない。
「あむ、ん……っ♡ んっ、ん」
 繰り返すが奥さんは口が小さい。俺っちのものを目一杯咥え込んでも半分くらいしか入らない。だから根元までしゃぶれない代わりに、右手で竿を擦って余った左手で陰嚢をマッサージして、ってなかんじで俺っち好みに仕込んだ。
「は、っ……じょーず」
 水色の綺麗な髪をくしゃりと乱すと、掌に擦り寄るような仕草をする。あ、好きなのかも、なんて勘違いしちまいそうだ。上下に扱きつつ舌でちろちろと鈴口を刺激されれば射精感がぐぐっとこみ上げる。ああ、これはやばい。もうイきそう。
「っあ、奥さん、待て、って」
「ん、なん、ですか」
「挿れたい」
 両手で頬を挟み、搾り取ろうとする奥さんをなんとか引き剥がす。このまま口ン中に出しちまうのは勿体ないと思うくらい、エプロンが思った以上にぐっとくる。俺っちはどうしてもこの姿の奥さんを抱きたいのだ。
 手を引いてリビングへ。そこには余裕でセックスできるサイズのソファがある。しかし、だ。
「──ここではだめです」
 さっきまでノリノリだった奥さんが急に渋りだした。
「ここじゃなきゃイイみてェな言い方すんね」
「ここはいけません、あの子の前なのです……っ」
「あの子?」
 なんだそりゃ。訝しんで目線の先を辿ると、リビングの隅に四角いケージがあった。ペットか? 気付かなかった。随分大人しい子を飼ってンだな。
「何、猫? 犬? 鳴かねェしウサギとか?」
「──チです」
「あン?」
「ウキチ、です。子猿の」
「子猿ゥ~?」
 一般家庭で猿飼ってるなんて初耳っしょ。半信半疑でケージに近付いたら小さな影が物陰に隠れるところを目撃した。俺っち警戒されてる?
「ママを苛めてるとでも思われてンのかねェ。怖くないでちゅよ~?」
 嫌がる奥さんをソファに押し付け、後ろからのし掛かる。お猿さんに倣って獣の交尾の体勢をとってみた。子猿には何してるかわかんねェか?
「やめてくださ……っ、お願い、」
「恥ずかしがるこたねェよ奥さん。むしろ見られて興奮してるっしょ? ほォら見てみな、あんたのちんぽガチガチだぜ?」
「いやです、いや……ぁ♡」
 背後から前へ手を伸ばして軽く握り込めば、突然のことに細腰が大きく跳ねた。また可愛い反応をしてくれる。これだからやめらんねェんだ。
 暗がりからつぶらな瞳でこちらを窺っているウキ……ウキチ?(名前からしてオスか?)はこの状況をどこまで理解しているのだろうか。まァいい、想定外のペットの存在もセックスのスパイスにしてしまえ。せっかくだ、今ある環境のぜんぶを活かして楽しもうじゃねェか。
「やだっ、あん♡ だめ……天城、あまぎっ♡」
「あァ? やだじゃねェっしょメルメル……? ま、すぐ〝イイ〟しか言えねェようにしてやるから、いいけど」
 バックで挿入するとイヤイヤ言いながらもすぐ気持ちよくなっちまうンだから、本当どうしようもない奥さんだ。まァそこがいいンだけど。
 俺っちはにんまりと悪い笑顔を貼り付け、ケージに向かって呼び掛ける。
「なァ~ウキチちゃん? ママがパパ以外の男と『仲良し』してるとこ、よォ〜く見てるンでちゅよ〜♡」
 あとで正気に戻った奥さんに何言われるかわかったもんじゃねェけど、ひとまず今は目の前の『気持ちいいこと』に専念するとしよう。

 ふと、部屋の隅で子猿が「チィ」とひと声、鳴いた。

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