出発点に古馴染み/屋上(2023.10.24)
(……よし)
ロボットの整備が一区切りついたところで、ぐんと手を伸ばして体を緩めた。あちこちの関節からぱきぱきと音がして、長い間同じ体勢でいたことが意識に昇る。
気付けば空はオレンジ色になり、下校を始めた生徒たちの声が遠くから耳に届く。数時間ぶりに見たスマートフォンには数件の通知が表示されていて、その一番上には先程偶然会った古い馴染みからのチャット。
『ね、こんなデザイン考えたんだけどどう?絶対カワイイよね!』
メッセージとともに送られてきていた写真をタップすれば、紙に書かれたデザイン画を撮影したものであることがわかる。授業を抜け出して整備を行なっていた己が言えたことではないが、結局あの後早退して作り上げてしまったらしい。瑞希が考えた衣装は妖精のような印象を受ける可愛らしいもので、類も頷く。
『ありがとう、友人もきっと気に入ると思うよ』
先程写真とともに小柄な女性であることは伝えたため、大体のイメージは掴んだようだったけれど、実際に作り始めるためには寧々の協力を得る必要があるだろう。また指先で端末を操作して、彼女にも連絡を送っておく。どうせ、操縦用のコントローラーを扱いやすいものにするためには話を聞かなければならないだろうし。
改めて、整備が終わったロボットを見る。ショー用としては大きめに作ったそれは、今使っている自律型と共にショーで使うにはバランスを取りづらく、昔に作ったものでもあったからしばらく放っていたものだ。小さい頃から寧々とゲームで遊んでいたこともあって、コントローラーを握ることに苦手意識はないが、一人でショーをするとなると、どうしても自らが動かす部分は減らすことになる。
どうやら問題なく動くようであるし、これから手を加えていく工程を思うと胸が高鳴る。スピーカーは付いているものの、カメラや操縦を可能にするためのプログラムは積んでいない。まだ準備段階が終わった程度のもので、やるべきことは山のようにある。以前作った操縦可能モデルのプログラムを応用して、カメラは新しいものを仕入れに行かなくてはならない。しかし、この大きさのものを動かすにあたってはどの程度の視野を確保すべきであろうか。そのあたりにも寧々の意見を仰ぐべきかもしれない。
ヴヴ、と振動したスマートフォンが瑞希からの返信を告げる。
『そっか、じゃあ良かった。採寸の日取りはまた決めよっか』
『というか、類はロボットに着せるときこんな感じで大丈夫そうだった? ボクが勝手に決めちゃったけど』
続けて受信した気遣いの言葉に、問題ないと返す。他者のアイデアが入ってくることは面白い。己だけでは考えつかない、新しいものが生まれる瞬間がいかに楽しいか!
『少し調整は必要になると思うけれど、寧々に確認を取らないといけないことの方が多いだろうからね。そちらに関しての方が瑞希に無理を言うことになるかもしれない』
『任せて任せて! どんな無理難題を言われてもこのボクがばーっちりかわいい衣装に仕立ててあげるから!』
心強い言葉とともに、猫がウインクしているスタンプがぽこんと画面に現れる。今の瑞希らしいな、と勝手に口角が上がってしまった。これから、ひょっとすると忙しくなるかもしれない。そろそろ荷物をまとめて、自宅でもっと手を加えることにしよう。そう決めて、類は立ち上がった。
powered by 小説執筆ツール「arei」