賭博者イワン(仮)起・承
1
開け放たれた鉄格子の敷居に立つ男は、収監者とは思えないような余裕を見せて微笑み、それで? というように首を傾げた。ラキーチンは懐からタバコを取り出して一本握らせる。男はまあこんなものかというように首をすくめ、ラキーチンに向かって顎をしゃくった。火をよこせと言いたいらしい。くそ、どうせ持っているくせに。監獄と言ってもここは債務監獄だ。門番に握らせる金次第でどうとでもなるのはラキーチンも知っている。もう少々握らせればこの男を外に出してどこかのレストランへでも連れて行き、そこでゆっくり話を聞くこともできただろう。しかしラキーチンはそうしなかった。そうするには先立つものがいるが、今の自分の手持ちでは心許ない。ものになるかどうかの値踏みだ、と自分に言い聞かせながらここへ来た。男の方はそうした懐事情をどうやら見抜いているらしい。文無しどころかマイナスのくせに! ラキーチンは内心舌打ちしながらマッチを擦り、火を差し出した。男はなかなかマッチから離れず、揺らめく炎が軸を伝ってラキーチンの指を焼いた。思わず悲鳴を上げてマッチを取り落とすと、低く押し殺した笑い声が聞こえる。睨みつけると煙をふうっと吐き出して、
「あなたも仕事熱心ですね。こんなところにまで追いかけてくるなんて?」
とせせら笑った。ラキーチンは反射的に言い返しそうになったが堪える。そもそも監獄に入っているのは向こうの方で自分じゃないのに、なぜこんなにも堂々としているのだろうか。ラキーチンは苛立ちを通り越していっそ不可思議な気持ちで、敷居の向こうの男——イワン・フョードロヴィチを見つめる。
からりと晴れた日だった。イワンの後ろに見える「監獄」の中庭は存外広く明るかったが、どこか人生を諦め切ったような弛緩した雰囲気が漂っていた。中庭の日向に出した色褪せた安楽椅子に背中を預けた男が、顔を上げてラキーチンの方を胡散臭そうに睨んでいる。
この「獄舎」自体は古い兵舎を改築したもので、一階建ての宿舎を四つ組み合わせ、中央に中庭を設けた形だ。正面玄関にあたる南側の建屋のみ物見櫓を兼ねた二階建てで、向かって右端部分がトンネルのようにくり抜かれ、外側を頑丈な門が、内側を華奢な細工の鉄格子が隔てていた。つまりはロシアにしばしばあるアパートと同様な造りをしているが、この門は住民を守るのではなく外界から閉ざすために機能している、という点が異なっている。今中庭に出ているのは三、四人ほどで、身なりのいいジェントルマンから職人らしい男まで、服装も階級もばらばらだったが、皆一様にだらしなく、怠惰な表情をしていた。
そもそも監獄とは言え刑法犯罪者が収監される場所と違い、債務監獄は家族や面会人の出入りも自由だし、中庭も自室も、その他の共用スペースも出入りは制限されていない。敷地の外へつながる二つの門も昼間は開け放されている。しかしそれでも彼らは外に出られない。扉は開いていても、中と外の境界線の向こう側に両足をしっかりつけて、つま先すらも出そうとしないのだった。その頑なさはどこかやけっぱちで投げやりなところがあった。確かにおっしゃる通り、シベリアと違って体罰はないし金さえ払えば出られる。だがその金がどうやっても手に入らないからここへ入っているのだ——どうしろというのだ、どうしようもないではないか? そんな声が聞こえるようだった。どうにかしようと足掻いてどうにも出来なかった時には、諦め、挫けて、外を歩く権利を剥奪されるほどに金がないという恥を、やけくそじみた怠惰で覆い隠すしかない。この種の監獄は、昨今のヨーロッパでは廃止される傾向にあるが、ここではまだ必要悪として残されていて、今なお人々を債務と諦念のねばつく泥沼に叩き落としている。こうした場所にいる人々、特に看守に手数料を支払う余裕さえ切り詰めなければならないような人々は、取り繕うことを少しずつ放棄する。つまりは不潔に向かって段階的に薄汚れ、無頓着に乱れていくのだ。この前に立つと、最後の身繕いまで放棄した、澱んだ臭気が漂ってきて、ほんの少しいるだけでやりきれない思いがする。
そんな中で、イワン・フョードロヴィチはなぜか生命力を擦り切れさせていなかった。監獄の澱んだ空気の中でタバコの煙をまとい、こけて黄色くなった頬に笑みを浮かべて、瞬きするたびにチラチラとその目に光が宿っているのに気づく。生き生きしているのというのとも違う、かと言ってすっかり諦念にとらわれているわけでもない、どん底でこそ横溢する生命力だ。投獄されてそれほど経っていないせいかもしれないが、それにしてはワクワクしているようにさえ見える。これがカラマーゾフ的力というものだろうかとラキーチンは考える——だがそれでも、やはり彼も、境界線を越えることは決してしない。
「しかしあなた、話を聞きたいという割には随分と報酬を切り詰めるじゃないですか。これじゃあ挨拶だけで終わってしまいますよ」
イワンは片方の手をポケットに突っ込み、もう片方の手で短くなったタバコをラキーチンの方に掲げてみせる。
「……それはほんのお近づきの印です、もちろん。お話いただければたっぷり弾みますよ」
「だったらここから出してくれませんか? そうすればたっぷりお話できますが」
「それは……」
そうできるならとっくにそうしている。ラキーチンが言い淀んでいると、訛りのあるドイツ語で何か言いながら別の男が割り込んできた。小汚い格好をしているが職人崩れだろう、ラキーチンに向けて突き出した手のひらの皮は厚く指は節くれ立って太く、爪の間は黒く汚れている。
「取材なら俺にしておけよ。この坊ちゃんより安くしとくぜ」
とでも言っているのだろう。あるいは自分にもタバコをよこせ、だろうか。これは取材のためだとドイツ語で言うと、「だったら俺にしな!」と手を振った。今度は聞き取れた。ラキーチンは首を横に振る。
「結構です。あなたではニュースバリューに乏しい」
「何だって?」
「つまりありふれていて面白くないということです」
「何だと? この小僧っこが!」
職人風の男は顔を真っ赤にして何か早口で捲し立てる。よっぽどこっぴどく罵られているらしく、中庭の男たちがどっと笑った。イワンは素直に敷居の前から退いて後ろでニヤニヤしていたが、男はそれも気に入らなかったらしく、今度は「何笑ってやがる!」とイワンの胸ぐらを掴んだ。長身のイワンよりも頭一つぶん小さいが、厚みは倍近くある。思わぬ展開にラキーチンは慌てたが、イワンは少し顔を青くしただけで、笑顔を引っ込めて「好きにおやんなさい!」と男に囁いた。騒ぎを聞きつけたのだろう、中庭にはさっきよりも人が増えていて、何だ何だと周りを取り巻いていたが、止めるそぶりはなく、むしろどんどんやれというようにはやしたてるものまでいた。ラキーチンは「ちょっと!」と叫ぶ。
「ちょっと、その人に怪我させないで! その人は——」
「おい、何やってる!」
背後から怒鳴り声が聞こえてラキーチンは飛び退いた。看守の制服を着た男が鍵をぶら下げて立っている。看守は開け放たれた扉の敷居、ちょうど内と外の境界線に立つと、「イワン・フョードロヴィチ・カラマーゾフ?」と尋ねた。
「私ですが」
イワンが胸ぐらを掴まれたまま言った。「出て」と看守が短く言う。イワンは肩をすくめた。職人風の男が手を離さないので、今度はそちらに向かって「さ、その紳士を離して差し上げろ」と言った。男は渋々といった様子でイワンから手を離す。イワンは服を整えると、何事もなかったかのように悠々と敷居を跨いだ。
「荷物は?」
「まあ……構いませんよ。こちらのラキーチン君がどうにかしてくれるでしょうからね。この帽子だけ持っていきましょうか」
ぎょっとしたラキーチンを尻目にイワンは中庭の片隅に置いてあった帽子を取り上げ、すたすた歩いて門の方へと歩く。慌てて追いかけるラキーチンの背中に、「おい、タバコの残りは置いてけよ!」とがなる声がぶつけられる。振り返るとさっきの男が身を乗り出してこちらに拳を振り上げている。開け放たれた鉄格子を掴みながら、足は決して境界線の外へ出そうとしなかった。——ほんのちょっと、ほんのつま先だけでも「自由」な外へ出ること、そうしたお目溢しをもらうこと自体、収監者にとってはむしろ囚人であることを刷り込まれる経験なのだ。だから彼らは自らの意志で敷居の上に足を置かない。それが彼らに残された最後の自由であり、自分がまだ紳士である、少なくともその端っこには引っかかっていると信じることのできる最後の境界なのである——と、ラキーチンは頭の中の取材メモに書き留める。
堂々たる態度で監獄を後にしたイワンは、二つ目の門をくぐったところで立ち止まりラキーチンを振り返った。「で、どうなさいますか?」と尋ねる。唐突な質問にラキーチンが面食らっていると、
「取材にいらしたんでしょう? ああそうだ、一応確認しますけれど、あそこから私を出したのはあなたではありませんね? 違う? そう、やっぱりね。では行きましょうか」
「行くあてがおありで?」
「ありませんが何かはあるでしょう」
と投げやりに言ってイワンは出鱈目な方向に歩き出した。まるでそこにいたくないみたいに、鉄格子の内側にいた時とは正反対の妙にそそくさした態度で監獄から離れる。ラキーチンは慌ててそれに着いて行った。体格はそう変わらないはずなのに、イワンときたら軍人みたいな大股で、しかもやたらに早足なので、ラキーチンはほとんど小走りになって着いていかなければならなかった。大通りに差し掛かるところでイワンは突然足を止めた。
「あなた、金はお持ちですか?」
「な、何ですって?」
「金です。何、巻き上げようというのではありませんよ、ちょっとどこかに腰を落ち着ける程度ですからほんの小銭でいいんですがね」
ラキーチンは息を整えながらハンカチを取り出して額や鼻の頭にかいた汗を拭った。今日のルーレテンブルグは一日中快晴の続く陽気で、立ち止まった途端に汗が吹き出した。イワンはラキーチンの汗まみれの顔を不愉快そうに一瞥する。
「つまり……いえ、ひょっとして、あなたはその、一コペイカもお持ちでない?」
「そうですよ。何のためにあそこに入っていたと思っているんですか?」
息切れしつつ尋ねると、イワンはお前は馬鹿かと言わんばかりの態度で返した。そう背丈は変わらないはずなのに顎をあげてわざわざ見下ろすような姿勢をとる。相変わらずの傲慢な態度にラキーチンはまたむかっとしたが、これは思ったよりもものになるぞという予感が一瞬遅れて泉のように湧き上がってきた。ものになるどころか! ラキーチンはモスクワの文壇での成功を想像してゾクゾクした。確かに地主の息子が賭博に魅入られるなんていう筋書きもまたありふれてはいるが、数年前の殺人事件の関係者で、怜悧な頭脳で知られた秀才が主人公なら話は変わる。もちろんうまくやれば、であるが、しかしラキーチンは己の才能に信頼を置いていた。今までは運が悪かっただけだ。次はうまくやる。自分を三文ゴシップ屋だと蔑んだ連中を見返してやる。特にあのホフラコーワを!
スコトプリゴニエフスクの何とかいう官吏と違い、ラキーチンにとってはホフラコーワ夫人こそは自分の経歴をつまづかせた人間だった。あんな女に取り入ろうとしたのがそもそもの間違いだった。あの有閑夫人に近づいたのは社交界への足がかりを得るためだった。噂好きで顔が広く、しかも事件の関係者と来ている。社交界に渡りをつけるなら、顔の広い人間に気に入られるのが一番てっとり早い。しかしラキーチンの行動はものの見事に裏目に出た。ホフラコーワは官吏の方を選び、しかも犬でも追い払うようにして自分を追い払った。無論ラキーチンだってあのご婦人の死んだ旦那の後釜を本気で狙っていたわけではない。気の効いたところを見せて、「のぼせ上がった若い学生」のためにちょいと便宜を図ってもらえないだろうかと思っただけである。あのミーチェンカの野郎にはあの女を落としてやるだとか、ペテルブルグに石造アパートを買うとか大きなことを言ったが、しかし……そう、最初はただちょっとした繋がりを作るだけのつもりだった。だがあの女があんまり馬鹿なのでこれはいけると勘違いしたのだ。実際ホフラコーワは満更でもなさそうな目でこっちを見ながら口先だけの拒絶を述べ立てた。あなたは年が離れているしそれはあなたもご承知でしょうけれど今はその溢れ出さんばかりの若い力ために先走ってしまっているの、情熱を注ぐ相手なら私でなくてもいいでしょう、あなたのことはエナジーがあって好もしいと感じているけれど私はそういうお若い方全般を応援するのが好きなだけ、云々云々。こっちが指摘もしないうちから私とあなたの父称は同じね、などと言い出したものである。ところが誰の入れ知恵か、きっとあの官吏に違いないが、あの女は急に態度を変えた上、ラキーチンを「低俗で薄っぺらで、ゴシップ漁りの見下げた阿呆」と名指ししてサロンや夜会や訪問先でべらべらしゃべりまくったらしい。おかげでラキーチンはすっかりひあがってしまった。あの時に『人の噂』に書いた記事はそれなりに反響があったが、それっきりだった。『人の噂』の連中は自分を使い捨てにしたわけだ。それならばと、『ゾシマ長老の生涯』と共にモスクワへ記事を持っていき片っ端から売り込みをかけたが、時すでに遅し、カラマーゾフの事件はもう鮮度を失っていたのであった。ラキーチンの記事はその他の凡百の読み捨て記事と同等に扱われた。ゴシップ紙の三文記者に回ってくる仕事はやっぱりゴシップ紙の三文記事の仕事ばかりで、一向に栄光に近づけない。石造アパートなんて夢のまた夢だ!
ペテルブルグに戻り、机と寝床でいっぱいになってしまうような煤けたアパートですっかり腐っていたラキーチンに届けられたのがイワン・カラマーゾフのある噂だった。あの裁判以後すっかり表舞台から姿を消し、ひょっとしたら死んだのではないかとも言われていたのだが、とある人物からの情報提供で、彼がこのルーレテンブルグに逗留し、しかも相当な散財をしていることを知った。これが最後の、最大のチャンスだ! ラキーチンは腐っていたが、それでも働かなければ食っていけない身の悲しい性で、ある程度の小金を貯めていた。ついでに身の回りのものを売り払い、アパートも引き払って、最低限の荷物でここまで来た。
派手に蕩尽しているらしいからすぐ見つかるだろうとたかを括っていたが、それらしき人物はなかなか見当たらなかった。中心地から離れた三流ホテルに滞在して賭博場や酒場で小金を撒きながら覗きまわること三日目、ようやくその「センセイ」だったらこないだぶち込まれたって聞いたけど、という情報をつかんだのだった。「カードで大負けしたらしいね、しかも相手があの『ユダヤ商人』ときた! あいつは見込みがないと踏んだらすぐ債務監獄行きにしやがる!」
そうしてようやくイワンを見つけたのが今日のことだった、というわけだ。まさかとは思ったが、本当に債務監獄入りしていたとは! しかし、イワンが見つかるまでの間、あれこれ見聞きしたことを思えばさもありなん、と頷くしかなかった。ラキーチンが聞き込んだ限りでは、おそらくイワンはあれだけあった遺産のほとんど全てを数日のうちに蕩尽している。その後は残った金を元手に賭け事を続けながらここに滞在していたが、負けが込んで借金が重なり、債務者の一人に訴えられたものらしい。
イワンの蕩尽は、日々大金が飛び交い人の興味も移ろいやすいこの街独特の「社交場」でもまだ口にする価値のある話題と捉えられており、ラキーチンが水を向けると皆さまざまに評を下した。焦った素人が愚かなことをしでかしたという評もあれば、あれは「行き着くところ」まで行ったのだ、上り詰めようとして真っ逆様になった、英雄的とは言えないまでも非常に悲劇的なところがあるという評もあり、後者は特に女性が多かった。イワン・カラマーゾフにまつわる噂も色々で、どこぞの令嬢と浮き名を流したとか、突然男爵をからかって危うく決闘騒ぎになりかけたとかいうのもあれば、夫から賭け金代わりにされそうになったさるご婦人がいたのを、「勝負なし」にして救ってやったというどこかで聞いたような逸話もあった。
「ああ、あの方、とってもすごい賭けぶりでしたわ! カードでも何でも一通りやってらしたけど一番気に入っていらっしゃったのはルーレット台ね。私、あの方と何度か一緒になりましてよ。あの日のことは覚えていますわ。どうしてだかあの方がいると黒ばっかり出るのよ。あの方、私の足を踏んだのよ、少しふらついてね……それで失礼、マドモワゼル、なんて謝るんですの。踏んだっていってもほんの少しつま先が重なっただけですのよ。それよりも、あまりにも顔が青いので私てっきり負けたんだと思ったの、だけど逆、勝ってらしたのよ! あれでやめると思っていたけど、続けたのね。二十回連続で黒が出たのに最後に赤だったのよ、それであの方のお金は全部なくなってしまいました。
ところであなた、あの方と同郷とおっしゃってたわね、じゃああの方があの悲劇の関係者だというのは本当のことですの? まあ、やっぱりそうなのね、あのカラマーゾフの事件の! 私お聞きしてみたのだけど、はぐらかされてしまったのよ」
ロシアから新婚旅行に来たというある年若い将軍夫人は、話を聞かせてほしいというラキーチンに快く答えて、聞いていないことまで話してくれた。そのうっとりした口調に辟易しながらなんとか聞き出したところによれば、イワンは最初の一週間ほどは上流の人々と交流し、賭博もやや無謀なきらいはあるが遊びの範疇におさまるものだったのが、大負けした後はいかがわしい連中とつるむようになり、すっかり様変わりしてしまったという。「なんていう悲劇なのかしら! ねえ、そう思いません? きっとあの方は事件のせいで胸に大きな穴を抱えてらしたんだわ!」と言いながらまだ話し足りなそうな夫人から離れることの苦労と言ったら! 相変わらず取り入るのがうまいもんだ、こんなふうになっても、とラキーチンはいらいらと考えた。
また別の婦人は、「黒に愛されているが、肝心のところで見放される」と評した。婦人は凄腕の博徒でもあった。あなたの言うことは神秘主義に聞こえる、と言うと肩をすくめて、「カードのスーツや色を信じてもいいけど委ねてはだめね。皆様どうしてそれが分からないのかしら?」と口元を広げた扇で隠しながら笑った。
ある紳士の評はもっとシンプルだった。「賢明だが、賭博場の空気に飲まれた。賢明さはここでは役に立たず、むしろ勝利をつまづかせる小石になる」
さて、賭博場に集う紳士淑女の証言をたどってようやく見つけたイワン・フョードロヴィチは確かにいくぶんか零落して見えた。衣服こそ上等なものを身につけているが、カフスボタンやタイなどの小物は安ピカもので着ているものにそぐわない。故郷に滞在していたころから神経質そうな様子で、自分だけが人類の全ての悲しみを知っているのだと言わんばかりの顔でピリピリしていたが、今はやたらと手を振り回したり落ち着きなくキョロキョロしたり、片手をポケットに突っ込んでごそごそ探ってみたり、意味もなく苛立っていると言った方が適当だ。
そんなふうに観察しつつ胸の中で原稿をしたためていると、イワンがラキーチンをチラッと見た。目が合うとニヤリとして道端で休んでいた辻馬車に飛び乗る。
「あっ!」
慌てて追いかけて乗り込む。垢と脂の混じったような鼻をつく臭いがふっと鼻先をかすめた。
「何です、今休憩中なんですがね!」
御者台に座って黒パンをかじっていた御者の男が中を覗き込んで言った。
「休憩の後でかまわんよ、K——にやってくれ!」
イワンは客席に腰掛けて意気揚々と言った。イワンの指定したのはこの街で一番大きな賭博場だ。ラキーチンはさすがに呆れてイワンを眺めた。その不躾な目線にイワンはむしろ楽しそうに笑いかける。
「取材をなさるんでしょう?」
「ええ、しかし一休みされてもいいのでは? どこに宿泊していらっしゃったんです、拠点を決めてもいいでしょう?」
「あなたもしつこいな、金はないと言っているのに」
「だったら……」
どうやってルーレットをするんだと言いかけて、すんでのところで口を閉じる。自分にたかるつもりだ、当然! 愚問を口にする直前に方針を変え、ラキーチンは尋ねる。
「だったらなおさら、一休みされてはどうですか。おごりますよ。腹を満たすついでに私にあなたの冒険を聞かせるというのはいかがですか?」
これはこれで愚にもつかない。イワンはふんとラキーチンの提案を鼻で笑った。ラキーチンが何か言いかける前に馬車が走り出して揺れる。危うく舌を噛みそうになって車内にぶら下がる紐をつかんだ。出発しますよ! という御者の声が外から聞こえた。遅いんだよ、と苛立つラキーチンに、向かいに座るイワンが何か言う。
「えっ、何ですか?」
石畳の道のせいで車内はガラガラとうるさい。ラキーチンが聞き返すと、イワンは声を高めて、
「さっき私が逃げると思ったでしょう!」
と尋ねた。質問の意図をつかみかねてラキーチンが怪訝そうな顔をしていると、
「でもそんなこと出来っこないんだな、私は無一文ですからね!」
と言ってケラケラ笑った。つまり当然のことながら馬車代もラキーチン持ちである。いや、そうだ、そんなことわかっていたさ! この男がいちいち神経を逆撫でするようなことを言うのは賭博にすっかり頭をやられて興奮しっぱなしだからに違いない。
「無一文になるまでの興味深いお話をお聞かせ願えませんか。どうせ賭博場まではしばらくかかるでしょう?」
「ありふれた話ですよ。都会のジャーナリストのお気に召すかどうか」
「召しますとも、ぜひお聞きしたい。ここへ来る途中に賭博場の方々から色々とお聞きしましたよ。なかなかの武勇伝じゃあないですか。実は今ここの人々を題材にした連作を書こうとしていましてね。半分報告、半分フィクション、まあフェリエトンのようなものです。しかし人はあくまでも点景です、名前だってイニシャルでいい。いくつもエピソードを重ねてここルーレテンブルグを描き出そうという趣向です!」
ラキーチンはイワンに熱心に語りかけた。点景云々は口から出まかせであるが、話しているうちに悪くないアイデアじゃないかという気になってきて勢い口調にも熱がこもる。しかし心の底ではもちろんこの男を材料にしてやるとかたく決心していた。一方のイワンは「なるほど、なかなかしゃれていますね」などと言いながら肝心の話の中身は一般論や伝聞ばかりで自分の話ははぐらかす。ラキーチンはじりじりしながらもイワンを逃がさないよう細心の注意を払った。賭博の金を欲しているのは間違いないが、自分がそれを察していることを少しでも態度に出せばもう絶対に口を開かない。おそらくそのこと自体は推測しているだろうが、お互い知らんぷりを通せる程度の距離を保たねばならない。金をちらつかせるなどもってのほかだ。あくまでも取材の対価、感謝のしるしとして申し出なければならない。そのくせイワンは、あまり立ち入ったことは言わないで済ませようとしているらしい。情報は欲しいが、踏み込みすぎると相手が逃げる。相手は相手で、金は欲しいが多くを開示したくはない。そういうわけで、ラキーチンは一定の距離を置いてぐるぐる回るような、会話とも言えない会話を辻馬車の揺れる車内で交わしたのだった。
攻めあぐねて話の端緒を掴めないまま、馬車はK——ハウスの前に止まった。南北に両翼の張り出した白い石造りの建物で、中央の正面玄関は、前に張り出した石の屋根を白い石柱が支える荘厳なデザインだ。大小三つの賭博場の他に劇場やサロンを擁する、この街きっての娯楽施設、それがK——である。
イワンがするりと滑るように馬車から降りて玄関へと向かった。追いかけようとしたラキーチンを御者が止める。「お支払いがまだですよ!」とんでもない大声だ。道ゆく人の注目を浴びて赤面しながら支払いを済ませ、イワンを追いかける。そう遠くへは行っていないはずだが、白い柱の立ち並ぶ玄関には見当たらない。きょろきょろしていると、石の階段を降りていくイワンの後ろ姿を見つけた。くそ、逃げる気だ! ラキーチンはイワンの名を呼びながら走って追いかける。イワンは振り返り、逃げるかに思われたが逆にラキーチンのところに飛んできて、「静かにしてください!」と語気鋭く注意した。
「ああ、これは失礼、しかし——」
「行きますよ」
イワンは舌打ちせんばかりの顔になりながら有無を言わせずラキーチンを連れていく。さっきよりもなお早足で、ほとんど走るような速度だった。せっかくたどり着いたっていうのに、何だってこんなに急いでいるんだろう?
「そんなに急いでどこへ行かれるんですか?」
「別にどこだっていいんです、ここから離れられれば……そうだ、あなたのホテルはどちらです? 少し休ませていただけると——」
その時、ガラガラと馬車が横を通り過ぎた。妙に焦った表情だったイワンの顔がみるみる青ざめる。イワンは棒立ちになって馬車の方を見つめた。馬車は少し行って止まり、中から男と、それにエスコートされて女が降りてきた。イワンが小さく口の中でくそ、と呟くのが聞こえた。後ろに男を携えた女がまっすぐこちらへ歩いてくる。女はイワンに負けず劣らず蒼白だった。その顔には見覚えがあった。もちろん坊主の息子なんかがお目通りを許されたことなんぞなかったが、なにぶんあの事件の中心人物だった——
「カテリーナ・イワーノヴナ」
イワンが名前を呼んだ。喉が詰まったみたいに頭文字がわずかに掠れる。カテリーナ・イワーノヴナは当然それに気づいて、傲然と顎をあげてイワンを見返した。
「イワン・フョードロヴィチ、ごきげんよう。こちらは私の婚約者のアンドレイ・セミョーノヴィチです。アンドレイ・セミョーノヴィチ、こちらはイワン・フョードロヴィチよ。前にお話しましたわね」
「これはこれは。お会いできて光栄です」
イワンがちょっと帽子をあげて挨拶をした。アンドレイ・セミョーノヴィチは返事もせず、イワンを胡散臭そうに眺めている。長身のカテリーナ・イワーノヴナと並んでもゆうに頭一つ分は上にあったが、背ばかりひょろりと高いという印象で、いまいち威厳に欠ける。カテリーナ・イワーノヴナよりも十ほど年上だろうか、柔弱な文官という印象だったが、口髭を立てているところを見ると案外元軍人だったりするのだろうか。
カテリーナ・イワーノヴナは、ラキーチンが見てもハッとするくらいに美しく、青ざめていた。カテリーナ自身もイワンほどではないが、そのついでのごとくかの地ではしばしば口に上されている。元婚約者を裁判で売り飛ばしてその弟に走ったふしだら女、あのグルーシェンカといい勝負のとんでもない悪女、というのが大方の見方であった。そのせいで大層な持参金がありながら嫁き遅れたオールド・ミス、それがカテリーナ・イワーノヴナであったが、近頃「引き受け先」が見つかった、と。そうするとこののっぽがその「引き受け先」らしい。アンドレイはカテリーナに馬車に戻ってほしいようだが、カテリーナはうるさそうに手を振る。
「私たちは家族でそこのホテルに滞在しておりますの。後ほど尋ねてくださるかしら」
「なぜです」
カテリーナが慎重な様子で口火を切ったのに対して、イワンはほとんど叩き切るような調子で返した。カテリーナの後ろに控えていたアンドレイが一歩前へ出てかばうように肩に手を添えた。
「あなたの……ご依頼の残りを精算するためですわ」
イワンの顔に軽蔑と嫌悪の色が走った。
「そんなものがありましたか? 借用書でしたらこちらの……ええと」
「ミハイル・オーシポヴィチ・ラキーチンです。ジャーナリストで」
「こちらのラキーチン氏のところへ届けてください。私は今拠点がありません、先ほど債務監獄から出たばかりでね。もっともそんなことはあなたもご承知でしょうが」
イワンの口ぶりからすると、監獄から出た段階で借金を精算した相手が誰か見当はついていたらしい。いきなり巻き込まれたラキーチンは、さっきまで蚊帳の外に追いやっていたくせにと思わないでもなかったが、スキャンダルの予感に胸がときめくのを抑えられなかった。彼がカテリーナのところへ訪問するなら何としてもついて行かねばならない。
「それについては後でゆっくりと相談いたしましょう。あなたとお話がしたいのです。来てくださいますわね?」
上流の婦人に似合わぬ性急さで言うと、カテリーナはイワンの手を取った。イワンが気難しそうに眉間に皺を寄せる。アンドレイが自分の庇護する女に合わせてもう一歩前へ出て、ふと顔をそらした。ほんのわずかだが顔がしかめられている。鼻を鳴らす音まで聞こえた。そうか、臭いだ……。債務監獄に澱むあの臭い。水が澱むと臭いを放つように、空気も澱むと悪臭を放つ。あの臭いは確かにイワンにも染み付いていた。彼自身その諦めと停滞の悪臭を放っている。垢じみたシャツだとか、肩にフケの落ちた上着だとか、上着だとか、ぺたりとした髪だとか、そういうものの放つ臭いだ。顔を背けたのは臭いのせいだと自分が気づいたくらいなのだから、イワンが気づかないはずがない。彼は傍目にもわかるくらいに顔色を変えると、さっと手を引いて踵を返した。
「お待ちになって!」
カテリーナがまとわりつく婚約者の手を振り解いてイワンを追いかけた。「来てくださいますわね!」断固たる口調でイワンに問いかける。イワンは不愉快そうにカテリーナを見下ろした。
「行きませんよ。行くもんですか、何のために行かねばならないんです? 借用書はこちらの紳士にと申し上げたでしょう。別にご心配なさらずとも逃げるつもりはありませんが、ご不安でしたらまたあの場所に戻せばよろしいではないですか」
「そんなことではありませんわ! ただ私は友人として、あなたとお話がしたいと申し上げているのです」
「友人? 何のつもりです」
イワンが冷笑した。カテリーナの顔がこわばった。
「もう私たちは何の関係もないはずでしょう。いえ、ありましたね。あなたは今日から債権者で、私は債務者です」
「……お金のことをお願いされたのは私に信頼があるからだと思っておりました」
「ええ、その通りですよ。あなたなら用立ててくださると思っていました。あなたは期待通りに振る舞ってくださったわけです。兄の時と同じようにね」
イワンはそばで聞いているだけの自分でもそれとわかるくらいにあからさまな軽蔑を込めて言った。カテリーナの顔がさらに青ざめ、唇が震える。追いついたアンドレイが何か言う前にカテリーナの方が一歩前に出た。
「ではお分かりになりましたでしょう、私がまだあなたの友人であることは」
カテリーナは声を震わせながらもイワンの軽蔑の視線を真っ直ぐ見返し、食い下がった。イワンはちょっと面食らったように、思わずといった感じで微笑した。
「あなたは本当に……」
「何ですの、はっきりおっしゃって!」
「では言いますが、心配するのがお好きですね。それもわざわざ自分から苦しみに来るんだから。言っておきますが、私はあなたがわざわざ来たところで苦しんだりはしませんよ! あなたが施しをくださっても兄貴のように半分取り分けたりもしない、全部使っちまいます」
「いいえ、あなたは苦しんでいますわ。でなければ私にお金を頼んだりはしませんもの」
「そうかもしれません。ですが、この苦しみの中には快楽もありますよ。あなただってそうでしょう? そのために来たのではないですか。あなたは私が堕落しているところを見て心を痛めにいらっしゃったんです。もし私があなたに借金をしたことですっかり反省なんぞして、賭博をきれいさっぱりやめると言って、小綺麗な上着でも着ていたらあなたはさぞがっかりなさったでしょうよ」
「なんてことを!」
「やっと怒りましたね、カテリーナ・イワーノヴナ。しかしあなたはこうやって私から屈辱を受けて、そうすることで快楽を見出している。こういう苦しみは格別ですからね……恥じる必要はありませんよ。これはあなただけではありませんし、女にとってだけでもない、全ての人間にとってそうなんですから。無論私にとってもね! あなたに金を無心することが私にどんな屈辱をもたらすか、あなたもご存知でしょうに、その上こんなところまで来るんですから! しかし私は今あなたがこうしてここにいることにいっそ喜びすら感じているんです。苦しみも屈辱も突き詰めるところまでいったら快楽です、そうでしょう、あなたはそれをご存知でしょう? だから来たんでしょうが?」
すでに青ざめていたカテリーナの顔がハンカチのように白くなった。一瞬の後に目が鋭く輝き、手が上がったかと思うと頬を打つ音が高く響いた。
「あなたはどんどんお兄様に似て来たわ、お父様にもね!」
いつの間にか集まっていた野次馬がどよめいた。紳士連から町の住人まで、好奇心を隠さず二人を取り巻き、何事か囁いたり口笛を吹いたり、指をさしてドイツ語か何かで議論したりしている。ロシアの野次馬に比べて随分おとなしいものなんだなとラキーチンは妙なところで感心した。それとも文明的か、は! カテリーナの方は、血の気の失せた頬にサッと赤みが差したが、それ以上の感情を見せなかった。周りに野次馬などいないかのように背筋を伸ばし、馬車を降りた時の高慢な顔つきに戻ると、「失礼いたしました」とイワンをまっすぐ見て言った。
「取り乱して見苦しいところをお見せしましたわ。ともかくご依頼のお金については、手元に置いていても仕方がありませんの。清算した残りについては、あなた」
あけすけに金に言及したかと思うと、ラキーチンの方を向いてカテリーナは言った。気の毒なアンドレイと共に再び蚊帳の外で成り行きを見守っていたラキーチンは、突然自分に矛先が向いて「私ですか?」と聞き返した。
「あなた以外に誰がいるというの。あなた、ええと、ミハイル・オーシポヴィチ、どちらに泊まっているのです?」
ホテルの名を告げたが、カテリーナは聞き取れなかったようだった。「名刺はありませんの?」とカテリーナは高飛車な調子で言った。ラキーチンが慌てて名刺を出すと、受け取りもせずに「滞在先を書いて頂戴」とまたしても高飛車な調子で指示を飛ばす。ラキーチンはちびた鉛筆でホテルの名と部屋番号を書いて名刺を渡した。カテリーナは受け取って一瞥もせずに——なんて女だ!——アンドレイに渡す。
「残りについてはあなたのところに送ります。この人から受け取ってくださいな。お金は返さなくて結構ですわ。残りの分も全て納めて頂戴」
前半をラキーチンに、後半をイワンに言うと、カテリーナはくるりと踵を返して振り向きもせず馬車に乗り込んだ。アンドレイは、大人しく見ていられず、かと言ってただならぬ様子に口を挟むこともできず、途中から青くなったり赤くなったりしていたが、結局何も言わずにカテリーナを追いかけて馬車に乗り込んだ。アンドレイが乗り込むと同時に馬車が出る。なんて女だ! ラキーチンはもう一度思った。さっきあの女の勢いに気圧されて卑屈な受け答えをしたのが今更気に掛かり、密かに赤面した。
イワンは頬を打たれた瞬間から身じろぎもせず、その場に立ってカテリーナを見ていたが、馬車が出た瞬間に「ほらね、ごらんなさい、私は苦しんだりいたしません!」とつぶやき、何かを探るように左手をポケットに入れた。それから、ラキーチンがそばにいるのに気づくと、「そうだ、あなた!」とポケットから手を出して指をパチンと鳴らした。
「あなた、いかがです! フェリエトンなんかやめて私を書くというのは? フェリエトン風小説でしたか、まあなんでもよろしい、この街を主役にするとおっしゃっていましたね? おやめなさい、私を主役になさい、是非ともそうなさい! 私は今からあの女に復讐します、つまり借りた金を全部返してやるんですよ! 一文なしがどうやってとお思いですか? もちろん、あいつ、あの赤と黒の魔物ですよ! あれで金を作ってあの女に全額、いや二倍にもして叩き返してやるんです! どうです、あなた、あなたにとっては私が失敗しても成功しても悪くない見せ物になるのではないですか?」
イワンは興奮した口調で、目をギラギラさせながら言った。ラキーチンはその提案に思わず身を乗り出した。元よりイワンを題材にするつもりだったが、それに加えて「あの女」に復讐するというところが気に入った。あの高飛車な女に気圧されたのみならず、そもそも会話の相手とすら認識されていなかったことに気づいたからである。貴族というのはどいつもこいつもどうしてこういけすかないのだろうか? ラキーチンは目の前の相手も当の貴族であることを一瞬忘れた。頭の中には復讐の二文字があった。カテリーナ・イワーノヴナという女への復讐心はホフラコーワという女への復讐心と重なって奇妙に捻れた。自作の詩を書いて貴族の庇護を求めるなんてもうとんでもなく古いやり方じゃないか、今は自分の才覚次第でどうにでもなれる時代だ。あの女どもなんかそもそも歯牙にかける必要もなかったのだ! 自分は自分の力で石造アパートを建ててやる。
「そうします、そうします! あなたを取材しましょう、独占的にさせていただきますよ、いいですね? 構わないでしょう?」
イワンは「取引成立ですね!」と言ってラキーチンの肩を叩くと、場違いなくらいに朗らかに笑った。実際場違いだった。これから彼は破滅しようというのだから! イワンは「では行きましょう!」と言うが早いがラキーチンを置いてスタスタ歩き出した。
「どこへ行かれるんですか?」
イワンは振り向いてラキーチンがついてきていないのに気づき、苛立った顔をした。「決まっているでしょう! あそこですよ」イワンはカジノを指差した。正確にはそれがある建物を。ラキーチンは唖然とした。
「でも……無一文でしょう!」
「ええ、ですがあなたはお持ちでしょう? ご心配なく、ちゃんとお返ししますよ! たとえ負けたとしてもまだ借りるあてはありますからね、もっともまた債務監獄に逆戻りかもしれませんが、は、は!」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
ラキーチンはほとんど悲鳴を上げるようにしながらイワンの肘を捕まえた。イワンは不愉快そうに顔をしかめる。構うもんか、カラマーゾフ的力だかなんだか知らないが、あまりに生き急ぎすぎる! ラキーチンの心配事はまず金だったが、記事のことも気にかかっていた。このままなし崩しに賭博に繰り出し、何の盛り上がりもなくカジノに金を吸い上げられては尻つぼみどころではない。もっと盛り上げなくてはならないし、そのためにはすぐに金が尽きては困るのだ。
「一度どこかに落ち着きましょう、あなたは恐ろしく興奮しているんだから! それじゃあ当たるものも当たりませんよ、ともかくあなたはあの穴蔵から出たばかりですし、一旦休んでですね、カツレツでも食べて、明日にでも出直した方が良くはありませんか? カテリーナ・イワーノヴナからも、まあ、何かしらは届くわけですし、それを待ってからでも」
そう言った瞬間にイワンの顔に浮かんだ表情をラキーチンは忘れられない。そこにははっきりと軽蔑の色が浮かんでいた。ラキーチンは、相手が自分をどう思っているかが手に取るように分かった。尋ねるまでもなく顔に書いてある。
すなわち——救いようのない凡人。
2
手紙を書き終えると、ラキーチンはそれをきっちりと折りたたんで宛名を書き、封をした。部屋を出て狭い廊下を通り、急な階段を降りてロビーに向かう。ちょうど玄関を掃除ていた雑用係の少年に小遣いと一緒に手紙を渡した。少年は一つ頷いていつものように駆け出した。ラキーチンは一仕事終えたかのようにふうと息をつくと、少年に背を向けて階段を上り、自分の部屋の隣の扉をノックした。すぐに返答があり、部屋に入る。扉を開けてすぐそばの場所に机があり、危うくぶつけるかと思った。実際には扉までは拳二つ分くらいの余裕がある。自分の部屋と家具の配置まで違っていてやりづらい。扉に向き合うような形で座っているイワンはちょっと顔を上げて、迷惑そうな顔をしながら皿の上のカツレツを切り分け、口に運ぶ。
ここが三流ホテルの一室であるということに目を瞑れば、イワン・フョードロヴィチはすっかり貴族の若旦那らしい落ち着きを取り戻していた。彼は垢じみたシャツを新しいものに替えて湯を運ばせ、顔を首元まで洗ってさっぱりし、そうすると腹が減ってきたのでこの辺りの名物だというカツレツを注文して食べていたところだった。つい今朝まで債務監獄に入っていたとは思えないし、この部屋だってつい数時間前にラキーチンが自分の部屋の隣にとってやったものとも思えない。イワンがナプキンを襟元に押し込んでいるその真新しいシャツだってラキーチンが調達したものだ。もちろん全て勘定はつけてあって、イワンが過分な要求をしたり、あるいは賭博で勝った際にはきっちり請求書を突きつけてやるつもりだった。
「失礼。食事中ですがお気になさらず」
「ええ、もちろん気にしませんとも」
少しは気にしろ、とラキーチンは心の中で悪態をついた。イワンは客に椅子をすすめもせずにカツレツをぱくついている。ラキーチンの泊まるホテル、つまりはイワンも今まさに泊まっているこのホテルは、部屋といえば窓は小さく天井は低く、壁紙は煤けて薄暗く、人一人やっと横になれるような小さなベッド一つでいっぱいになるような代物だった。壁紙の裏には当然のように虫が巣食っているし、ベッドには南京虫がわいている。調度と言えるようなものは、今イワンがカツレツを食べているテーブルくらいしかなかった。当然椅子も彼の座るもの一つきりしかない。しかし何か言うことがあるだろう、とラキーチンはいらいらしながらイワンがカツレツを食べるのを眺めた。ここの食事は食事とも言えないような具のない薄いスープとパンしかないが、差額を出せば隣の食堂から料理を運んでもらえる。さすがは保養地なだけあってあぶれ者にもなかなかどうして腕のいいものが混じっていて、そこの料理人は、噂では前職は高級ホテルのシェフで、喧嘩か賭博かその両方かで身を持ち崩して放り出されたとかで、値段の割に美味いものにありつける——らしい。ラキーチンは食べたことがなかった。そういったものはまた今度にしよう、と先送りするふりをして当然のように切り詰めていた。確かにさっきカツレツでも食べてとは言ったが、債務監獄から出たばかりのくせに迷いなく注文するとは、このボンボン育ちが人の金で贅沢しやがって、とラキーチンはまた内心毒付いた。一番安いスープとパンで済ませた自分がバカみたいだ。
ラキーチンはベッドの端に腰を下ろした。イワンが不愉快そうにラキーチンの方を、というよりは彼の体重で沈んだベッドにできた皺を見た。構うもんか、これからもっと不愉快になっていただくのだから! ラキーチンはふところから封筒を取り出してカツレツの皿の横に置いた。封筒は真っ白な、厚手の紙で、ここで最も高級なホテルの型押しが押されてあった。
「カテリーナ・イワーノヴナからです。ついさっきここに届きました」
イワンは食事の手を止めて封筒をつまみ、開封した。中をあらためてまず書き付けを取り出した。気難しい表情でじっと眺めると、ラキーチンに手渡した。
「検めていただいて構いませんよ、大した内容ではありません」
イワンの言った通り、手紙に大した内容は書いていなかった。依頼の残りは確かに渡したということと、返済は辞退するということ、それから明日にはここを発つ予定なので万一手形に問題があってもすぐには対応できないということが事務的な文面で手短に書かれている。イワンの方を見ると、今度は封筒から手形を引っ張り出して眺めていた。ラキーチンの視線に気がつくと手形を封筒に収めて肩をすくめた。
「大した額ではありません。四百ターレルちょっとです」
上限いっぱい賭けて二回分といったところか、とラキーチンは胸の中で計算した。これでは少々盛り上がりに欠ける。もう少し、少なくとも十回勝負できるくらいの資金は欲しいところだ。
「それで、いくらぐらいお借りになったんです」
「さてね……四千か、五千グルデンほどでしたか」
「というと、ええと」
「三千ルーブリですね」
ラキーチンは思わずイワンの顔を見た。イワンはニヤリと笑ってみせる。
「あなたはあの事件をご存知なのでしたか。そう、あの運命の三千ルーブリですよ。あれを兄貴と、私とでカテリーナ・イワーノヴナから引っ張り出したことになりますね。どうです、随分とゴシップらしくなってきたじゃないですか?」
「フェリエトン小説です」
ラキーチンは訂正した。自分はゴシップ屋などに戻るつもりはない。イワンは気のない様子で「これは失礼」とカトラリーを皿に置き、ナプキンを首元から取り去った。皿の上のカツレツはあらかた片付いていて、付け合わせの野菜のカスと得体の知れない黄色い脂だけが残っている。イワンは汚れた皿を端に押しやると、左手をポケットに突っ込み、何か思案するような顔つきになった。
「今後についてご相談しても?」
ラキーチンが尋ねると、片眉をあげてどうぞ、というように頷いた。
「まずですね、お互いの目的を確認しますよ。私はあなたを題材にして記事を書きたい。あなたはカテリーナ・イワーノヴナに金を返したい」
「二倍にして」
「……二倍にして返したい。となると先立つものが必要です。まずはさっきの手形。それ以外には何かお持ちですか?」
「あるわけがないでしょう」
「そうでしょうね。いえ、これは単なる確認です。となるとどこかから資金を調達する必要がありますね。先ほど確か借りるあてがおありとおっしゃっていましたが、そこから少し借りて……」
イワンはうるさそうに手を振ると立ち上がった。
「元手はあるんでしょう? なら話は簡単じゃないですか、どうしてそう難しくするかな! 文学者というものは得てしてそういうものかもしれませんがね。さ、銀行が閉まらないうちに行きますよ!」
それから一時間後、ラキーチンとイワンはK——ハウスの正面玄関から青い顔をして出てきた。このルーレットとカードの殿堂の扉をくぐり出るものは、大金を得て夢見心地になっているものと、大金を失うか、今失いつつあるものの二つに分かれる。不思議とどちらも顔色は真っ青になっているのだった。第三のグループとして、金を稼ぐ必要はなく、賭け事を遊びと弁えている紳士淑女連もいるにはいたが、そういう人々が本当に賭け事をしていると言えるかははなはだ疑問である。賭けの本質は賭ける金の多寡ではなくそれがいかに切実な金であるかどうかである。果たしてこの二人も有り金を持ってこの建物をくぐり、そして今、並んで出てきたのであった。
石段を降りきったところでラキーチンが口を開いた。
「どうするんです」
「何がです?」
「負けちゃったじゃないですか!」
ラキーチンはイワンに食ってかからんばかりになった。だからやめておけばよかったのに、どうしてこの男の言うことなんか信じてしまったんだろう! つい一時間前まで存在していた四百ターレルはラキーチンの目の前でみるみるうちに減り、なくなった。その間この男は反省もせず「一度や二度の負けでやめてしまってはルーレットの意味がありません」だの「全体の流れを掴むにはそれくらいの投資が必要なんです」だの「最終的に帳尻が合えばいいのですからまだ慌てる段階ではありませんよ」だの、それらしい言葉を吐きながら淡々と金をルーレット台に並べ、その全てをあっという間に失った。少しは勝った……そういう瞬間もあったが、「これでは足りないんでしょう? ならば今が勇気を出すときではないですか」というので、もうここでやめにしようという自分の意見を引っ込めてしまったのだった。それでイワンは大きな賭けに出て全額失った。あそこで何がなんでも、羽交い締めにしてでもやめさせるべきだった!
イワンは左手をポケットに突っ込んだ姿勢で、ラキーチンを小馬鹿にしたように見下ろした。実際のところ、ラキーチンはかなり背が高かったが、イワンも負けず劣らず長身だった。その上でこの男は、傲然と顎をあげて相手を見下ろすのだ。ラキーチンはこの男のこういうちょっとした仕草が気に入らなかった。
「そりゃ負けることだってありますよ。それが賭け事というものじゃないですか?」
「だけどあなた、さも勝てるような口ぶりだったじゃないですか!」
「勝てるとは一言も言っていませんよ」
「この詭弁家め!」
罵倒が口をついて出てからラキーチンはハッとした。彼を怒らせては元も子もない。しかしイワンはそう言われてもにやにやと愉快そうな笑みを浮かべるばかりであった。くそ、この男、俺をからかってやがる! ラキーチンは腹立ちのあまりこのまま捨て置いてやろうかとすら一瞬思ったが、それこそこの男の思う壺じゃないかと考え直した。
「失礼。取り乱しました」
「いえ、こちらも言葉が過ぎました。少々興奮していたようです」
イワンは意外にも落ち着いた口調でそう返した。さっき浮かんでいたニヤニヤ笑いも消えて、ごく真面目な表情に戻っている。途端にラキーチンはさっき罵倒したのを恥ずかしく思った。彼を罵倒したことではなく、興奮を表に出したことに対してである。ラキーチンは仕切り直すように咳払いをして、まるで散策をしているような顔で歩き出した。イワンもそれに並んで歩く。
「ともかく……これではあなたの目標は達成できません、そうですね」
「ええ、そうですね」
「私の方も記事にならないのは困る。これじゃあ盛り上がりも何もありませんからね。もちろん最初の構想に戻すことはできますが、正直に申し上げて、あなたからの提案を魅力的に感じています」
「そうですか」
イワンはのらくらと返事をした。またさっきの馬車と同じだ。ラキーチンは作戦を変えて単刀直入に行くことにした。
「ともかく金がなければ先へ進めません。先ほどおっしゃっていた心当たりというのは?」
イワンは無言で肩をすくめた。
「カテリーナ・イワーノヴナですか?」
「まさか! 今から金を返す相手にさらに借金を重ねてどうするんです。いるんですよ、高利貸しがね……私を債務監獄にぶち込んだやつですが」
「ユダヤ商人とか呼ばれていたやつですか?」
「そう呼ばれていますがね、れっきとしたロシア人ですよ。ロシアの商人の長男坊だったらしいですが、親に勘当されてやけっぱちでここへ来たら大勝ちしたとかでね。ところがここでさらに賭け事をやるんじゃなくて、それを元手に商売を始めたんですよ、根っからの商人気質ってやつですね! 高利貸しは副業みたいなもんで、血も涙もないやつですがロシア人となると同郷のよしみで多少は融通してくれます、もちろん証文はとりますが。実を言うとあいつが私を債務監獄行きにしたのは、私がカテリーナ・イワーノヴナのことをうっかり漏らしたからなんですよ。いざとなれば伝手があると言って無理やり借りてきたもんだから、いよいよとなったら私を債務監獄に縛り付けて取りっぱぐれのないようにしたんです」
イワンはまるで観光案内するかのような口調でしゃべりながら早足で歩いた。ラキーチンはそれを追いかけながら相槌を打つ。イワンの話はラキーチンにとっては意外だった。このプライドの高い男が元婚約者を担保にし、あまつさえ監獄から助けを求めた? あの村にいた頃であれば信じられなかっただろう。第一、彼には弟もいるはずだ。元婚約者よりも先に頼るべきはこちらではなかろうか。
『ユダヤ商人』こと高利貸しのトリシャートフ氏の家は、ルーレテンブルクの中心地からほど近い場所にあった。大通りを外れて細い道に入った突き当たりにある、こぢんまりとした、古いが居心地のよさそうな屋敷で、噂によれば借金のカタにそこに暮らしていた女地主から取り上げたらしい。実際それに近いことが行われたわけだが、トリシャートフ氏本人はその方が屋敷のためだったと思っているしそれを公言してもいた。元の持ち主は、以前と同様の生活ができなくなってからも持ち前の貴族らしい優雅な怠惰で屋敷を朽ちるままにさせていた。彼女が暮らす寝室と居間以外はろくに掃除もされず、蜘蛛の巣が張るまま、良質の絨毯も埃ですっかり傷んでいた。トリシャートフ氏は、ほとんど朽ちかけていた屋敷の埃をはらい、壁を張り替え、カーテンや絨毯を新しいものにし、モダンで暖かな「我が家」へと完全に生まれ変わらせた。その役目を果たしきらないまま朽ちていくのは道具として生まれたものにとっては最大の不幸である。彼はそういうことに我慢がならなかったし、これは慈善とまでは行かなくとも資源を有効に活用した、一種の善行に数えられるものだと思っていた。
自身が『ユダヤ商人』と呼ばれているのをトリシャートフ氏はそれほど気にしていなかった。かつてはこれに憤慨したものだが、今はそれを受け入れている。一つは、その名によって咎められている強欲さは自分のものではなくかの民族が負うべきものであり、もう一つはイギリスが生んだ偉大なる劇作家の名作にあやかったあだ名であるからだ。つまりは自身の持つ冷淡な強欲さと、それによって生まれた怨嗟の声を他人に押し付け、自分は由緒はないが立派な紳士であるとの体面を自分自身に対してのみ保ち、他者からの意見には耳を貸さずに安穏としているという、そういう種類の人間がトリシャートフ氏だった。
貸金業の書き入れ時は朝と夕方、つまりは賭博場が閉まった後と銀行が業務を終了した後だ。全てを失い、これからも失い続ける人間が彼の元へ駆け込んでくる。彼はその欠落を少々埋めてやる。成功すればそれで良いし、失敗したとしても土地や邸宅が彼の手元に残る。別に商売はやっていたし、高利貸しはあくまで副業だったので、トリシャートフ氏は客を選り好みした。回収の目処の立つ場合にしか貸さなかったし、そうでなくても気に入らなければ追い返した。選り好みが財布の紐を締めるのではなく緩むほうに働くのが、同郷の人間、すなわちロシア人相手であった。彼は家から放逐され、国内外を放浪した時のことを忘れていなかった。大商人の父親は最後の最後で息子に甘く、悔い改めることを期待してそれなりの額を「手切れ金」として渡した。それは放蕩の日々の中ですぐになくなってしまい、最後の金で買った切符がルーレテンブルグ行きだった。ほとんど一文なしのトリシャートフ氏に金を渡したのは、誰あろうロシアの貴族で、それはほとんど気まぐれに近いものだったし、どちらかといえば冥土の土産、転落の最後のご馳走的な意味合いの金だったが、ともかくもトリシャートフ氏はそこから蘇った。以来、ルーレットには近づかないが、そこに近づく人間には変わらぬ関心と一種の(彼なりの用語で言えば)「思いやり」を抱き続け、特に同郷の人間に対しては、あの時の貴族と同じ振る舞いを心掛けていた。
さて、その日そろそろ店じまいをしようとしていたトリシャートフ氏の元へ現れたのは二人組のロシア人だった。一人はつい先日金を貸したイワン・フョードロヴィチで、もう一人は見覚えがなかった。それなりの格好をしているがコートは既製品らしく彼の体格にも全体の趣味にも合っていない。おそらく元大学生のジャーナリスト崩れ、近頃台頭目覚ましいという「新しい階級」の人間だろうと踏んだ。こういう人間はあくせく働いて金を稼ぐか、大学や街頭で勉強もせずに集会だの何だのをやるのに忙しくて、まずこんなところにまで来ない。何の用で来たのかというのは多少トリシャートフ氏の興味を引いたが、仕事の前には儚い興味はすぐに失せてしまう。そして二度と戻らなかった。たとえ最終的に追い返すことになるだろうと予想がついていても、まずは商売相手として応対するというのがこの男のやり方だった。付け加えると、彼は身なりにしろ髭や髪の整え方にしろ、いわゆる「ジェントルマン」的な、近代的で紳士的な装いを好んでいた。その日も何年か前に仕立てさせた(流行に左右されない質実な型が彼の希望であった)深いブラウンのスーツ姿で、そうした格好で帳場に座り、手を広げていると、商人というよりは医師か弁護士のように見えた。
「イワン・フョードロヴィチ、これはこれは。今日は何のご用で? 債務は全て精算していただきましたよ」
トリシャートフ氏は慇懃に言った。無論この慇懃さは拒絶を含んでいる。今のイワン・フョードロヴィチに返済能力はない。彼の借財を立て替えた奥様とはK——の前で派手な喧嘩別れをしたと聞いている。この耳の早さもトリシャートフ氏が一代で成功した秘訣であった。もっともあれだけ大っぴらにやれば、よっぽど鈍い人間かよっぽど孤独な変人でない限り、その情報を避けるのは難しいだろう。
「こんばんは、セミョーン・アルダリオノヴィチ。もちろんここへ来る目的は一つしかありませんよ、ご存知でしょう?」
果たしてイワン・フョードロヴィチはまたも金を借りに来たのだった。しかしもう二度目はない。担保も運もこの男には尽き果てている。トリシャートフ氏は遺憾の表情を浮かべなながら首を横に振った。
「残念ですが、イワン・フョードロヴィチ。あなたにお貸しできるものはもうありません、無論担保が他にあれば別ですが」
イワン・フョードロヴィチの婉曲な物言いに対してトリシャートフ氏はストレートに返した。いたずらに長引かせるのは双方にとって気力と時間を浪費することになる。ここがだめなら次と切り替えたほうが顧客にとってもいいことだろう。しかし、イワン・フョードロヴィチはまるで気にしていないように笑った。
「ええ、もちろんそうでしょうとも! 私もそんな無茶を申し上げに来たのではありませんよ。提案というのは、こちらの青年に多少融通していただけないものかということでね」
「何ですって?」
ラキーチンはまたもギョッとした。何を言い出すんだ、この男は?
「言ったとおりですよ。私にはもう貸せないというのであれば、次はあなたでしょう? 何、ほんの少し借りればいいんですよ。それですぐ増やして返せば利息だってそんなにかかりません」
「そういうことではないんですよ。何だって私が借りなきゃならんのですか?」
「金はない。私には貸せない。だったらあなたしかいないでしょう。あなただって担保になるものくらい多少は持っているでしょう? こちらのセミョーン・アルダリオノヴィチはロシア人に対しては親切ですからね、多少なりとも換金できるものがあれば貸してくれます……そうですね?」
トリシャートフ氏は重々しく頷いたが、その前にラキーチンが「冗談ではありません!」と憤然として踵を返した。
「どこへいらっしゃるんです?」
「帰るんです! こんなことだとは思わなかった! 人を揶揄うにもほどがある!」
イワンは仕方がないというような顔でトリシャートフ氏に一礼すると、ラキーチンを追いかけた。
「お待ちなさい、ええと……」
「ミハイル・オーシポヴィチ!」
ラキーチンは追いかけてきたイワンを振り向いて猛然と言った。絶対帰ってやる、このまままっすぐロシアに帰ってやると固く決心していたが、同時にそうできないことも自覚していた。くそ、あれさえなければすぐに帰ってやるのに。ラキーチンは先ほど出した手紙を思い浮かべる。あれの返事が来ない限り自分はここを動けない。
「ミハイル・オーシポヴィチ。そんなにカリカリしなくてもいいではないですか? 不幸な行き違いがあったことは認めますが、私は実際、あなたもこれに賭けているのだと思っていたものですから」
「どういう意味ですか?」
「私を題材にした『フェリエトン』とやらで名声を勝ち取ろう、そうして世に出た自分を見せることで自分を爪弾きにした社会に復讐してやろう、そう思っていたのではありませんか?」
ラキーチンは思わず足を止めそうになった。しかしそうしては図星を突かれたことを相手に喧伝するようなものである。ラキーチンはかろうじて相手を一瞥するに止め、歩き続けた。イワンはラキーチンにぴったり並んで歩きながら、愉快そうに続ける。
「何、難しいことではありませんよ。あなたの名は聞いたことがありません。私もかつては新進の批評家と言われた若者でしたからね、あの世界に対しては多少なりとも鼻が効くんです。あなたはそれほど売れていない、にもかかわらず取材がしたい、しかも結構な骨子のある企画をお持ちだ。であれば逆転狙いのジャーナリストだろうと推測するのはそれほど難しくありません! おや、私は別に野心を抱くのも悪くない、むしろ応援したいと思っているんですよ! そんな顔をなさらないでください!」
ラキーチンは今度こそイワンの顔をまともに見た。イワンは青ざめた顔に嘲笑を浮かべ、顎をあげてラキーチンを見下ろした。これが自分に対する復讐なのは疑うべくもない。単なる賭博中毒者だと侮った自分の失敗に歯噛みしながら、ラキーチンは「そんな顔とはどんな顔です?」と言い返した。イワンはニヤリと笑って続ける。
「悪魔でも見たような顔ですよ!」
そしてけたたましい笑い声を上げた。さも可笑しそうに腹を抱えて笑うのを見て、ラキーチンはついに爆発した。否、頭から冷水を浴びせかけられたような冷たい怒りに瞬時に支配された。彼はさっきのように怒るのではなく、押し殺した声で反論に転じた。
「わかりました。しかし決めましたよ。あなたに対してはビタ一文出しません。その代わりにどこまでもついて行って取材してやる。カテリーナ・イワーノヴナに金を返さなくてはならないのは私じゃない、あなたなんだ。どっちにしろ金策に走り回るのはあなたの役割ですよ。私はその様子を記録しましょう。どこに逃げても無駄です、あなたがぶちこまれていた間に私だって何もせずぶらぶらしてたわけじゃありませんからね、情報源はどこにでもいます。どれくらいで音を上げるのか見ものですね。まあ、もちろん、そのままカテリーナ・イワーノヴナの借金を踏み倒して逃げたっていい、それだって一つの選択肢だ。私はその展開でもいいと思いますよ。人間的で悪くない」
ラキーチンは思いついて「そうだ、ホテルだって私の支払いでしたね!」と付け加えた。イワンの顔から冷笑が剥がれ落ち、神経質そうに痙攣する。反撃の機会と見てラキーチンは一気に畳み掛けた。
「イワン・フョードロヴィチ、ここでの主役はあなたご自身なんですよ! 私がこれから書く小説でもこの地でも、カテリーナ・イワーノヴナとの関係においてもね! あなたは今までずっとそうだったのだし、これからもそうやって人の耳目を惹きつける運命にあるんです。カラマーゾフの事件は当地ではまだ口にされる大事件ですし、あなたの名声も当地では全く廃れていません。ルーレテンブルクでの振る舞いもそろそろ噂になりかけていますよ、皆あなたに関心があるんですな、新進の批評家であり自ら罪を告白した受難者であり、フョードル・カラマーゾフの血を引いた放蕩者だなんて、フェリエトン小説どころか分厚い一代記でも書けそうじゃあないですか? 私はきちんと記録します、誠実に書きます、あなたが懸命に生きてあちこち駆けずり回る様をね……いや、あなたは何と言っても地主貴族の次男坊で一財産を受け継いだ人物です。無様に駆け回れるものかな、カテリーナ・イワーノヴナに助けを求めたくらいですしね。あの女はもうあなたには金は貸さないでしょうが、あなたにはまだ伝手だってあるでしょう?」
「そんなものありません」
今度はイワンが歯噛みせんばかりの表情で聞いていたが、そこでようやくぼそっと口を挟んだ。
「そうですか? だってあなたには兄弟がおありじゃないですか! 今すぐ手紙を書けばいい、あのアリョーシャのやつだったらすぐに——」
「何・だって?」
イワンは眼を剥いて一単語ずつ区切るように言った。ラキーチンの肩を掴んでにじり寄る。
「あんたはあいつと知り合いなのか? あいつから聞いたのか、このことを?」
「そんなわけ——」
「いや、見覚えがあるぞ。あの村であいつとよくつるんでた奴だな、ここへ来たのはあいつの頼みなんだな? あいつめ、あれだけ放っておけと言ったのにスパイを寄越しやがったのか! 怪しいとは思っていたがまさかあんたがあいつとお友達だったとはね!」
「そんなわけないでしょう!」
今度はラキーチンが食ってかかる番だった。イワンの胸を突き飛ばし、掴まれてしわくちゃになった上着を直すと、イワンに向かって人差し指を突きつける。
「あんなやつ友達でも何でもありません! あなたも失礼な人ですね、つるんでただなんて、そりゃ私とアリョーシェチカは同い年でしたし友人付き合いをしていた時期もありましたよ、しかし向こうの方から友達じゃないって言って来たんです! 誤解しないでください、言われるまでもなく私だってあんなやつ友達だと思ったことはありません、単に歳が近いから君僕の間柄だったってだけですよ! 全くもってあいつとお友達なんかでは断じてないし、あいつの頼みなんか聞くはずがありません!」
イワンはラキーチンの激昂を面食らったような顔で聞いていた。一通り言い終わって肩で息をしているラキーチンをしげしげと眺め、「なるほど」と呟いた。
「何がなるほどなんですか」
「いや、よく分かりました。あなたとアレクセイは友人ではない」
「その通りです。ようやくお分かりいただけましたか」
ラキーチンは嫌味ったらしい口調で言った。二人は一瞬睨み合ってから、また並んで歩き始めた。一通り怒って冷静になったラキーチンはまたも金の算段を始めた。が、計算も結論も至極あっさりしたもので、つまりは結局振り出しに戻る、一文なしだ。これじゃあ何一つ始まらないまま終わっちまう。
「……しかしあなたにとってアレクセイは弟でしょう。あいつなら言えばそれなりに用立てるんじゃないですか? 馬鹿みたいにお人よしだし。それとももう縁を切られた後だとか?」
激昂の後ですっかり猫をかなぐり捨てたラキーチンがあけすけに聞いた。イワンの方もあからさまに嫌そうな顔をしてラキーチンを見る。
「確かに弟ですし、言えば用立ててくれるでしょうね。しかしそうはしたくない」
「なぜです」
「あなたならお分かりでは?」
「なるほど」
善良な人間の善意を当てにするのは、高利貸しを当てにするより時に心理的な抵抗が大きい。元婚約者に泣きつくよりも弟に頼む方が嫌だというのはにわかに理解しがたいが、カラマーゾフというのはそもそも不合理の塊みたいな連中だ。彼の兄貴のミーチェンカも衝動で行動するかと思えば訳のわからない理屈を並べて横領した三千ルーブリをわざわざ半分取り分けていたなどと証言していたし、イワンにも何かしら彼にしか分からない理屈があるのだろう。ラキーチンはそう納得し、それ以上追求しなかった。もちろん後々この辺の事情を探り出してやろうとの決心は忘れなかった。
しばらく無言で歩いていたが、イワンが不意に「仕方がありませんね」と言ってポケットに左手を入れた。引っ張り出した手に摘まれて、一枚の金貨が光っている。
「あなた……! そんなもの隠し持っていたんですか」
「隠していたわけではありません。何となく取り分けていたんですよ。あればあるだけ賭けてしまいますからね。さ、どうぞ」
イワンは金貨をラキーチンに押し付けた。ラキーチンは受け取らずに両手を体の前に広げ、拒絶の姿勢を取った。
「何です?」
「ですからこれはあなたにお預けします。さあ、おあつらえ向きに見えてきましたよ」
「ちょっと待ってください、私に何をさせるつもりですか?」
イワンは例の賭博の殿堂、白い石柱の並ぶファサードも荘厳に、夜空を背景に浮かび上がるK——ハウスの方へ顎をしゃくった。
「おやりなさい。どうなろうと私は文句を言いません。あなたにお任せしますよ。さっきのでよく分かりました、今の私にツキを引き寄せる力はありません。ささやかながら私のなけなしの運まるごとあなたにお渡しします。さあ」
イワンは手のひらに乗せた金貨をラキーチンの方へ差し出した。彼はそれに惹きつけられるように手を伸ばし——イワンの方へ手のひらごと押しのける。
「その手は食いませんよ。いいですか、私はあなたたちを取材しているんです。つまりは観察する側です。実際動くのはあなたの仕事であって私じゃない」
「おや、いいんですか?」
「いいも何も、そういう役割分担ですよ。私はそういう勝負事はしない性質です。その必要もない」
「性質はともかく必要性についてはいかがなものでしょうね」
「どういうことですか?」
イワンはつまらなさそうな表情で肩をすくめた。
「あなた、ここを取材しにいらっしゃったんでしたら、一度くらい経験されてみてはどうです。失礼ですが、さっきの様子を見るにルーレットはほとんどおやりになったことがないのでしょう? もちろん私だって経験しないことは書けないとは申しませんよ。人間の想像力に対してニヒリズムを気取るほど擦れちゃいませんし、良心や法に照らし合わせて経験すべきでないことだって多々あります。しかしながら、ここへ来たのであれば、やっぱり賭けてみなくては。賭博を楽しめと言っているのではない、一度あの台の前に立ってみろと言っているんです。最前線に立てば分かることも多いですよ。あそこに並ぶ人々は取り澄ました顔をしていますが揃いも揃って欲で目が眩んでめちゃくちゃなんです。興奮で体温が上がっているからでしょう、飲んだ酒が胃のなかで蒸発して吐く息はアルコールでぷんぷん臭う。不躾なくらいの距離で体を押し付け合ってルーレット台を囲む。賭博場の連中はひどく急かして早く決断しろと言う。その中で数字や色をこうと決めて、金貨を置いて手放すときのあの感覚! それだって取材のうちです、そうではありませんか?」
「また詭弁ですか」
「そう思うならどうぞご自由に。しかしあなた、私がどうしてモスクワで身を立てることができたかご存知ですか? 今でこそ地主貴族の次男坊ですが、大学に進学した当初は困窮していました。これはあなたもご存知でしょう。そこからどうやってペン一本で身を立てたか? それはギリギリまで近づいたからですよ。外側から上っ面だけなぞっていても迫力のある内容にはなりません。私には金がなく、だからモスクワの最底辺に近い場所で寝起きするしかなく、だからこそ人々——万年九等官や、娼婦や、裏口で客待ちをしている俳優たちや、詐欺や乞食の元締めにギリギリまで近づくことができたんです。もちろん私のこの事情は全くの偶然で、そうでなければ『ギリギリまで近づく』なんてことができたかどうかは怪しいことは認めます。しかしその後も編集者との縁が切れなかったのはこの『ギリギリまで近づく』というやつを心がけていたからでしょうね。まあ、無理にとは申しません。必要に迫られなくてはわざわざ危険な場所に近づかないのが人の性というものですから」
イワンの手のひらの上の金貨をラキーチンはじっと見つめた。ラキーチンは常々賭博というものに自分から飲まれていく人間たちを軽蔑していた。賭博をするからではない。間抜けだからだ。例えば適当に選んだ日付の新聞を手に取り、隅々まで読んでみる、そうするとどこかに必ずそれによって破滅した人間か、破滅したために犯罪に手を染めた人間の話が掲載されている。失敗した先人たちがこんなにもいるのに、なぜそうなる手前で辞められないのだろう? なぜ自分からその一人になりに行くのだろう? もちろんラキーチンも仲間内でのトランプ遊びやたわいない賭け事はやったことがある。それなりに勝った負けたの経験もある。白状すると生活費を巻き上げられて数日間黒パンのかけらと塩で凌いだことだってある。しかしあえて踏み込んだのはそこまでだった。賭博というのは飽くまでも遊び、勝って喜び負けて悔しがるくらいの範囲に留めておくべきで、のめり込むあまりに全財産を注ぎ込んでしまうというのはよっぽどの間抜けか自制心のない人間のやることだ。そして貴族連中というのは、生まれた時から財産を持っていて自分の力で動き身を立てるという経験のないせいか、この種の間抜けがあまりにも多い。彼らは自分の持つ財産に限りがあるということを理解できないのだ。手を振ればそこに出てくるものと思っている。だから賭博のやめ時がわからずのめり込む。あのドミートリイ・カラマーゾフもそのタイプだった。そしてイワン・カラマーゾフ。彼がこのタイプだとは思わなかったが、結局のところ貴族根性の染みついた甘ったれのボンボンだったということなのだろう。いくら口が回ったところで彼も結局はその辺の凡百の温室育ちの坊ちゃん貴族とそう大差はない。後悔先に立たずの度はずれの放蕩、財産を全て失ったところで初めて「どうして?」ときょとんとしている。食べようとしていたイチゴを口から落としてきょとんとしている赤ん坊と一緒だ。赤ん坊と違って口は回るが。そう、彼の言うことは一から十まで詭弁だ。何も自分が、観察者たる自分がわざわざ賭ける必要はない。客観的な観察と微細な描写、それが科学の時代の新しい文学というものである。
しかし——だから、ラキーチンは、イワンの金貨をつまみ上げた。
翌朝、トリシャートフ氏の元を一人の青年が訪ねてきた。正確に言えば二人だが、もう一人は明らかに野次馬で求められてもいないのについてきたらしい。青年は徹夜したらしく、すっかり憔悴していたが、目はギラギラとして恐ろしく興奮していた。いくらか金を融通して欲しいという。担保について尋ねると青年は首を横に振った。
「ありません。いえ、今すぐに私の自由になるものはありませんが、しかし、いくらか受け継ぐ財産もあります……父に言えば目録も送ってもらえるでしょうが、いや、私はすぐに金が必要というわけではありませんが、まあ早いに越したことはないのでね……いずれ私が相続する遺産です、いえ、それに釣り合うだけの金を貸して欲しいわけじゃない、ただほんの少し融通していただきたいというだけで……私が相続権を放棄すれば……いや!」
怪訝な顔で黙って聞いているトリシャートフ氏に対してしどろもどろに弁解していたが、突然言葉を切った。そして異様な目つきでトリシャートフ氏ににじり寄る。
「どうぞ債務不履行の場合は私を債務監獄へぶち込んでください。私は牢獄から手紙を書きますよ。親父は地方の坊主で大した財産もあるわけじゃありませんが、小心で世間体を気にする人間ですからね。息子がそんなところへぶち込まれたと聞けば何としてでも請け出そうとするでしょう」
この言い分はトリシャートフ氏の気に入った。が、彼はそれを表に出さず淡々と借用書を書いて署名をさせた。青年はその間急に物入りになったものだからとかすぐに金ができるはずなので本当ならこれだって必要がないのだなどと言い訳をうわごとのように口走った。これはトリシャートフ氏の気に入らなかった。大方ルーレット場で散財し、手をつけてはいけない金にまで手をつけたのだろう。こうした人間の末路は大抵決まっていて、すぐに債務監獄行きになるか、他から借りたり金を作ろうとさらに賭けたりして引き伸ばし、債務を膨らませた上で行くかだ。末路はどちらも同じだ。彼はどちらになるだろうかと考えながらトリシャートフ氏は金庫から金を出し、青年に渡した。青年の手は震えていた。かつての自分と同じように。
青年はフラフラと店を出た。もう一人の野次馬、イワン・フョードロヴィチは、店の敷居をまたぐ寸前で振り返り、トリシャートフ氏にちょっと挨拶をして出ていった。
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