18.宇治 やぶきた

※ドラマCDver3.0の付属SSのネタバレ注意



 扶桑の流鏑馬のお祭り会場に来ております。前に来た時に目をつけていた屋台をのぞきつつそぞろ歩く。やはり食事系の屋台は人気が高いようだ。今のところ醤油味を手軽に食べられるのここだけだしな。ポーチは時間経過がないのをいいことに、買いだめをしている人もいるとのこと。
 飴細工の職人技を見学し、リアルな金魚を購入。ちなみに狐はご法度のようだ。まぁ、玉藻に長年苦しめられている国だしな。今度白と黒の飴細工を頼んでみようか、いや、いっそ自分で作るか?
 そんなことを考えながらまた歩いていると、ふと視界に何かがひっかかった。なんだ? 謎関係か? それとも何らかの称号かスキルに引っかかったのか? と、そちらへと歩みを進めた。
 スキルや称号には持っていることで「なんとなく気にかかる」という効果があるものがある。無意識に働きかかると考えると怖いのだがゲームだしと気にしないことにしています。そんなわけで、今回もそれかなと、視線を向けた場所は射的だった。
 そしてそこに何やら鬼気迫る雰囲気をまとっている女性が一人――天音だった。何してるんです?

「あぁぁぁ!! 外れた!」
「残念だったなお嬢さん。どうする、続けるか?」

 悔しがる天音に射的の主人がそう尋ねる。なんとなく笑顔が引きつっているあたり、だいぶ失敗してきている。カモというよりも心配しているように見えるあたり、ここの主人は人がいいのかもな。
 射的程度の散財なら天音は問題ないだろうが、知り合いの狂態を見て見ぬ振りも難しい。というか、他の客が遠巻きにしており立派な営業妨害になっているな。

「どれを狙っているんだ?」
「決まってるでしょう、ランスロットさ、まの……」

 カルの、なんだって? と、視線を向けると、天音の指さした先には薄い和紙の封筒風のものがあった。おそらく前にお茶漬が当てた住人のブロマイドだろう。中身は何かわからんのだが。
 そう言えば、店主がブロマイドには大当たりがあるって言ってたな? 御禁制ではないが一回回収されたからとかなんとか。そしてカルの姿絵は偽物が出回ったりで一回回収を命じたとかなんとか――。

「天音、持ってなかったか?」
「変装してるんだから自然に当てるのやめて頂戴。ファンは何枚でも欲しいのよ!」

 ボソッと告げると、天音は苦虫をかみつぶしたようにこちらもぼそぼそと返した。なるほど、無限回収という奴ですね? と、昔ドルオタの友人の一人がそんなことを主張しているのを思い出した。私の食材はついつい取れるだけはむはむしてしまったりするので気持ちはわかります。

「多分それは違うと思うけど」

 なんで考えてることがわかるんです? と、ぎょっとして視線を落とすと、「顔に書いてあるわよ」と返されてしまった。さすがクノイチ。
 それはそれとして、私も店主にシルを払い銃を受け取る。

「私も挑戦するからそれであきらめろ。少し落ち着け」

 言外に営業妨害になっていると伝えると天音もヒートアップしていたことに気が付いたのか、少し身じろいで頷いた。

「はいよ、兄さん」

 少しほっとしたような顔で店主が私に銃を渡す。1発目、2発目で調整し3発目で見事薄い和紙を落とした。

「おめでとう兄さん!」

 店主がそれを渡してくれたので、礼を言って受け取り天音を促してその場を離れた。私が当てたせいなのか、天音が下手なだけだと理解したのか他にも客が入っていった。よかったよかった。

「ほら、これでいいか?」
「悔しい」

 いつもはこんなに下手じゃないのに。と、天音が言う。あ、もしかして何らかのフラグだったんだろうか? しまった。他のプレイヤーが右近から陰界へ行くルートを潰してしまったのかもしれない。いや、まぁいいか。他にもルートはあるみたいですし!

「それなら辞めておくか?」
「うううううう、い、一応見せて」

 何やら葛藤していた天音に言われて封筒を開ける。また斑鳩だったらどうするかなぁ。なんて思っていると、出てきたのは――。

「ドウシテ、ドウシテ」

 天音が壊れた。ドシャッと、地面にうつぶせになって嘆く様子は確実に人目につく。そんなに私が落したのが欲しかったカル――ランスロットの姿絵だったのがショックだったんです?
 崩れ落ちる天音から視線を逸らすように手の中の姿絵に視線を落とす。無表情に近い表情はどこか冷たく、私の知るカルとはなかなか重ならない。まぁかっこいいことは間違いないな。

「天音、どうする? ぶっちゃけると私はいらんのだが」

 何しろ雑貨屋に帰れば本物がいるわけだし。どちらかというとこの冬の日の早朝の氷のような表情のランスロットよりも春の陽だまりのような笑みを浮かべて甘味をむさぼるカルの方がいいです。
 そういう私に天音が震える腕を伸ばし手のひらを差し出す。これ夜だったら不気味だっただろうなぁ。なんて思いながらそっとその手のひらにブロマイドを乗せた。
 そのまま天音は恐る恐るブロマイドに視線を落とし、すぐに大事そうに胸に抱くと立ち上がる。

「お、憶えておきなさいよ~~~~!!!」

 そしてそう言って走り去ったのだった。……うん、にやける顔を見られたくないのでお礼はあとで。ということなのだろう。私はそんな彼女に手を振ると何事もなかったように踵を返したのだった。


 その後、気になって何度か射的をやってみたのだが、ブロマイドの種類はLUK値が影響しているらしく、さらに2枚ほどランスロットの姿絵を手に入れてどうするか悩むことになるのだが、それはまた別の話である。
 あと天音からのお礼は高級緑茶の茶葉と高級和三盆でした。私への礼は食材。よくわかってらっしゃる。

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