すけべな羂髙ろぐ

※ほんまに順番に詰めただけなんで読めたらええよ!!!!!向けです
※雰囲気すけべやたまにモブ髙/夏髙を含むものがあったりします
※タイトルは画像からサルベージするのがめんどくさいのでつけてないです ほんますんません

<羂索が全部わかりきっててモブ髙を成らせた話>

 「ただいま」を言うなり顔も合わせず風呂場に急ぐ髙羽を、私はあえて呼び止めなかった。尊敬する先輩に誘われ、まだ夢心地なのだろう。サシ飲みに誘って来た先輩。こっそり出て来いよと馬鹿な口止めをしてきた先輩。「私の分も楽しんできなよ」と笑顔で、信じて送り出してやったそれ――
「ぅ、ぐ、ぉぇっ」
 何があったか。私は知らない。欲に満ちた目をしていた男に何をされたか。何故私の顔を見れなかったか。
 扉の奥で髙羽が音を立てる。嘔吐音。押し殺した悲鳴。流水音。しゃくり上げる声。あぁ、可哀想に。
「けっ、…じゃく、ヒ、…ご、め゛、」
 悪夢から覚めないまま、私への感情でいっぱいに、信じた通りになるなんて、本当に可哀想なことだ。

<モブ髙/はじめての枕営業直前>

 大丈夫。今日だけだ。ずっとじゃない。大丈夫。みんなやってることだ。俺だけじゃない。大丈夫。一回口利きしてもらうだけだ。きっかけなんだ。面白いって思ってもらうんだ。そうしたら大丈夫。今日ガマンするだけだ。大丈夫。大丈夫。大丈夫。心臓がうるさい。
「髙羽”ちゃん”」
 ねっとりした声で呼ばれて、べた、掌が俺に触れる。肩。背中。腰。尻。大きな鏡に全部が映っている。どぎついカラーリングの内装も、バスローブまで着ておいて震えちまってるのも、先輩――少し前までの俺ならカスだと斬り捨てた『先輩』も。
「じゃあ、脱いでね」
「…………ッ、ス」
 カスに向かって媚びた笑いをするしかできねぇカス以下も。

<〇〇しないと出られない部屋VS羂髙 すけべ未遂/めっちゃ途中で終わる>

 指定された題に沿わねば出られない部屋。
 欲のままに在る呪霊のたまり場で極稀に現れるとか、現れないとか、発生基準は不確かだが噂には聞いたことがあった、それに私は巻き込まれた。
「ワーッ!?俺たちのアパートが劇的ビフォーアフターしてるぅっ!?」
 紆余曲折を経て人生ひっくるめての相方となった男、髙羽史彦と共にだ。
「何ということでしょう呪力に満ちた素敵な――あのさぁっ。愛の巣を他人から勝手なリフォームされてたら私はもっとキレてるからね?」
 オフの日の買い物帰りだったので揃ってジャージ姿、今晩の献立がよくわかるエコバッグ付きの締まらない姿で、すっかりお笑い芸人が板についてきたと自分でも思う。
 千年以上を呪術師として生きてきたのに、たかが数年でお笑い芸人が七で呪術師が三のバランスになっているのだからどうかしている。まぁ、いいか。どうかしているのは髙羽も同じだ。
「ネタやったら出れる?余裕じゃん!モノボケでも一発ギャグでもバッチコイ!」
 どういった部屋であるかを説明してやっても、彼は呑気なものだった。私が脳味噌を弄ってやったことで生まれた、バグじみた初心者呪術師は呪術のことをナメている節がある。
 真っ白い箱の中央に大きなベッドだけが置かれた異様な部屋も「ホテルみたいじゃん」と呑気なことを言って面白がって、だが、案の定と言うべきかそれは一瞬のことだった。
 『出られない』部屋の危険性を思い知らされた髙羽は、壁を叩き、天井を見上げ、果ては床を剥がそうとして徒労に終わり――今は布団を頭から被ってふて寝している。

「で?覚悟は決まった?」
 ベッドに腰掛け、布団の上から髙羽を撫でる。びくっと跳ねたのは頭部から少し下、たぶん胸だなという部分を撫でたからだろう。うん、まあ、当然ワザとだ。返事がないのでとりあえず確かな隆起と微かな弾力を楽しむこと少し、突然に布団を跳ね退けて髙羽が尻、もとい顔を出す。
「……何フツーにセクハラしてるんだよっ!?」
「胸揉むのはセクハラ以上だね。令和はコンプラ厳しいんだから気を付けてよ」
「あっハイごめんなさ……いやいやいやっセクハラ以上しといて説教するヤツがあるかぁっ!?キャバ嬢説教する客じゃねぇんだぞオマエ!!」
 顔を赤くした髙羽が詰め寄ってくる。怒り、羞恥、どちらにせよ叫ぶだけの元気は戻ったらしい。好いことだ。よしよし、手を動かしてやればまた髙羽が跳ねた。もっとも、また胸を撫でたわけではない。
「ちょっとイメプするぐらいお茶目の範囲でしょ。キャバ嬢とお客も真っ青のことするんだから」
 胸を揉んだだけだ。
 布団の上からではない、長袖ジャージの上でもない、それを捲り上げたTシャツの上から。
コンプラ説いといていきなり直触りは良くないかという判断、うん、まあ、これも当然ワザとだ。
「ぁ、ちょっ、…ちょっ、まだ、心の準備…っ」
 私の質問を思い出させるため。ぐりっ、ぐりっ、親指で芯を抉るような動きに変えるが、強い抵抗はない。髙羽も理解しているのだ。先程提示された、この部屋の縛りを。
「早く出ないと明日に響くかもしれないよ?初ゲストだってのに遅刻するコンビ、あーあ……各方面にどう思われるだろうねぇ、ピンチャンは」
 髙羽が口をぱくぱくと開閉させて、黙る。理解しているからだ。

 『出られない』部屋に課された題。それが私たちの知るところになったのは突然だった。
 ベッドの上で跳ねてボロアパートのベッドと比べ如何に質が良いかとはしゃぐ髙羽の膝に、ひら、どこからともなく紙が落ちてきたのだ。
 必ず題を提示してくる。聞いた通りだ、と思った。もっとも髙羽は何も考えず手に取ったようで、折り畳まれた紙を開き、読み上げようとしてくれたようで「ええと」と口にして――凍り付いた。
「君さぁ。焦らしプレイする状況じゃないでしょ、まったく」
 たっぷり十秒待っても変わらない状況には思わず溜め息が出たが、そう驚きはなかった。
 髙羽はアドリブにあまり強くない。自分が仕掛ける分には良いが、突然振られるとこうして固まるクセがある。ただ、そこをフォローするのが相方である。だから私は彼から紙を奪い取って、読み上げてやったのだ。
「髙羽が射乳イキしないと出られない部屋」
 そこにあったのは無理難題の縛り。
「どっちか!どっちかっ!俺とまでは書いてなかったぞっっ!?」
「あ、解けたねおかえり髙羽。書いてなくても決まってるようなもんでしょ」
 ――でも、ない。全力で首を振る髙羽が、ギクッと肩を跳ねさせたところで、当人もわかりきっているはずの答えを私は吹き込んだ。もちろん、相方としてフォローしてやったまでだ。
「この間。びゅーびゅー噴いてもらったんだからさぁ」
 私の使う術式の一つは、呪霊操術。取り込んだ様々な呪霊を操るというものだ。
 呪霊とは負の感情が具現化したものだが、実在しないものに対する負の感情というものは、現代では特に様々だ。様々とは「そんなことエロ漫画の中だけだ現実に起こるかボケナス」といったものも含む。
「……そっ、れは、オマエが……っ!」
「くっくっ、そうだねぇ。私のせい。やっててよかった人体実験」
 耳に口付けてやれば、可哀想なぐらいに髙羽の顔は赤く染まっていた。思い出したのだろう。
 荒唐無稽な漫画が集まる場所、そこに居付く呪霊は総じて面白い能力を持ち合わせていて、私の中の欲、倫理観のない表現をするなら人体実験欲を刺激してくるのだが、残念ながら私の相方にとって赤は御法度だ。
 私が他者に危害を加えることを良しとせず「悪いことしたいなら俺にしろ」と男らしい宣言をし――そのせいで今や頭から爪先まで漏れなく調教済みの、可愛い可愛い雌になっているのだから笑ってしまう。

 あの日も、そうだった。人体の構造を無視して乳を噴く体質にさせる、ふざけた呪霊を嗾けて良いかを聞いた私に、髙羽は明らかに狼狽しながらも頷いた。自分からTシャツをたくし上げ、鍛えられた厚い胸板と既にぷっくりとした乳首を晒し――

<シブに上げたモブ髙すけべからn年後、羂髙が”成った”後に地獄が掘り出される話/嘔吐描写あり>

 予想なんて、してなかった。

 俺のこと超面白いって言ってくれる、超面白い相方。御年三十五歳になって、シメツカイユーとかいう変な名前のゲームを経て、俺は羂索に巡り合った。
 ……ゲームはゲームでも所謂デスゲームで、現相方との出会いはたぶん殺し合いってやつだったし、いろいろあった、ありまくったけど、俺たちはお互いを殺さずに済んだ。
 関係各所にお笑いコンビ組みますって二人で報告したときは驚かれて心配されて凄まれ、てやっぱりいろいろありまくったけど、最後には何とかなった。
 だから、何とかなる。思いたい。思いたい、けど。
 布団に潜りこむ。背中合わせになってる相方が少し身じろぎして、起きてたのか起こしたのか、わからないまま更に潜る。暗い布団の中、きつく握ったままのスマホの明るさと色彩だけが浮き上がって見えた。

 SNSってものが、俺は苦手だった。何を言えばいいかわからなくて、何を思われるかわからないからだ。
 でも、ありがたいことにちょくちょく地上波のテレビにも出れるようになって、羂索の顔だけじゃないファンも増えてきた頃。マネージャーからなりすましを防ぐためにと、とうとう強制的にアカウントを取らされてしまった。
「こんなの日記でいいじゃん」
「わかってないねぇ。好きな子の書く日記。読めるなら読みたいだろ?」
 ぼやいて同意を求めてはみたけど、すぐに黙らされた。羂索の日記なら気になると思ってしまったからだ。くくっと笑いながら写真を撮られて、相方の呟き第一号は不貞腐れた俺の顔になった。
 苦手なりに、毎日何か書くようにした。ありがたいことにファンが反応をくれるようになった。……返事に手いっぱいになった、ある日。俺は相方に生返事をアイアンクロ―付きで咎められるに至った。
「あのさぁっ。言わば君は動物園のパンダなわけ、檻の外で客が騒ごうが笹食ってればいいんだよ。客は勝手に喜ぶんだから」
 心底呆れた顔をされた俺は、千年生きてるおじいちゃんからSNSとはを小一時間説かれた。挙句、羂索のアカウントから炎上する前に使い方改めさせると声明を出された。笑いに変えてもらえた、代わりに何かあれば動く前に先に言う約束をさせられた。
 だから、今回も、本当は早く言うべきだ。わかってる。わかってる、けど。

 ――これ、マジで髙羽?

 DM。ヨソから見えないとこでやり取りできるツールも閉じとくようには言われてた。でも、返事さえしなければいいと思ってた。俺は変なとこだけ真面目で寂しがりの気にしい、そんな面倒くさいヤツの自覚はある。
 気分が落ち込んでるときは絶対開けない。それさえ守れば、知らない誰かの日記の一部を覗かせてもらってるようで、何だかこんな年齢になってから友達が増えたようで楽しかった。
 だから、布団に入ってから寝落ちするまでの間。今晩の麻婆豆腐美味しかったな、千年の歴史だからねって笑ってたけど本当かもな、なんて嬉しい気持ちのまま俺はメッセージををチェックしていた。呼び捨てするなよなと思いながらアドレスをタップしたのも、軽い気持ちだった。面白いがあればいいな、羂索にも話せるような、そう思ってた。
『こんなもんで良くね?ってか起き、………、……。……………』
 軽い調子の声に驚いてミュートにしてからだった。開いたのが動画サイト、それも海外のものだと気付いたのは。荒い画質。荒い音質。昔のテレビ録画かなと思いながら見ていられたのは、ほんの数秒だけだった。
(…え?…ええっ…!?)
 映っていたのは、男の局部だった。モザイクもない生々しい、画質が悪くて良かったと思った。いや、良くなんてない。開いた脚の間、尻にどぎついピンク色のバイブが抜き差しされて、絶対良くないのに目が離せなくなった。
 AVじゃん、いやでもAVならモザイクがあるべきで、無修正ってことはヤバいやつ、そもそも海外の動画サイトの時点で怪しいよな、混乱しっぱなしの俺に構わずに動画は進んでいった。バイブが抜かれて、ゴムを嵌めたチンポがゆっくり入って、
「!……っ……」
 反射的に太腿を擦り合わせたのは、背中を意識してしまったのは、俺が知っているからだ。挿れられる側の気持ちいいを、……そういう関係だからだ。
 俺にとっての、日記が気になる好きな子。お笑いの相方で、ずっといたい相方。関係が変わったのもいろいろの最中だ。でも俺は心から抱かれてもいいと、抱かれたいんだと思って、そこまで考えたときだった、画面がブレたのは。
 縦に、横に、よっぽど慌ててるんだろうか、なんで、不思議に思いながら顔を近付けて、俺に飛び込んできた、布団に潜りこんだ理由。
「え、」
 声が出てしまったんだ。映像が戻って、そこにあったのは、局部なんかじゃなかった。短い金髪。ハの字になった眉。薄く開いた目。大きく開いた口。赤くなった頬、だけじゃない、首も耳も全部を赤く染めた、何が起こっているのかわかっていない呆けた表情の、見覚えのある若い男。
(……な、んで、なんで、なんで)
 見直しても同じだ。若い男が、揺れている。縦に。何度も。何度も。それが動画自体のせいなのか、今俺が震えてるせいなのか、俺が、……俺が。
「ぅッ……ぐ……ぐぶっ……」
 口を押さえる。吐き気がせり上がってくる。目の前がチカチカして、耳の奥がジリジリ鳴って、喉が引き攣って、きもちわるい。だめだ。こんなとこじゃ、せめてトイレに、体に力が、入らない。
「…………髙羽?ちょっと。どうした?」
 たかば。名前が、呼ばれた。体が震える。息が上手くできない。俺の名前が呼ばれてる。俺なんだって、思われてる、知られてる、わかられてる。

 ――これ、マジで髙羽?

 きもちわるい。俺が何かを喋っている。俺の口が塞がれている。缶チューハイだ昔に流行った安いのに度数が高くてすぐ酔えるのがウリであまり酒に強くない俺は飲んだことのない飲むわけがないでも映ってるのは俺で部屋、ああ、思い、出した、一回だけ、ほんの一回だけ行ったんだった、先輩の、たしか二日酔いで何も覚えてなく、て、パズルのピースが嵌まる音。
「ぁ、ぁ……ぁ゛ッ……」
 きもちわるい。
「髙羽。髙羽?……あのさぁっ、人のこと無視なんて、……」
 止めて、呼ばないで、俺じゃない、俺じゃだめだ、俺は知らなかったんだよ、羂索、知らなかったから、きもちわるい、きもちわるいよな、きもちわるいって、知られる、いやだ。ぼろぼろと涙が溢れて、喉が熱くて苦くてぐるぐる回って、布団が剥がされる、スマホ、画面。
「ふ、ふーッ、ぅ゛。ぐ、ぅ、う゛……ッ」
「ねぇ。髙羽。お前……ああ、いや、君。何か、あったろ。……落ち着いて、私は何もしない。だから、何があったか、」
 羂索が俺を見てるきれいな眉も目も吊り上げて俺のきもちわるい体を丸めて隠す見られる知られるわかられるいやだ、いやだ、いやだ、羂索、いやだ、何も何か何がぜんぶいやだ、きもち、わるい、ごぽっ、溢れる。
「ぁ、ぉ゛、お゛えぇえええッ!!げっ、げぼっ、ぇっ、ごぇっ゛なざ、ごべん、ぃや゛、あぁ、お゛れ、ぇ、ぇげっ、」
「―――髙羽!!髙羽ッ、おい!髙羽!!落ち着、ッ」
 心のどこにも。予想なんて、してなかった。
「……私の、髙羽。大丈夫。大丈夫だよ。全部大丈夫だから、謝らなくていい。君は何も悪くない。少なくとも私にとっては。吐きたいなら吐いたらいい。でも、謝るのは止めてくれ。私にだけは謝るな。必要がないからね」
「あ゛……ぁ゛あ、あぅ゛、け、じゃ、く、……ぅ゛ぶッ、ご、ごぇ、……っっけん、じゃぐ、ひっく、ぐず、…げぼッ、ぅ、ふう゛ぇぇッ……!!」
 知らないところでめちゃくちゃに汚されて嘲笑われてたのも、……知らないだろうにめちゃくちゃに汚してゲロだらけになってるのに笑ってもらえるのも、どっちも、なんにも。

<警察官羂×トラック運転手髙/警運R18アンソロの丸吞み触手すけべサンプル という存記>

 どうしよう。心臓がうるさい。手が震えている。足に力が入らない。
「はっ、……はっ……」
 どうしよう。上手く呼吸ができない。吐き気がする。額に巻いた手ぬぐいだけじゃ抑え切れない冷や汗が、つうっと伝っていく。
「俺、……いま、なんで……」
 どうしよう。どうしよう。どうしよう。ハンドルを握ってブレーキを踏んだまま、動けない。
「だって、だって、……急に、……きたから……」
 言い訳をしたって駄目だ。大丈夫かぁ、なんて言えるわけがない。言うまでもない。道路に倒れている、ちがう、散らばっているのはどう見たって手遅れだ。
 ピンチをチャンスに。トラックで西へ東へ南へ北へ、全国どこでも超特急で荷物と笑顔を運ぶ。それがモットーであるはずの俺は、今日。
「……どうし、て……」
 人を轢いてしまった。あまりに急すぎてよく覚えてないけど、季節外れにナマハゲみたいな格好をした大男と袈裟を着た若いお坊さん。
 速さは大事だけど事故っちゃ元も子もない、交通ルールには気を付けていたはずなのにそれは飛び出して、どころかワープをしてきたように俺の目の前に現れた。……なんて、言い訳だ。

――っっ!?あぶなーい!!

 驚いた俺は、ブレーキを踏もうとした。踏んだ。そのはずだった。そのつもりだった。でも俺が踏んだのはアクセルだった。凄まじい衝撃がしてブレーキを踏み直したときには遅くてなのに俺だけは奇跡的に無傷で、はっ、はっ、息が、できない。
「だめ……だ、めだろ、通報、しない、と、…ケー、サツ…」
 スマホを探す。額に水玉模様の手ぬぐい、真っ白いTシャツに真っ黒のモモヒキ。お腹が冷えるの嫌だしここまで来たら定番がいいとハラマキまでして、俺は見た目通りに古いタイプの運ちゃんだ。
 でも、往生際悪く逃げるような、古いドラマの登場人物にはなりたくなかった。ないのに、見つからない。衝撃で落ちたのかも、割れた窓から道路を覗き込む。そこにあったのは死体、じゃなかった。
「や。何を探してるのかな、おじさん」
 誰かが呼んだんだろう。帽子を目深に被った、若いお巡りさん。
「……あれ?おじさん、もしかして飲んでる?飲んでるんじゃないかな。飲んでるよねぇ」
「は、……そっ、そんなワケないだろっ!?俺は大事な荷物と笑顔を運ぶ運ちゃん、……だ、った、のに」
 事故を起こしておいて言えたもんじゃない、気付いたのはカッとなって言い返してしまってからだった。俺は人を殺した。道路にはおびただしい量の赤い血液が、ある、……はず、あれ?
「本当に?」
 道路には何もない。あるのはお巡りさんだけだ。滑らかな低い声で俺に問いかける、どこかで見たような顔の。お巡りさんが、すっと帽子を取った。
「う……う……!?あ、頭、痛っ……」
 途端、頭がガンッと殴られたように痛みだす。違う。見たような、じゃない。どこかで見たんだ。間違いなく。長い黒髪、額の大きな傷、整った顔、俺は見てる。どこで?
「はぁっ、はあ、はあ、オマエ……さ、っき、の、坊さん……?……??」
 そうだ。さっき道路に立ってた。急に現れた。本当に?本当に?質問の声が頭をぐるぐる回る。思い出せたはずなのに頭はガンガンと痛みを増すばかりで、ガチャッ、ドアが開けられた。
「本当に、飲んでない?飲んでるよ。君は。検査をしようか。ねぇ、髙羽。あの時みたいに。そうしたら思い出すかもしれない。マジでトラック転がしてるなんてウケる、思ってたけど駄目だな。面白くない。腹が立つ。ああ、クソ、記憶の封印なんてよくも下らないことをしてくれたな。無駄だってのにさぁ。千年待って出逢えた私の運命だ。どんな手でも使うとも。再現コントは勿論、そう、」
「オ、マエ。お、れの名前、……なんで」
 俺を睨み付けるお巡りさんの声は明らかに怒っている、なのに頭が痛むせいで上手く聞き取れない。辛うじてわかったのは「たかば」と俺の名前が呼ばれて、その瞬間に心臓が跳ね上がったことだけだった。
 なんでに応えるように手が掴まれて、ぐいっ、見た目以上の腕力でそのままトラックから無理矢理下ろされる。勢い余って体が道路に落ち、……ない、落ちたのは穴だ、道路にぽっかりと開いた穴、ちがう。
「楽しい記憶を引き摺り出すための、……ちょっとばかり苦しい拷問も、ね」
 映画の世界からワープしてきたような道路を覆い尽くす巨大なミミズに似たばけものの口の中に、足から頭までがぱくんと――あっけなく――

(中略)

 恐怖でしかなかった。
 暗くて湿って狭い空間、ばけものに丸呑みされた状況で、服が溶かされていくだけでも『それから』を思って震えが止まらないのに、ばけものの体内にはイソギンチャクのような触手が蠢いていた。
 ひとつひとつが嘲笑うように体をなぞって、いや、それだけならマシだった。服が完全に溶かされて、ボロ切れがいくらか残っているだけと化した今、なぞられるのは表面だけじゃない。
「や、だ、やだ、検査も゛うッ……ッん゛おぉおお!?ぁぎッ、ぁ、ぃ、だいぃぃ……!」
 ずじゅっ、ぐちゅっ、音を立てながら触手が更に捻じ込まれる。出すだけの部分であって間違っても入るところじゃない尻をこじ開けて、その度にビリビリした痛みが駆け抜ける。頭痛がマシに感じるほどに痛くて気持ち悪くて怖くて、恥も外聞もなく泣くしかできない。
「ボディーチェックは大事だろ。君は人殺しなんだ」
「ッぁぐ、…!オ、オマエが、や゛らせたん、だろ…っ!お、かしいと、思っ、お゛ぐぅ!?うぁあ゛ぁ、ぁ、ケツ、ずぽずぽひな゛…ァひぃい~~ッ!?」
「あはっ、流石にバレたか。そうだよ。で?だから?轢いたのは君だろ。どうだった?殺す感触は。御法度を破る感触は。今の私と同じ気持ちだった?だったら嬉しいな。くくく……」
 外から声が聞こえる。楽しそうな笑い声。俺のことを酷い目に遭わせてる張本人の声。憎たらしい声。
 ……憎い、はずなのに、笑ってるんだと思うと何故か胸の奥がぞわぞわする。俺は笑わせたくて、ずっと生きてきた。お客さんを、■■を、……?
「ぃ、だい、ぅうッ、いだ…い、いだいぃ…ッ」
「ちっ。……さっさと意識を飛ばしてくれたら、封印の術式も緩むだろうに。簡単に折れないのはそのままか。好ましくはあるけど、今は少し良くないな――ねぇ、髙羽」
 また、名前が呼ばれる。ぞわぞわする。変だ。変になる。俺が俺じゃなくなる。良くない。『そうだ』良くないのに『この男に気を許しては』良くない『■■を思い出しては』良くない『それが罰なのだから』、俺じゃない声が頭に響いて、痛い、割れるように、……ぬるん、耳を触手がなぞる。
「ひぎゅッ……!?ぁ、……や、ま、……ま……って、い、たい、も゛ぉ、いだい……からッ……」
 なぞって、入っていく。にゅる、にゅるっ、細い触手が耳かきをするように、でもそいつが俺にしようとしてるのは、たぶん、いや、絶対に違う。
「な……なぁ、やめて、くれ゛、謝る、謝るからっ、ごめんなさいするからっ、ひ……ひとごろしで、ごめ゛んなさい、ごめんなさいごめんなさい゛ぃぃッッ!!」
 何かが、何かわかっちゃいけないものが、押されている。少しずつ、少しずつ力を込めて。
「ああ、心配しないでいいよ。検査の趣向を変えたいんだ。ちょっと――そう、ちょっと――お酒を飲んだような心地になるだけだから」

<ゆっくりパロ/ゆ髙におはなしをきく塩顔イケメンのお兄さんの話/脳姦>

 ゆ……ゆ?おにーさん、だれ?おれ、しらねぇひととは、
「お兄さんはお兄さんだよ。ゆっくりしていってね」
 ゆ!たかばはたかば!ゆっくりまんざいみていってね!
「挨拶をしたからには、私と君は知り合いだ。ゆっくりお話聞かせてね」
 う、うん……うん、ゆっくりそうかも……??だってゆっくりしてくれるんだもんなぁ、おにーさん。
「そうそう。理解がゆっくりしていなくて助かるよ。で、いつ見せてくれるのかな?漫才。私の目には一人に見えるんだけど」
 !ひ、ひとゆちがう…!!おれ、あいかた…いるんだ。ほんとだよ。さみしくねぇから、さみしいのやだ、もう、ゆ、ゆ゛っぐり、して、
「あ~~ごめんごめん。君もまた『たかば』だったね。はいはい寂しくない寂しくない、ゆっくりゆっくり」
 ゆ……お、おれ、さみしくない、ゆっくり、してる……。……あいかた、かりにでてるんだ。だから、まんざいはゆっくりまってくれたらみせられるよ?
 おれとあいかたはこんびだからいっしょがよかったけど、「おうちでるすばんしてて、ゆっくりばくしょうねたかんがえててね」って。ふふ。おわらいだいすきなんだぜ、あいかたも!
「そう。いい相方を持ったね。どうやって出会ったのかな」
 け、けっせいとーく?てれちまうなぁ……。あいかた、おれがず~~っとおちびのころからいっしょだったんだ。ゆっくりまんざいしていこうなーってやくそくで、だからあいかたになって、お……おなか、あかちゃんできて……
「……狩りに行ったのも、君を思ってのことか」
 た、たぶん。おれ、まってた。ゆっくりまってた。わっかでかざって、ねたかんがえて、はっぱのべっども、まってた。…まってた。あいかた。おれのあいかた。おうちがぐしゃってされてもはいってきてもにげてかくれてどげざしてもかまれても、がぶって、あたま、なかみ、おれのこと、じゅるじゅるされて、も、あいかた、……あいかた……
「…………」
 あいかた、とら、ないで、す……すわないで、あ、ああ、おれ、あいかた、わすれたくない、ゆっくりやめて、
「ねぇ。君の相方。今の、君の相方は狩りに出かけてるんだろ?それ――頭で揺れてる赤ちゃんのためにね」
 あ、……れ、うん。そう……あかちゃん……あいかた、と、おれの……。かり、おれ……あまくっておいしいなぁっていったから……「おんなじの、ゆっくりたくさんかってきてあげる」って……けんじゃく、いったんだ。あいかた。おれのあいかた。

 ……。…………。

「や。ゆっくりただいま」
 声がした。のんびりとした調子だ。
 住処に人間がいるというのに、私から見れば稚拙だが『けっかい』を破られているというのに、目を口を飾りを失った事情を知らねば同族と認識できないまでに損壊したものを引き摺るそれが取り乱す様子はない。
「ゆっくりおかえり、けんじゃく!おにーさん、ほら!おれのあいかた!」
「ああ。初めまして。ゆっくりさせてもらっているよ」
 ぴょんぴょんとたかばが跳ねる。けんじゃくと呼ばれた、長い黒髪に額に縫い目を持つ私に似た見目のゆっくりに喜びを伝えるためだ。
「ゆっくりはじめまして、にんげんさん。まだ、ゆっくりしていくのかな」
 ゆっくり。人間の頭部に似た、呪いが呪霊とは似て非なる形を取ったもの。少女じみたものの他、一定の力を持つ呪術師に似た個体がいると知った私が感じたのは『面白い』だった。
 ゆっくり何某する程度の能力、などではない。千匹集めたとて一瞬で消し飛ぶようなものへの興味など、一月もあれば尽きた。
「随分とゆっくりしているね」
「にんげんさんのはなしはきいてるからね。ゆっくりしててもしないでも、いまさらでしょ」
「有名人なんだ、私。フィールドワークの範囲は広げた方が良さそうだ」
 私に似て、彼に似て、非なるもの。それらが番い生きる様の観察に私は面白いを感じている。観察は『私の』相方との活動の合間であり、プロとはまだ言えないが、いくらかの生態や方向性は理解できてきた。
「ゆっくりそうしてほしいな。わたしとたかばは、しんこんさんだからね」
 例えば、私に似たそれ。名付けのルールに則るならばゆっくりけんじゃく。それは人間との力の差を理解している節がある。
 結界術の真似事も呪力を持たない人間やゆっくりには有効と理解し、そして術を破る輩にはどうにもならないとも理解し……正直、あまり面白くない。私を模しておきながら、やはり自分から生まれる可能性などそんなものか。
「い、いちいちいわなくていいだろぉっ!ゆっくりやめてね!?」
 例えば、髙羽に似たそれ。同じルールで言うところのゆっくりたかば。それは寂しがりで、お笑いバカで、ゲス相手でも殺す選択肢は取れず……びっくりするほど死にやすい。『超人』を持たないただの善人もとい善ゆ、野生動物における赤は御法度の脆さときたら笑える程だ。
「いい相方を持ったね」
「……ゆへへ。うんっ。けんじゃくは……」
 はにかんで笑うたかばの髪を撫でてやる。わしゃ、わしゃ、前から後ろへ。彼の後ろ、人間で言うところの首筋には噛まれたような痕がある。しんこんさん。捕食種の牙を見せながら笑みを浮かべているそれは、そう言っていた。ああ、ああ、面白い。
「けんじゃくは、おれの!うんめーのあいかただよっ!」
 心から幸福でいられると信頼している――思惑がほんの少しばかり違うだけで、幸せだけしかない仲睦まじい番いの出歯亀ほど面白いことはないね、まったく。

<羂髙前提のモブ髙すけべ を目撃したことで『猿』への嫌悪が暴発する夏油さん>

 違和感だった。この始まりと終わりは。
 いつも笑っている。困ったように、嬉しそうに、腹を抱えて。それがピンチャンのツッコミ、髙羽史彦という男に対する私の印象だ。
 相方にも同業者にも業界関係者にも『ネタより顔で売れている後輩』である私にも彼は分け隔てなく笑いかけ、私はその善性が嫌いではなかった。
 だから、思い詰めた顔をした彼があまり評判の良くないプロデューサーに続いて資料室に入り、いつまでも出てこない――違和感を、消したかった。
「んぐッ……!!ゴ、ゴホッ、ゲホッ、ぅ、ぇ゛、……」
「チッ。ちゃんと飲めって言ったよなぁ?あ?」
「っヒ、……ご、ごめ、……なさい、…………さん、ッ、ぅ……」
 だが、扉を開けた先にあったのは恐怖と苦痛に満ちた哀願、彼の浮かべる笑いと正反対のものだった。
「カス芸人の分際で一丁前に嫌がりやがって、やっぱり見せたげる?髙羽ちゃんが可愛かった頃の写真」
「!!っす、する、しますっ綺麗に、な……何でもっ……だから約束通り、羂索には……羂索にだけは……!」
 善が悪に踏み潰される世の摂理同じ変わらない醜悪な反吐が出る許してはならない許せない――
「…………猿、が」
 埃を被ったトロフィーが。鈍器が。除ける手段が。視界に入った。だから握り締めた肉薄した振り上げた膨れ上がった違和感が、弾けた。
「ならさっさと脱――ぎゃッ!?な、なに、ぐぇ!…!」
 ガッゴッメキッグシャッ鈍く濁った煩い厭な音で。
「え?……あ、あ……?げ、とう、くん……、なに、」
 ひ、ひゅっ、笑い声とは正反対の音を引き出しながら。
「ああ、はい。害獣退治を少々」

<『羂索が転生の先で探し当てた髙羽には記憶がない、かつ出逢った段階であまり好ましくない状況となっていたので■して■すという行為をいくつも繰り返している』救いのない話
……警察官になってパートナーが既にいる髙羽が■されて■されるまで>

 あっ。このあたりですか?わかりました、ご協力ありがとうございます。あはは、大丈夫ですよ!お巡りさんは皆の笑顔のためにいるんで、その…俺も笑顔が見たくてこの仕事してるっていうか。
 え?うーん、物心ついた頃から?とにかく人に笑って欲しくて…。…恥ずかしいなぁ。えっと、だから、ずーっと探してた大事なにゃんこくんも絶対見つかる、俺が見つけますから!何でも言ってくださいね、
「ケンジャクさん!」
 にこ、ケンジャクさんが無言で薄く笑う。交番を訪ねてきた塩顔イケメンさん。猫を見失って、ずっと探してここまできたと言っていた。よっぽどその子のことが大事なんだろう。
 もっと心から笑ってもらうんだ、俺が気を引き締めたときだった。ケンジャクさんが廃墟の奥を指したのも。
「え?あ…い、いました!?おーい、にゃんこく――」
 ひゅっ、空を切る音がしたのも、ガンッ、俺の頭に衝撃が走ったのも、前のめりに倒れ込んだのも。
 意識が飛びそうになるのを堪える。わからない。でも何かが起こった。立ち上がろうとして、ずんっ、体に何かが圧し掛かる。重い、何もいない、はずなのに。
「――ぐ、な…に、けんじゃ、…さん、逃げ…!」
 何か、に。床へ圧しつけられて動けない俺にできるのは悲鳴に近い声を漏らすこと。
「…何でも、って。言ったね。お巡りさん。私に。言ったろ。笑って。だから、これは、ジューゼロで君が悪い」
 俺の顔の傍でしゃがみ込んだ男を見上げること。
「私を思い出せよ、駄猫」
 俺を射抜く無表情に恐れ戦くこと、だけだった。

♢♢

 ねぇ。さっきも言ったよね。髙羽が悪いんだよ。私を思い出さないから。前の君もそうだった。有象無象の女と番ってニコニコ笑ってさぁ。でもまあそれはいいんだ。切り替えたからね。うん?次にだよ。偶然に決まってるんだ。私は君を覚えている。何度廻っても覚えている。だったら君が私を覚えている回もあるでしょ。
「ぅッ、うぐ、……ぅ、もう、や゛……めるんだ、な、なぁ君、話……聞くから、ケンジャク、さッ」
 ……ねぇ。さっきも言ったよ。学習しないな。君は。今回の君は。
「ンう゛!?あッ!ぅぐ、~~ッ!ァ、ご、め、ごめ、な゛ざい、止め…止ま゛、て、くれ、やめ、~~ッ!!」
 違う。言ったろ。ああ。人は間違えるよ。だから謝罪はいい。呼んでくれればいい。正しい呼び方で。出来るよね、お巡りさん。
「ヒ……っふ、ぐす、……ケンジャク、……ッ、……やめてくれ……もう、もう、こんな……」
 もう、か。そうだねぇ。それを使うなら『もう遅い』だと思うよ。一般市民に手錠嵌められてチンポハメられて、今更どうもこうもないでしょ。諦めて私のこと楽しませて欲しいんだけど。手始めに、くく、『こんな』じゃわからないな。カマトトぶってないでちゃんと言ってくれる?
「なんで、…なんで、ッッん゛おぉお!?あ、ぎ、やだ、…やだっ、やだあぁ…!!」
 言えよ。
「ひ、ひっ、せ、…せっくす…やだ、お、俺、悪いなら謝る……から、ケンジャクさっ、奥、け……けっちょぉ、ぐりぐり、しな゛いでぇ……」
 あはは、セックスかぁ。どう考えても強姦だと思うんだけど。お巡りさんならわかるだろ。何?気を遣ってる?私が一般市民だから?訳のわからないことほざく狂人だから?君の気持ちいいところ、恋人でもないのにそっくりそのまま知ってるから?
「ンぎぃいッ!?い゛ァッ!!♡ぃ、あ、あ♡や゛だ、や゛だッイくのや゛、あ、ぁああああッ♡♡」
 イっちゃったね。嫌なのに。心に決めた恋人がいるのに、なぁんにも知らない他人チンポでイっちゃったね。また。何回目か覚えてる?覚えてないだろうから教えてあげる。今ので四回目。甘イキ含めたらもっと。ああ、そうだ。もう名前呼ばなくなったね。恋人。スマホの履歴びっしりになるぐらい愛してるのにさぁ。
「……!!ッや゛……オマエ……!!返、しッ、」
 くっくっ、怒っちゃった?……見れば見るほど正反対だね。男なのはいいとして可愛い系の年下か。そのくせにお尻こーんなに慣れてるんだからさぁ、面白。あ、目逸らしたね。どうせ呼ばなくなったのも恋人に顔向けできないとか思ってるんだろ。私のことはたくさん呼んでくれるのに、ねぇ。
「ぃ……ぅ、っうう、うぁ、言うなぁ!言うなよ゛ぉっ…!!なんで、なんで、やだ、もぉ、や゛……ッッ!?あ゛、あ゛は、ぉ゛あぁぁ…ッ!!♡♡」
 五回目。そうそう。来ないねぇ。動画の返事。恋人が犯されて泣きじゃくってたのに薄情だなぁ。浮気と誤解されちゃったんじゃない?女の子のイキ方しちゃってたろ、君。私の名前呼びながら。もう一回送ろうか。それとも通話してみる?ほら。ほら。ねぇ。
「ぅ、……ぅ、……ぅああぁあああん……!うぇッ、ゆるじで、ごめん、……き……きら゛ぃっ、な゛ら、ないでぇ……」
 …………ああ。
「――、――、ひ、ぇぐっ、ゆ゛る、して……、も゛ぉ、……お゛れ……」
 ………。……ああ。うん。そうだよね。君が許しを乞うのは私じゃない。今回の君はそうだろうね。わかってたよ。わかってた。君、恋人に操立てちゃうタイプみたいだしね。前の君もそうだったよ。番いと子供さえ殺せばいいと思ったのに忘れられるよう躯の前で躾けてやったのに私が目を離した隙に首を切っちゃってさぁ「ごめんなさい」なんて言って私を見ずに私に斬りかかればいいのに赤は御法度ってことかな馬鹿な話だろだから私は諦められなくなった、のに、ああ、ねぇ。どうしてあげようかな。今回の君。どうせ殺しても駄目なんだろ。どこにいるんだか分からないのに番いが出来る前に探し当てろなんて無理難題もいいとこだよね。はあ、ほんっと、相方がいないと生きていけないのが君なのにさぁ。報いってやつなのかな。クソ。来世に期待なんてクソだよ。諦めきれずにクソ頼りで賭け続けなきゃならないなんて――相方がいないと生きていけないと私まで思ってしまっているなんて――
「!……ぇ、な、んで……。なんで……、……泣いて……」
 ああ。本当だね。なんで。なんで、か。忘れていたからだろうね。
「な、んで、こんな………こと、俺、……聞く、から、なぁ、」
 縋りつくような目。かつて終わりを告げられる前に浴びた目。私だけに向けられる目。怖くてたまらないくせに触れようと、伸びてくる手。
「な、なぁ!……話してくれよ。ケンジャクさん」
 …………でもね。今回の君は駄目だ。もう駄目なんだ。名残惜しいよ。前よりは幾分惜しい。けど仕方がないことだ。だから奪う。奪えるだけ奪い尽くす。最期まで。大丈夫だよ。大丈夫。ショック療法ってやつだよ。それに私は最期まで傍にいる。君が嫌う寂しさは与えない。ねぇ、髙羽。このまま愛する恋人が知るところになるまで犯して犯して脳味噌を私だけでいっぱいにしてそれから私がそうされて前の君がそうしたように首を切り裂いてあげるから他の誰でもなく私が君を終わらせるんだよだってそうすれば。
 次の君は。今度こそ。私を思い出してくれるかもしれないだろ?

 ……次のニュースです。――県、――市の廃ホテルで、警官が男に殺害され――、――によると死亡したのは――署勤務の髙羽史彦巡査で――現場にいた男もその場で――

<フェラ好きな髙羽はすけべですけべだなあという自然の摂理>

 ん。小さな呻き声。ごくん。大きく喉を動かす音。一度、二度、まだ足りないらしい。
「美味しい?」
「んくっ、っふぅ、……ふぁんはり?」
 否定しながらも髙羽はそれを口いっぱいに頬張ったままで、ぢゅっと可愛くなくて可愛い音を立てて、千年生きてもわからないがはあるのは面白いことだと思う。
「にしては頑張ってくれるね。そんなに好き?」
「!っ、れは、……のーひょめんひょ、で、」
「くくっ、口に出しちゃったらノーコメじゃなくなるよ?超可愛い肯定をありがとう、好きモノの髙羽くん♡」
 私が髙羽をからかうのも面白いからで、だから私は悪くない。内心で独り言ちて手を伸ばす。
 丁度撫でやすい位置、私の股座にある頭をよしよしと子供にする手で――実際に子供へやったことはないし髙羽が行っているのは子供とは真逆の行為だが――ぢゅるっ、音を立てて唇が離れていく。本当に面白いことだ。
「ぷぁっ、……。ぁ……のな。当たり前、じゃん」
「うん?何が?」
「はっ!?オ、オマエが言っ……~~オマエが!すっごい好きな!好きモノなんだから、俺っ」
 千年生きてもわからない、もうちょっとわからないということにしておきたい、強烈な幸福と高揚に脳が満たされるのは。

<敗北IF 全てが終わった後、寂しさから羂索に”面白い”を求めるようになってしまった髙羽>

 髙羽史彦。千年を生きた最悪の呪詛師・羂索が起こした死滅回游に巻き込まれ――呪術高専についた、元非術師の呪術師。
 両面宿儺との戦いが終結した今も生き残り、呪術師として混乱の最中にある日本を飛び回っている男だ。その、はずだった。今日も。
『……なんつーか、違和感があるんだよ』
 数少ない生き残りとなった呪術師、虎杖悠仁が言った言葉が、発端だった。
 髙羽は呪術師となる前は芸人で、死滅回游の最中も人を笑わせようとして、笑えたかはさておき清涼剤として機能していた、らしい。
 己の術式。作戦の全貌。呪術師として戦うことの意味。深くを知らないままに羂索と交戦するまでは、……精神を折られて敗北して、玩具にされるまでは。
 救援に向かい羂索を滅した呪術師は深くを語らなかったが、肉体と精神の両方を激しく消耗していた髙羽は療養を余儀なくされた。皮肉にもその結果生き残ることとなり、だから芸人を辞めて呪術師になったのだろう。呪術師だが戦いに参戦するほどの実力はなく、全てを又聞きでしか知らない俺は、そう思っていた。
『髙羽が髙羽じゃない気がする。お笑いの話しても嬉しそうにはするけど、どっか懐かしいもん見てる感じで、こう、今じゃないみたいな』
 なのに、気になってしまった。善意じゃない。ただ、無知で敗北者の素人呪術師が”特級”として扱われてるのが癪で、弱みを握れたらと思った。今ならわかる。雑談として流せば良かった。尾行なんてしなければ良かった。
 柱に身を隠しながら、心臓が鳴る音が聞こえていないことを祈るなんて、やりたくなかった。
「んっ……ん。ぁ、ぁ、……っ」
 息遣いと声には、甘い響きが乗っている。髙羽が髙羽じゃない。理解するには充分だった。

 廃墟に巣食う呪霊の殲滅。任務を術式で構築したトラックで二度三度轢き潰して終えた髙羽は、笑っていなかった。
 ドゴォッ。キッ。繰り返される鈍い音と高い音。普段の人当たり良くにこやかな、俺に対しても誰に対しても明るい男はそこにいなかった。ゾッとした。呪霊相手とはいえそれはまるで作業だったからだ。
 呪霊の気配が完全に消え、続いてトラックが掻き消え、とっ、薄汚れた床に降り立った髙羽は、そこでようやく特徴的なヒーローコスチュームに描かれた笑顔通りに笑った。無表情が心から幸せそうに、呼吸すら忘れるような表情で、そして。
「けん、じゃく、羂索、」
 幸せそうな声で、忌まわしい名前を呼んだ。何故を思う間もなく、髙羽の頭、今思うなら脳を中心に膨大な呪力が渦巻くのが視えて、次の瞬間には全てが終わっていた。
「くっくっ。悪い子だねぇ、正義のヒーローが」
 髙羽の前に立っていたのは、袈裟を着た男。夏油傑、……その死体を乗っ取り暗躍し、死んだはずの額に縫い目を持つ男。
「術式、使ったよ、俺。だ、だから、して……?」
「自分から悪を求めるなんてさぁ。条件付けたのは私、ああ、君を躾けた私だけどね。まさかこうなるとは予想外だったんじゃないかな」
「ぁ、はぁ……羂索っ、して、めちゃくちゃ面白いこと、して……♡俺で、俺を、俺に、なぁ、お願いだから、がまん、できねぇ……っ」
 幸せを表情で声で溢れさせながら”それ”に縋る髙羽はガクガクと震えていて、最悪の玩具にされた、口を噤む扱いをされた、意味を俺はようやく理解した。
「いいよ。”この”私は、君が生み出したものだ。今日も叶えてあげるよ、君の面白いを。堕ちた超人が思う、面白いを。あはははは……!」
 したところで、遅かった。

「はふっ、ぁむ、…あ、っは…♡けんひゃ、っの、おちんぽ、俺ぇ、フェラらいしゅきぃ…♡♡」
 悪に文字通り膝を折った善は、露わになったモノに縋り付いた。犬のようにすんすんと鼻を動かして、蕩けた顔でむしゃぶりつく。悪い夢を見ているようだった。
「フェラじゃないでしょ、君の好きは」
「ぉごっ!?♡ぉ、ぐ、♡っふぅ゛ー…!♡ん゛ぇ♡ぅん、…う゛んっ♡♡ぃ゛りゃま゛♡っふぎぃ゛!?♡」
「っはは、だよねぇ?チンポで喉ごりっごり穿られて息が出来ないのが気持ちいいんだよねぇ、メス穴術師♡」
「ぐぇっ、ぉ゛♡お゛っお゛、んぉ゛♡ぉ゛~~~ッ♡♡♡」
 根元までチンポを咥えさせられた状態で、滅茶苦茶に頭を揺さぶられる。苦痛しかないはずの行為を髙羽は幸せそうに受け入れ、ガクガクガクッ、全身を震わせながら精液を吐き出した。
「……♡ぉ゛、…ぉへぇ…♡♡」
 触れられないままイっても、ずるぅっと引き抜かれても、口を大きく開いたまま幸福な笑みを浮かべたまま、髙羽じゃない、言葉がぐるぐると頭を回っていた。
「ごほーびザーメン、ありがと、ございまひゅ……♡」
「よしよし、偉い偉い。ちゃんと噛んでごっくんしようね、いつも通り」
「はひっ♡んっん、ん…♡んふぅう…♡♡」
 ぐちゅ、ぐぢゅ、ぬちゅ、静かな空間におぞましい咀嚼音はよく響いた。幸福そうでありながら、髙羽は全く正気ではなかった。当然ながら、髙羽が構築した羂索もまた同様だった。
「ふ……太腿揺らしちゃって、またイキたい?咎めたいんじゃないからね。私は面白いを叶える存在だ。出したいんだろ髙羽、なら、出しなよ」
「っ♡ん……♡ぅ、ん、ぉもひぉ、…ひゅるぅ…♡♡」
 髙羽を罵り犯していたのが嘘のように、子供にするように優しく頭を撫でる。狂っている。羂索という男がなのか、それを元に構築されたそれがなのか、両方なのかは、俺にはわからなかった。
「ん゛ぐっ、ぅぅ、…ぷぁ、ぁ…っ♡けんじゃく♡おれ、出、ちゃ……っふぁ♡ぁ、ザーメンもぉ、おしっこもぉ、ひーろー、なのに、イっひぇ、あはあぁ……♡♡♡」
 ぷちゅっ、しょわあぁあ、正義のヒーローの衣装が汚れていく。なのに髙羽は笑っていて、羂索も笑っていて――俺がわからないのは何もかもだと、それだけが唯一わかったことだった。

<倫理観カスの連れ子羂索(記憶あり)×未亡人髙羽(記憶なし)の転生パロ>

 運命、なんだと思う。お笑い芸人になりたくて、なったけども鳴かず飛ばずで、そんな俺を見つけてくれたのも、笑ってくれたのも、一緒になってくれたのも。
「はじめまして。髙羽史彦です。あっ、そ、その……頼りねぇ、ってか」
 何でもしたいと思った。俺にできること全部。今までを捨てることになっても、これから拾っていければ、俺じゃなくて君が幸せになれればそれでいい。全部を笑わせることを諦めても、たった一人、ううん、二人、笑って欲しかった。
「俺が同じ立場だったら、信用できねぇかも…かも…できねぇよなっ!?すまない。でも、何でも!遠慮せずに言ってくれ!」
 深々とお辞儀をして、屈みこむ。俺をジッと見上げていた目と視線が合うように、それから手を差し出す。
「よろしくっ!羂索くん」
「………ああ。よろしく、今後とも。髙羽さん」
 大好きな人と、大好きな人の子ども。二人ともが幸せそうに笑ってくれるなら、俺はそれでよかったんだ。

 ――遺書は、なかった。

 たぶん、前触れも、なかった。遺体も、ばらばらにしか、残ら、なかった。着る機会なんてまだまだ先だと思っていたから俺が着たのは喪服代わりの黒いスーツで、舞台に立つとき着ていた、もういない彼女が笑いながら見てくれてた、思い出すと俺に泣く資格なんてないのに後から後から溢れてくるんだから情けなかった。
「っ、……んで、……な゛、んで、……」
 葬儀の間、何度もぶつけられた言葉を口にする。いつものリビング、いつものテーブル、いつものソファー。なのに、いない。そう思うと言えなかった全部が出て行こうとする。
「……んで、って、……お゛れが、聞きたいよ……っ」
 やっと帰り着いてソファーに腰掛けて、真ん中じゃなくて右側に寄ってるのを自覚して、そこから俺は立ち上がれないままだ。反対を押し切って売れないお笑い芸人と一緒になった娘が、不審死を遂げた。もういいお前とは縁を切るなんて怒鳴った過去があったとしても、俺のこと罵りたくて当然だと思う。
 俺だけじゃなくて彼女の両親も家中を探したけど、遺書は見つからなかった。だから、事故だったのか、自殺だったのか、わからない。わかりたくないだけかもしれない。わからなくてホッとしてるのかもしれない。
「髙羽」
 背後から静かな声がして、慌てて袖で顔を拭う。疲れたから自分の部屋で寝ようかなって言ってたのに、違う、気が変わることぐらいあるよな、一人になったら落ち着けるかと思ったら余計しんどくなったとか、俺みたいに。
 ぼうっとしてた俺が悪い。俯いてる顔を上げたら、次は頼れる大人の顔じゃないと駄目だ、もう俺は芸人じゃなくなったけども、この子を幸せにしたいのは本当だから。
「羂索、くん。大丈夫……じゃ、ないよな、ごめん、上手く言えなくて、本当ごめん」
 見上げると、大きくなったなと思う。でも、まだ中学生だ。もちろん喪服なんて持ってないから学生服の、まだ子どもなのになと思うと泣きそうになってしまって、ぐっと目に力を込めて堪える。もっと泣きたいのは羂索くんのはずなのに、俺が泣いてちゃ駄目だ。
 線路に飛び込んで、危ないの悲鳴が響いたときには、ぜんぶ遅かった。羂索くんから聞いたことだった。メールの文面に血の気が引いて、考えるより先に上司に土下座してそんなことしなくていいから早く行けと叩かれて、でも遅くて、ぱたっ、既に色の変わっているスラックスに水滴が落ちた。
「母さんのこと、そんなに好きだったんだ」
「っ、ご……ごめ゛ん……!情けねぇ、とこ、見せて」
「……いいよ。情けないと常々思ってたから。でも、先が思いやられるな」
 袖を目に当てて隠そうとして、すっと白いハンカチが差し出される。羂索くんとはじめて会って、もう五年になる。最初は口数少なく遠巻きに見られるばかりだったけど、何かきっかけがあったのか羂索くんから話し掛けてくるようになった。
 ときどき近頃の子は生意気だなと思うこともあるけど、父親じゃなくて一緒に住んでる大人って認識なら不思議じゃないし、何なら俺自身も変に改まったこと言われるより心地よかった。
 俺が芸人辞めるのも最後まで反対してくれて、今もとんとんと目元を押さえてくれてる。本当に優しい子だ。ずっと一緒に家族でいたい、でも子どもは大人になるんだからそれは無理で、きっと卒業式成人式結婚式どれも二人で本気で泣くんだろうなと思っていたのに、
「泣くなよ、髙羽。これからは一人になるんだから」
 ひとり。言葉がぬるりと耳に入ってきて脳に到達する。俺の肩が跳ねたのと、ハンカチが離れていくのは、ほぼ同時だった。
「私も、髙羽も。一人ぼっちだ。髙羽は母さんが好き。母さんはもういない。私といる意味、ないんじゃない?」
「っま……待って、くれよ。け、羂索くん、いるだろ……」
「うん。いるねぇ。現状まだ生きては。髙羽と血の繋がりのない、見限ろうと思えばいつでも見限れる軽い軽い存在が」
 にっこり笑っている羂索くんが、何を考えてるのか、わからない。前からそう思うことはときどきあった。笑ってるはずなのに笑ってない気がする。思い返せば、羂索くんは泣いていただろうか。駆け付けた俺を見たとき、棺桶の中の彼女を見たとき、疎遠でいた親戚を見たとき。ぞくっ、また肩が跳ねる。
 いや、いや、何考えてるんだ俺、泣けなかっただけかもしれないじゃないか、俺が泣いてばっかりだから、俺が悪いから、ダメだ、悪いままじゃダメだ、これからは。すうっ、息を吸い込んで、立ち上がる。
「――待ってってば!好きだぞ、俺っ!羂索くんのことも大好き!!だから、寂しいこと言わないでくれ、一人じゃない、一人にしない、二人でい……」
 決めた。俺は大人だ。俺は泣かない。羂索くんの前では、泣かない。父親になれなくてもいいから、頼れる場所でありたい――って、見下ろしながら大声出すのは、父親でもそうじゃなくても威圧的に映るんじゃないか?
「ぃ…………あ、あー、す、すまない。今のは一人ぼっちは違うんじゃないかなー、って言いたかっただけで、その、羂索くんの意見が第一だぞ!?こんなオッサンと二人なんてムサい!ヤダぁ!ってのもすっごいわかるしっ」
 断りにくくなったんじゃないかと不安でチョケてみたけど、羂索くんは何も言わない。少しだけ目が丸くなってる気も、って、思う間にすうっと細められる。嫌じゃない、のかな。もうちょっとチョケた方が楽になれるかな。俺がチョケたらチョケなきゃ駄目だって思うかな。
 わからないだらけの中、せめて見下ろすのは止めようとカーペットに膝をついて、目線が羂索くんの方が高い位置にあることに気付いた。本当に、大きくなったなぁ、……嬉しくなってしまったのは、ちょっと不謹慎だろうか。
「どう転んでもお金は出そうと思ってるよ。おじいちゃんおばあちゃんといたいなら、一応連絡先は交換したから、俺、頑張……」
「髙羽」
「はっ、はい」
 俺と視線を合わせた羂索くんが、すっ、手を差し出した。羂索くんは笑っている。俺でもちゃんとわかる心から幸福そうな表情で、だから俺は手を取ろうとした。指先と指先が触れる、直前だった。するんと行き違って、小指で小指を絡め取られたのは。
「あ、これ……ゆびきりげんまんハリセンボン飲ーます、って、えー、おまじない?羂索くんの歳でもやるんだなぁ」
「うん。昔からのお呪いだね。でも針千本は死んじゃうから駄目。せっかく一人じゃないって言ってくれたんだからそこは省略で、ただ、絶対に破らずにいてね」
 今、思うと。このときに確認しとくべきだったのかもしれない。頷いて、頷いた瞬間にぶんぶんと手を振り契られる前に。
「私は髙羽が、髙羽だけが好きだから。ずっと。二人でいよう」
 ずっと、の意味を。ずっと好きな人と二人”で”いい。ずっと好きな人と二人”が”いい。どっちだったのか、そうしたら、何か、あぁでも、結局、今更だ。

 ――俺と、羂索くんは、二人になった。変わってしまった。

「は、は…っ、…は、」
 帰らないと。帰らないと。早く、帰らないと。心臓がドキドキするのは走ってきたから、手にした鞄が仕事の資料で重いから、それから。
「か、鍵、っ」
 早く、帰って、二人にならないと、そうしないと。ポケットを探りながら門をくぐって、あった、刺し込む。俺が回す、より先に、がちゃっと内側から音がして扉が開いた。
「や。おかえり。髙羽」
「あ、た、ただいま……」
 立っていたのは、羂索くんだ。羂索くんは部活を辞めた。元から惰性でやってただけだし私が家のことをする方が効率いいでしょと言われて、申し訳なかったけど俺はその厚意をありがたく受け取った。
 でも、部活の有無関係なく、今はもう21時を回っている。帰って時間も経っているだろうに羂索くんは学ランのままで、じっと俺を見上げている。子どもが出迎えてくれる。穏やかな光景のはずなのに、俺の心臓はまだ治まらない。
「遅かったねぇ」
「帰り際に仕事振られて、思ったより手間取っちまった、から」
「ああ。メッセージ入ってたね。見てたよ。大丈夫」
 すっ、伸びてきた手に鞄を渡す。手と手が触れることはなくて、少しだけ安心した。すぐに既読になったのは俺も確認した。ただそこからのリアクションがなくて、この反応だと怒ってないんだろうか。なんて、窺うようなことを考えてしまうのは間違ってるとは思ってる。でも、俺は約束したんだ。
「晩ごはんできてるよ。お風呂も入れてる」
「……そっか!ありがとう。羂索くんは?もう食べた?」
 リビングに向かうための廊下は短い、はずなのに長く感じてしまう。恐る恐る聞いてみれば、くすくすと羂索くんが笑った。
「まだ。髙羽と食べたかったからね。髙羽の分からつまみ食いはしたけど。三切ればかり」
「ええっ!?今日の晩飯によってはほとんど残ってねぇんじゃ……あ、じゃ、じゃあ?待たせてごめんな。サッと風呂入ってくるから、俺」
 振り向いて三本指を突きつけて、羂索くんは俺をからかって心から面白いと思ってくれてる、そこに嘘はないと思う。怒ってないんだ。本当に。笑い返してネクタイを緩めながら風呂場に向かう。
「駄目。約束だろ。こっち来て」
 途中、スーツの裾が掴まれて、ぐいと強引に引っ張られる。羂索くんは来年から高校生になる。前よりも更に体全体が大きくなった分、力も強くなった。
「ふ……目、泳いだね。わかってるんでしょ。なのに、私がガキみたいなこと言ったから、これ幸いと誤魔化そうとしたんだ。悪い大人だねぇ、髙羽」
 本当に、……本当、だったのは、羂索くんが笑っていることだけだった。言葉が出なくなった俺を、心から面白いと思ってるから。
 ああ、好きだよ、髙羽だけが好きな人だからこうしてる、何もおかしくないだろ。今と同じ表情をした羂索くんに圧し掛かられて、うっとりと耳元で囁かれたときも、俺は何も言えなかった。今と同じ場所で、寝室で、
「うあっ!」
 突き飛ばされて、ベッドに倒れ込む。家族になるんだから買い替えちゃえと彼女に押し切られて、嬉しかったのに結局端っこで丸まって寝るばかりだった、大きな二人用のベッド。
 一人で寝るのは寂しかった。だから、羂索くんが一緒に寝ようと言ってくれたときは、はじめてこのベッドで寝たときと同じぐらい嬉しかった。くっついて寝るのが当たり前になって、なった頃、今みたいにギッといやにベッドを軋まされるまでは。
「ま……待ってくれ……!わかってた、ごめん、でも今日っ、外回りだったから、せめて汗……」
「待て?詫びた舌の根も乾かないうちに?っあは、冗談だよね?私はもう一時間以上待てをしてたんだよ」
「しごと、っ、んッ!ンむぅ……!ぅく、う……っ」
 うるさいとばかりに唇が塞がれる。反射的に閉じるのは間に合って、でも、ぬるっ、ぬるん、舌で撫でられたら結局同じことだった。おずおず隙間を開ければすぐに入ってきてくちゅくちゅ音を立てながら蹂躙されて、上手く息が出来ない、頭にふわふわと靄が掛かっていく。
「はっ……はー……ふぁ、……ぁッ!」
 ふわふわが全体に広がったのを見計らったように解放される。混ざり合った涎が呑み込み切れずに口の端から零れて、顎から首に伝っていく。
 恥ずかしい。袖口で拭き取ろうとすれば、それも予測済みとばかりに手首が捕まえられて、もう片方も同じようにされて、ちゅっ、濡れた音が今度は内側じゃなくて外側から立てられる。
「……で?こーんなエッチな体引っさげて、外回りしてたんだ?」
 恥ずかしいを痛いほどに吸われて、痛みを散らすように舐め上げられて、それだけでも堪らないのに首筋をすんすんと嗅がれる。俺はオッサンの年齢で日中は汗も掻いて何ならさっきも小走りに、すんっ、言葉が出ない間も羂索くんは何も緩めてくれなくて、顔中が熱くて火が出そうだ。
「へぇー、……ふーん……制汗剤変えちゃったんだ。私より子供っぽくて可愛かったのにね」
「!!っや、だ、羂索くんそれやだっ許してくれ゛っ、い、いつも゛のぉ、……っ」
「ああ。許すよ。私は髙羽を泣かせたいんじゃない。髙羽が大好きなだけ……だから、何がしたいか、ちゃんと言ってくれるよね」
 解けかけていたネクタイが引き抜かれる。ゴミみたいにくるくる丸められて、彼女からもらった、彼女からもらったのと同じデザインの、羂索くんが俺にくれた方のネクタイ。興味なさげにそうするのは、どういう気持ちなんだろう。どっちにしても俺には大切なのに、でも、俺が今から口にするのは大切に言うべきじゃない言葉だ。
「……っい、つもの、が、いい…から。いつもの、セ、セックス……」
「駄目。ちゃんと言ってよ。大人なんだからわかるでしょ、意味」
「~~っ!け、け、羂索くんのちんぽ、挿れてい……お、俺の、お尻、挿れっ、ぁ……ハメて、欲し……い……」
 羂索くんは、俺を抱くようになった。一年ぐらい前の話だ。曖昧なのは、前からこうしてたと囁かれたからだ。嘘か本当かはわからない。でも、そういうのは好き同士じゃないとやっちゃ駄目なんだ、大人として正しく諭そうとした俺は、何も言えなかった。
『いいでしょ?私は、髙羽が好きなんだ。髙羽だけが好き。ずうっと前から。髙羽も言ってくれたよね』
『羂索くん、それは、近くにいる大人がたまたま俺だけで、……ぇ……っ?』
『私のことが好きだから、二人でいようってさぁ。言ったろ。そのためにお呪いも掛けたんだ。くくっ、かわいい初恋を実らせたわけだ、私は!両思いで!幸せだねぇ!未来永劫これからも、今度こそ離さないからね、髙羽!ははっ、あははは……!!』
 言えなく、なった。何かに憑りつかれたように捲し立てて、でも心から幸せそうに笑ってる羂索くんの言うことは、間違ってなかったからだ。間違っていたとしたら、俺だった。
 羂索くんが俺にべったりなのには、気付いてたんだ。
 髙羽。俺を呼ぶ声のトーンに、特別が含まれてるのは気付いてた。そういう意味とは思ってなかったけど、でも、知らないふりをした。心地よかったから。羂索くんと一緒にいたい、二人でいい、できるだけ長く、俺も思ってたから。
 ……お義父さんお義母さんが引き取りたいと言って来たら、どうしよう。……羂索くんがそれを望んだら、どうしよう。……一人ぼっちになったら、どうしよう……。不安だらけの情けない大人の俺は、事が起こるまで何もツッコまずにいた、だから。
「ぐっ、ぅ、ふ…、んぅう…っ」
 報いは受けなくちゃならない。ベッドの真ん中にうつ伏せになって、尻だけ高く上げた姿勢は、”いつもの”ことだ。スラックスと下着だけを膝近くまで中途半端にずり下げられて、仕事着のままエッチなことされるのも、ローションに濡れた指でぐちぐち音立てながらの準備をされるのも。
「……すっごい柔らかい。本当に仕事してた?外回りなんて言って、どこ行ってたのかな」
「し、してたよっ…!でも、け、んじゃ、……っくん、怒ったら、いきなっ…するっ、から、ぁ!はぅ……っ!?」
「あはは、読まれてたんだ。恋人同士にマンネリはよくないよねぇ。反省しないと」
 反省、反省、繰り返しながらも指が捉えるのは俺の気持ちいいで、言い訳をしようにもすぐに蕩けさせられてしまう。
 何度も口にする髙羽だけの言葉通り、羂索くんは束縛心が強い。抱くと言い付けられていた日に俺の帰りが遅いと、今みたいに問答無用でベッドに転がしてくる。本当に、……本当に恥ずかしい思いをすることになるから、それよりはマシだと思ったんだ。
「はい、三本♡」
「んきゅぅうっ!?……あ、あ、はぁ……っ……」
「可愛い声出たね。ふふ…自分でお尻ほぐしたなら驚く必要ないでしょ、可愛いから良いけどさぁ」
 残業中だってのに会社のトイレに籠ってセックスのために尻解すなんて、そんなの恥ずかしいでしかないのに、後のことなんて考えられなかった。考えられたのは、羂索くんのことだけだった。
「私に抱かれると思いながら仕事してたんだ、髙羽。超嬉しい」
「ぁ、ぁ、ぁうぅ……っ!ぁっ!そ、っこ、ばっか、や、あ、っふう゛ぅう……!!」
「ちょ……っとコリコリしてあげただけでこんなお尻跳ねちゃうのに、よく我慢したねぇ。大変だったでしょ?どうしてたわけ?ちんぽおっ勃てて仕事戻ったの?」
 ぐじゅっ、ぐちゃっ、ローションが増やされて、三本分の感触に引っ掻かれて、背後から聞こえる音が激しくなる。いやだ。前立腺を捏ね回されるのが馬鹿みたいに気持ちいいのも、覆い被さられて荒い呼吸を聞かされるだけできゅうっとナカが締まって余計気持ちいいが来るのも、そのまま名前を囁かれると頭が真っ白になって全部気持ちいいに支配されるのも、
「んっ、ぅ、ぃ、い、っかい、ヌぃた、から……っ」
「我慢できてないんだ。何?勃起するだけで何の役にも立たないちんぽ扱いてきたって?」
「ンふあぁあっ!?あ、あっぅ、ぁ、コリコリもぉやめ、ぁ、イ、イっ、ふぁああっ……!!♡」
「あ。……メスイキしちゃったねぇ、早っ。お尻きゅんきゅんさせて、ちんぽより絶……対こっちの方が好きでしょ。……ねぇ、私の、髙羽」
 気持ちいいをくれる、羂索、くんの好きにされるのが好きなんだって、思い知らされるのも。
「っ、ぅ、う、んっ……。俺、ぉ、おしり、でっ……イっ、た、会社で、お゛しりじゃないと、もぉ、イケな……っくてぇ……っ!」
「……素直だねぇ、髙羽。でもさぁ、それ、ヌいたは嘘だよね。お尻ほじってイっちゃったんでしょ?ちんぽ触らずに。ちゃんと言えよ。恋人に嘘は駄目だろ。罰ゲームね」
「え、っ、ひァ!?んッ!?や……!や、っ♡お、しりぃ……っ!」
 促されるまま恥ずかしいを口にして、なのに、待っていたのは尻の外側への衝撃だった。ぱしんっ、ぺしんっ、平手で打たれて、その度に指をしゃぶったままのナカまで響いて、堪らず振り向けば羂索くんの頬も上気してるのが見えてしまった。
 興奮してる、俺のお尻ぺんぺんして、十どころかその倍近く年上の男を甚振って、……詰襟の制服を着た、少年と言っていい年齢の子が、俺だけに、頭の中を気持ちいいと恥ずかしいとそれを強めることがぐるぐる回って、止まらなくなる。
「はっ、ぁンっ!♡お、俺っ♡羂索くんの、たかば、はぁっ♡おひりで、オナニーしてぇっ、みっ……みんな、ぉ仕事ひてるのにっ、えっちなことされる、おも、ってぇ、イっ……めしゅイキしちまぁ、ア、ァ~~ッ♡♡」
「ふ、ふふ……80点。した、だけじゃないよね。嘘ついても駄目。まだずっぽり咥えてくれてるんだから。髙羽。素直になろうね、私の髙羽」
「っァ、ぅ……♡イ……イくっ、イったとこらのに、ま、たぁ、あーッ!?♡イくっ、おひりイっちゃ、メスっ、なっちま、だ、めぇ、け、んじゃ、ごめっ、ごめんらさいぃ……っ!!♡♡」
 求められること、全部。口にしながらイってやっと指が抜かれていって、うつ伏せに戻って顔を枕に押し付ける。土下座をするみたいに、でも高く上げたままの尻がビクビクするのは止められなくて、どう見ても謝るためのポーズじゃない。
 ぐり、ぐり、枕に顔を擦りつける。羂索くんに嫌がった手前、鼻を直接すんすん動かすのはどうかと思う。でも、寂しい、さっきまであったものが抜かれて、二人をひとつのものに繋がれてたのに、羂索と、そこまでぼうっと考えたところで、ぺちんと尻が横に薙ぐように叩かれた。
「……はーっ……♡はーっ……けん、じゃく、俺、いつ、もの、できたよ…っ…♡♡」
「寂しくなった?……覚えてないくせにスイッチ入るとコレなんだから、愚かで可愛いね、……君。前からそうなのかな、あぁ、クソ、悔やまれるな……」
「あ、ぁぅ…っ、ま、え…?ぁ、あ、うんっ、さみし、かった、ひとり、欲しい、ひとつ、なりたい、けんじゃく、…おれ、のっ…♡♡」
 仰向けになって、両脚を抱える。いつもの、準備のためだ。イったばっかりだからかな、頭がくらくらして、いろんなものが曖昧で、でも圧し掛かられるままくちっと押し当てられる熱くて濡れて固いそれは俺が欲しかったものですっごい幸せで、でも、でも、”今の”俺には忘れちゃいけないことがいっぱいあったはずなのに――俺は、幸せに、しなきゃいけなかった――

「思い出さなくても構わないよ、今は、要らないことの方が多いから。私がずうっと一緒にいてあげる、ずうっと幸せ、……一生の相方。それだけでいいだろ。ねぇ、髙羽」

 はずなのに、ぜんぶ、どうでもよくなってしまう。考える間もなく欲しいに奥の奥まで貫かれてどろどろに落ちていく最中、俺の目に映るのは、幸せそうに笑っている大好きだけだった。

<某スレ概念モブ髙羽からの羂髙/米軍ちんぽにメス堕ちさせられた髙羽が特級ちんぽにメス堕ちさせ直されるすけべ/※途中まで>

 ハッキリ言おう。期待など、微塵もしていなかった。

 私が米国、彼らには隠していたが各国に交渉を持ちかけたのは死滅回游を思い通りに進める為、贄になってもらう。それだけだった。だが、彼らは私の予想を裏切り、状況は大きく変わった。
 彼らのトップは私に何も告げることなく他国に戦争を吹っ掛けた――「我々は超常現象を得た」と大々的に打って、だ。忙しい身だと言うのに勘弁願いたいが、流石に動かない訳にはいかない。
 と、ここまでの気持ちは私の本心だ。しかし、取るに足らない人間から予想を裏切られた事実に、幼子のようにわくわくしたのもまた本心だ。善は急げ。私は再度の直接会談を申し込み、快諾の返答を受け、今に至る。
「今週のジャンプ。見たか?」
「見た見た。まさか打ち切りなんてなあ」
 大統領執務室の外。いつかのように銃を持った軍人は、いつかとは違う様相をしている。異物、私がいるにも関わらず会話それもどうでもいい雑談の類をして、まるで緊張感がない。何ともわかりやすい異常だ。いや、ストレートに罠と言うべきか。
 私の術式で『理解らせ』たはずが、彼らは手を離れようとした。おまけにこの緩みきった有様だ。相応の自信があってのことだろう。交渉などない、十中八九で殺す気と見ていい。無謀か、本物か。どちらにせよ、面白いことじゃないか。思ったその時だった。
「……待たせましたな。スグル・ゲトー」
 開いた扉に従い、執務室に入る。そこにあったのは、私が想像したよりも遥か上の、千年を生きて初めて見る面白い光景だった。
「『面白い』に夢中になっていたものですから」
 一際高級そうな椅子に座り、執務机に向かっていたのはかつて交渉した大統領殿、ではなかった。同じく話を聞いていた官僚でも軍人、でもない。黒いスーツに眼鏡を掛けた、褐色の肌の大柄な男。
「ああ、ええと。誰だったかな。部屋を間違えたか、私がボケたか、クーデターか。三つ目以外だとありがたいんだけどね」
「三つ目ですな。私はあなたに直接お会いするのは初めてです。軍人ではありますが主な仕事は通訳。……でした」
 それと、もう一人。執務机と男の間。私の方を向いて座っている、三十代ぐらいに見える短い黒髪――日本人。同じく黒いスーツを着ているようだが随分と乱れて、いや。着せられている、乱されている、が正しいのだろう。
「ぅ、ぁ、…♡ぁっ、ふぁ……っ?」
 ぐちっ、にちっ、水音がする。微かに呪力を放っている日本人が、大統領となった男から揺さぶられる度に、鼻にかかったような声と共に。
「ぁっ、ぁ、ゃ、だ、なんでぇ、ゆっくり、やだ…っ」
「命令する気か?この私に?嫌なら止めるぞ、タカバ」
「っ!!や、やぁ、ごめんなさい…!やめねぇで、して、おもしろ、ぃ、しよ、して…やだ、イヤだぁ、してくださいぃ…っ!」
 面白い、光景だった。仮にも交渉に招いた――それは建前であり殺したいのだとしても、人間を容易く殺す手段を持ち合わせている相手を前にしながら、現大統領殿は悠々と呪術師のタカバなる男にパンパンと腰を打ち付け続けているのだから。
「面白いでしょう」
「……ええ。今、アメリカではこのようなショーが流行って?」
「まさか。面白い、の行使を許されているのは私だけだ。タカバ。そうだろう。面白いな?」
「あッ!あ!ンッ♡は、はぅ、ごしゅじっ、さまぁ♡おもし、ろい、っぜんぶ、はぐぅッ!?あーッ♡あ、うぁッぁあ…!」
 高圧的な言葉と共にタカバの背が押さえつけられ、机へと突っ伏す形になる。汗に涙に涎に、不安定に揺れる呪力と不穏尽くしの嬌声。何もかもを垂れ流し続ける彼には、うっすらと私が施したマーキングの形跡がある。
「タカバ、ね……」
 死滅回游の泳者で、拉致された一人。私を視界に入れても反応がないことを見るに、覚醒タイプ。ああ、これは私が見えていない可能性があるか。御主人様なんて時代錯誤の呼び方をして、すっかりと出来上がった後のようだから。
「快楽漬けでの篭絡か。同じ非人道的手段なら薬漬けにする方が手っ取り早いんじゃないのかな。特に、君らの国では」
「ははは。呪術師と非術師の違いは脳なのでしょう?委縮させる手段は不味い。だが思い上がらせてもいけない。上下関係を躾ける、セックスで"理解らせる"事がベストだと思い至りましてな」
「ぁぅう゛ッ!はひっ、お、おちんぽ、深っぁぐうぅ!?あーッ、あ、好きぃ♡これしゅき、いっぱい、されりゅのぉ、お♡ンはあぁあ…ッ♡♡」
 ぐっ、ぐっ、腰を押し付けられたタカバの口が緩む。幸福そうに涎を零しながら笑う様は調教済みの言葉がよく似合う、呪術師から呪詛師に堕ちる者の理由は様々だが外国人に拉致されて性的調教を施されたのは彼が初めてだろう。なかなか面白いものが見られた、ああ、これからも見られるに違いない。
「かつて司令官だった男が口にしていました。筋肉と弾丸、それに勝るものはない。いや、いや、大きな誤りですな。必要なのは一つだけ。シンプルでいい……タカバ」
 大統領殿は、私に無断で行動を起こした。箍を外した。宣戦布告以前、タカバを犯した時点で、そして一度外れた箍は戻らない。
 グダグダとお喋りになっているのも、それだろう。醜悪に笑う男は私に見せ付けたいのだ。幼子のように、初めて手にした超常現象、呪術を。ずるり。袈裟に隠すようにしつつ、無から呪霊を引き出す。
「今。そいつに機関銃が撃ち込まれて血飛沫が上がるのは、『面白い』ことだ」
 囁きに、タカバが私を見上げる。黒い、暗い、闇色の瞳。呪力の揺れが激しくなる、ガタガタと揺れと言うよりも震えているような、ぐじゅっ、濡れた音。
「!!~~~ッッ♡」
 タカバの体が跳ねて、呪力が跳ねる。彼の周囲。何もなかった空間に何かが現れる。ガシャッ、ジャコッ、操り手のいない機関銃が一、二、三、四、宙に浮いたそれの引き金が独りでに――
「『ぉ、もし、ろい』」
 ダダダダダッ、吐き出される無数の銃弾、虚ろな声の鸚鵡返し――全てはほぼ同時だった。
「……っと。はは。なるほど。面白いね、確かに」
 瞬時に膨れ上がって硬質化し、私の身代わりに体液を撒き散らした低級呪霊が掻き消えるまで、全てが。面白いを捻じ曲げられたと知った大統領殿の顔から笑みが消える。彼は私と初対面と言っていた。つまり、私の術式を知らないでいる。化け物を使役するという程度には知っているかもしれないが、攻撃手段のみとでも思っていたのだろう。
「派手なパフォーマンスだ。にも関わらず、兵士どころか虫一匹入って来ないのは術式の効果かな」
「く……おい、タカバ!!撃て!もっとだ!『面白く』しろ!!」
「ぁぐッ!?ぁ、ぅ、ひッ!おもしろ、っする、するからっ、っぅあ♡ごめん、ごめんなさいっ…!!」
 怒鳴り声と濡れた音にタカバが反応して、また呪力を跳ね上がらせる。新たな機関銃が浮かび上がり、私に銃口を向ける。ワンテンポ遅れてけたたましい音が響く、だが、所詮は苦し紛れの天丼芸だ。
「でも、今のは面白くないね」
 私は何の準備もせずに動く愚か者ではない。盾にする呪霊など掃いて捨てるほどいる。それに、大統領殿は気付いていないようだが、タカバの謝罪は御主人様だけに向けたものではない。銃撃の中、呪霊を盾として張り巡らせながら、執務机へと歩み寄る。
「ヒ、ご、めっ、ぅぁ、おも、しろ、あぁ、ごめ、なさ…」
「……執拗に言い聞かせるのは、発動条件を満たす為。君のような面白味のない男が掌握できたのも、タカバに理解できるよう日本語で命令を出せるからだろう?」
 恐らく、タカバの術式の発動条件は『面白い』の感情だ。正の感情を起点にするのは、本来ならば非術師の脳を私が強制的に弄ったからか、生来の性格が作用しているのか、……両方だと私は踏んでいる。
「呪術は魔法じゃない。行使には相応の縛りが在る。理解が要るんだ」
「フン。だから、理解させた。身の程をな!日本のコメディアンだか何だか知らんが、所詮は呑気に生きて来た素人。三日三晩"可愛がって"やれば従順な雌猿だ」
「……薬漬けにしなかったのも腑に落ちたよ。道具を意のままに生み出し、意のままに操作する……制御するにしても、思考力を残す必要があったってわけだ」
 私に銃弾を浴びせながらもロクに狙わず乱射するばかりで、御主人様の意向に従うならば一点集中で盾を破壊すべきなのにそうせず、泣き濡れた目で謝罪し続ける。いつかにマーキングしたきりで元の人格など覚えていないが、覚醒タイプにありがちな殺せない手合いだったのだろう。
「タカバ」
「ぃ゛ぁッ!」
 ぎりっ、髪ごと頭を引っ張り上げられたタカバが濁った悲鳴を上げる。可愛がるの言葉とは正反対の負の感情を向けられて体を震わせる。
「そいつの腕が落ちるのは『面白い』な?」
「!っ、ぇ、ぁ…」
「チッ」
 性的調教を施したのは『面白い』を他者依存にさせるに都合が良かった。それだけなのだろう。鸚鵡返しを躊躇するタカバの髪から手が離れ、ごつっと頭が机とぶつかる。労わる素振りを微塵も見せず、大統領殿が震え続けるタカバの腰を引っ掴む。
「ひぐぅううッ!?♡♡♡アッ、ァ、アア…!!♡♡♡」
 ごぢゅっ、勢いをつけて打ち付けられる衝撃に彼から嬌声とも悲鳴ともつかない叫びが上がり――呪力が著しく跳ね上がり、メキッ、己の内から音がしたと知覚した瞬間には――
「ぁ、」
「ッぐ…!!」
 右腕が肩の付け根から捻り切れ、勢いよく回転しながら宙を舞う。銃弾が浴びせられ血飛沫を撒き散らしながら肉塊になったそれがびちゃりと音を立てて執務机に、タカバの目の前に落ちた。
「ヒッ…!ぉ…お、れッ、ごめ、ぃ、あ、…あ、ああああ…!!うあッ、…ァッ!?♡ィぎッ!♡ヤあぅ、あうぁあッ♡♡」
「ああ『面白い』!よくやった、『面白い』なあタカバ、ふははははッ!!」
「あ、ぅ、…ぅ、ンッ♡お、も、しろ、ぁッ♡ぁぁ、おもしろい、ごしゅじ、さま、おもしろ、ヒィッ!?~~ッ♡♡」
 虚ろな目に絶望が宿りかけ、直後、ぱちゅっぱちゅっと快楽を叩き付けるようにして上書きされる。面白い、縋るように繰り返しながら、タカバは泣き笑いの表情で叫び続ける。
 面白い、タカバ、褒め言葉にもならない馬鹿の一つ覚えを繰り返す男は実に手慣れている。呑気に生きてきた素人でしかない彼に殺しを行わせ、罪悪感につけ込み、躾けて来たのだろう。
「ふ、ふふ。面白い、面白いねぇ、っはは、あっはははは……!!」
 今までは、だが。心からの感情を溢れさせながら、血を溢れさせる肩口に反転術式を送る。メキッ、ぐちゃっ、悍ましい音を立てながら肉が骨が血がパーツが再生していく。
「無を有に、有を無に……面白い、ああ、まったく。超面白いよ、君。一国の長が離したくないのも頷ける。くっくっ……欲しい。欲しいなぁ。人の物を盗ったら泥棒とは言うけども、欲しくて堪らないんだからしょうがないよねぇ。ねぇ。君が欲しい。君だけが欲しい」
 タカバが息を呑み、目を丸くする。いいリアクションだ。私の声を聞き、言葉を理解し、私を見返している。
「……ぉ、れ、…おれが、おれ、だけが…」
 がちゃん、がちゃっ、がちゃん、宙に浮いたままの機関銃が落ちて音を立てる。生み出された物体が消えることはない。術式はまだ続いている。だが、動揺しているのは明らかだ。
「な、腕が……バ、バケモノめ……!」
 大統領殿も動揺しているようだったが、まぁ、物のついでだ。過ぎた玩具ではしゃいでいた子供と思えばいい、いや、既に私はその程度にしか思えなくなっていた。呪術の何たるかも知らず無邪気に、ああ邪気には満ちていたが、子供の悪戯程度のものだ。問題ない。
「ああ……ああ……そうだ。私は交渉に来たんだったね。大統領殿、夢なら充分見れたろう。私はタカバが欲しくなった。大丈夫。他はもういいよ。つまらない男、つまらない国、全部どうにでもなればいい」
 私の邪魔をしないのならば、が前に付くが。呪霊を引き摺り出す。一、二、三、まどろっこしい、数えることを止めて雑に群れを成させる。交渉とは決裂した後の"処理"を滞りなく出来てこそだ。大統領殿が想定していた通り、脅しあるいは攻撃手段とする為の化け物どもを差し向ける。大統領殿が青褪める。蝙蝠、蛞蝓、蛇、既存の生物が捻じ曲がったような見目は外国人でも気色悪いと映るらしい。
「タカバをちょうだい。これは決定事項だから、力ずくでも貰っていくよ」
「ふ、ふざけるな…!!タカバは私のものだ。無限のエネルギーを、恣を叶える魔法の装置を…おい!タカバ!そいつを殺せ!!!」
 交渉決裂を告げる怒鳴り声が響く。言葉にびくんとタカバが跳ね、彼の体を中心にして呪力が波打つ。
「くく……馬鹿だなぁ。タカバの術式は『面白い』だろう」
 だが、形になることはない。タカバの虚ろな目に微かに宿っているのは恐怖、困惑が入り混じったものだ。正の感情、快楽による塗り潰しを含むそれとは正反対の、それは彼の術式の発動条件になり得ない。
「言ったはずだ。呪術には理解が要る、と。君が私を疾く殺したいなら、『面白い』を与えなくてはならなかった。タカバを犯して理性の箍を崩しながら、私の頭部が破裂して脳漿を撒き散らして死ぬのは『面白い』とでも吹き込んでね」
 とん、とん、己の額を指先で叩く。アドバイスに噓偽りは入れていない。呪術を知らぬまま行使する大統領殿とタカバには私がクリーチャーに見えているようだが、頭をやられれば反転術式は使えなくなる。面白い、タカバがそう思うだけで私は死ぬ。千年を生きておいてあっけなく。まったく、面白いことだと思う。
「……タ、タカバ……!タカバ!!そいつの、」
「はぁ…………だからさぁ」
 怒りと焦燥に満ちた顔、あっけに取られた顔、馬鹿を見る勝ち誇った顔。大きく口を開き、私が言ったそっくりそのままを行使しようとする様。コロコロと変わる感情に1ミリの面白いすら感じないのは、オチがわかりきっているからだ。
「言ったんだ。私は。ならなかった、とね。君はもう過去だ」
 鎌首をもたげていた蛇の呪霊、それらを上から下から跳びかからせ、勢いのまま大統領殿の首に巻き付かせる。ぎちぎちぎちっ、骨が折れない程度に絞め上げれば、慌てたように呪霊に手を掛けようとして、だが遅い。声を奪われた男が命令を出すことはない、人非ざる力にヒュッと息を吐いたきりその口からは何も出て行かない。
「……彼自身の『面白い』を奪い、他者の『面白い』を出力する道具にした。呪術師から呪物に替えた。制御はしやすいだろうね。でもさぁ、対処しやすいようじゃ意味がないよ。最期にひとつ利口になれて良かった良かった」
「!!ぁ、……あッ……や、やめ、て、待ってッ!?い、いやだ……ごっ……ごしゅじんさま……殺さねぇで……」
「やめて?待って?ふっ!くくっ!あっはははは…!面白いなぁ……どうとでも出来る術式を持っておきながら、何にも出来ないんだ」
 代わりに叫んだのはタカバだ。振り向けば間近に在る異常に切実な声を上げ、向き直るや否やで土下座でもしそうな勢いで私に対し懇願する。そうせずとも物事を強引に捻じ曲げるだけの術式を、タカバは持っている。私が脳味噌を弄ることで発現した未知だ。なのに彼は何も出来ない。出来ないようにされた。心の中に、黒い靄のようなものが広がるのを感じる。
「こっちにおいで、タカバ。君の意思でね」
 面白くないから、面白いから――正反対の感情のはずなのに、どちらと形容すればいいのかわからないまま、私はタカバに手招きをした。
 ぐじゅっ。濡れた音がしてタカバが微かに震える。御主人様と呼ぶ男から自ら離れ、私の傍に寄る為だ。上は乱れた黒いスーツ、下は何も纏っていない呪物としての格好のまま歩み寄る足取りはよたよたと覚束ない。それまで犯され続けていたせいだろう。つうっ、太腿を証が伝い落ちる。
「!…ぁ、」
 熱から遠ざかったことで羞恥が蘇って来たのか、ぐいとシャツの裾を引っ張ろうとしているがまるで意味がない。指摘せずにいるのは、決まっている、面白いからだ。面白いに免じて、蛇の拘束を死なない程度に緩めてやる。
「これで話が出来るね、タカバ。挨拶が遅れたね。私は夏油傑……、……いや。羂索、と呼んで欲しいかな。君には」
「…………けん、じゃく……」
「ああ。私の名だよ。私は君を理解したい。君も私を理解できるよう情報を開示しないとフェアじゃないだろ」
 目の前まで来たタカバが、鸚鵡返しをして跪く。顔の位置を股の前にやって見上げるのは、道具として使われることを身に沁みさせられているからだろう。自覚の有無はわからないが、このまま口出しせずにいればタカバは私に奉仕をするに違いない。彼に取っては当然のことだから、だが、私にはそれが面白いと思えない。パンッ、手を叩いてやれば、虚ろな目が私を見上げる。
「さて。君は御主人様とやらの命乞いをしてるわけだけど、理由は何だろうね。殺人が見たくないから?チンポで躾けてもらえなくなるから?面白いを与えてもらえなくなるから?全部かな?」
「……ご、……ごめ……なさい、俺……もう、ごしゅじんさま……だけなんだよ、みんな、ぜんぶ、…ぁ、ぁあ…おれ、悪いことっ、でも、…やだ、やだぁ、おもしろっ、なるからぁ…!やだ、ほしい、さみしいの、やだあぁ……ッッ」
「御主人様だけ、か。それは困ったな。私は君と面白いがしたいんだ」
 僅かに正気が戻ったと見越して質問を吹き込んだのだが、返された答えは正気とは言い難いものだった。頭を抱えながらの悲痛な叫び。支離滅裂なそれは、性的調教だけではないことを示唆している。
「ぅっ、ひっぐ、や、だ、する……から、な、なんでも、ごしゅじんさま、おもしろい、なんでも……」
 タカバの術式を独占したい男は、彼に邪魔者を殺させた。恐らくは彼が異国の地で心の支えとした者も殺させた。全てを彼に殺させ、傷ついた心を依存させた。唯一無二に見捨てられる不安。唯一無二に認められる安堵。威圧的に罵られ犯され使われる"呑気に生きてきた素人"は、薬漬けにせずとも壊れるのは時間の問題だっただろう。面白くない。
「なら、憂いを潰していこうか。まず、そうだね。君が見たくないと思う限りは、あの男は死体にしないであげる。で、次だね」
 頭をよしよしと柔らかく撫でてやってから、屈み込んで目線を真っ直ぐ合わせる。かつては教祖であった男の面で笑いかけてやっても怯えた目をしているのは所詮道具として優しくされることがないからか、少しばかり哀れに思うが私には好都合だ。泣き濡れた目を袖で拭い、そのまま顎を掬い取る。
「んむッ!?んっ、んん、ぅう…!」
 譫言のようなことを吐き出し続ける口を自分のそれで塞ぐ。くぐもった声を上げて身を固くするタカバにとっては、全く予想していなかったことのようだ。ああ、本当に好都合だ。銃弾の痕が残る床にタカバの体を押し倒す。
「はふ…な、なに、ぃ、ぁむっ!?ぅ、んっ!っふ、ぅう、…ぁ…っ!」
「っは……君の御主人様、キスの一つもしてくれなかったんだ。馬鹿だねぇ。躾には飴と鞭、どちらもとびきりが要るのに」
「んぇ、う…お、おれ、道具…ご、しゅじ、さ…ぁむッ!?ん、んん…!ぅ、んー…っ!」
 ちゅっ、ちゅっ、音を立てながら啄む。触れるたびに緩んでいく唇の隙間から、舌を差し込む。恋人が睦み合うような行為に、タカバは混乱しきっている様子だが抵抗することはない。陰惨な調教で抵抗を圧し折られ粉々にされた成れの果て、それが今のタカバだ。舌を、歯を、口腔を蹂躙される、性的な意図をもって犯される行為に対してのリアクションなどわかりきっている。
「ぷぁ、……ぁふ……っ……♡はふ…っ♡ぅ、けん、……じゃく……」
「寂しいのが嫌なんだろ、タカバ。だったらじっくり、たっ……ぷり甘やかしてあげないと……ねぇ。まだ寂しい?……気持ちいい?」
「ぁンっ…!…ナカ、くちゅくちゅされるの、あったかくて、ふわふわして、……さみしくなくてぇ……ンッ♡ン♡ぁ、ぁぅ、これ、キ、キス、きもちいい……♡♡」
 元より快楽でぐずぐずに堕とされた後なのだ。タカバの目の中では仄暗い正の感情が揺れている。彼は、寂しいと言った。精神が幼子に返っているのか、本来の人格なのか、どちらかは今やわからない。だが、幼い感情を抱えているならば、上から押さえつける類の調教は不適格だ。
「……もっと気持ちよくなろうか」
 曲がったネクタイを解き、汗で張り付いたスーツの前を寛げる。ボタンをゆっくりと外す最中も、タカバは抵抗しない。与えられる未知に、期待と恐れが入り混じった目で私を見つめるだけだ。私を。背後で生かさず殺さずに首を絞めている、机に突っ伏し苦痛に染まった目を見開いている男など顧みずに。
 鍛えられた胸筋が露わになる。呪術師には肉体の強度も肝心だ。タカバが捻じ曲げられず呪術師で在り続けたならば、どうだっただろう。呪術師として名残惜しさを感じたが、過ぎたことだ。彼は呪物となったのだから。胸に掌を重ね、ぐっぐっと力を込める。これも初めてらしい。好都合だな、と思った。
「へうッ!?ぅ、やっ♡あ、待っ…な、んで、そこ、おれ、男っ、ふぁ、ぅ、ンぐっ!んむ、っちゅ、ぁむ、…ふぁ…♡」
「なんで、なんてどうでもいいでしょ。無能な御主人様とやらが見落とした、…は、君の気持ちいいを増やしてあげてるだけ、……あぁ。気持ちよくないなら止めるよ?あーあ、せっかく感度良いおっぱいしといて勿体ないなぁ」
「ぁふ、ご、ご、しゅじ…、…」
 ちゅっ、くちゅっ、キスをしながら無防備に曝け出されたままの胸を揉みしだく。抵抗には遠いが流石に戸惑いがあるのかタカバが途切れ途切れに声を上げて、すぐに蕩けさせる。全く、勿体ない。どうせオナホのように穴を犯すだけだったのだろう。大統領殿にとってタカバは道具なのだから。
 大きな間違いだ。御主人様の言葉を吹き込んだ途端に罪悪感を浮上させる、すこぶる健気ないきものが彼だ。理解させた?聞いて呆れる。決定的な部分が足りていない。これでは私に奪われる為に誂えたようなもので、ああ、なら感謝すべきだろうか。返事を待たずに手を止めてやって、……視線が合う。
「ヒ、……ゃ……ッ」
 見捨てられる不安を、寂しいを体に焼き付けられた彼が唇を震わせて、しゅるんと腕を私の背後に巻き付ける。ただ触れるだけで力を込めないのは、依存の対象に揺れているからだろう。可愛らしいことだと思った。堕ちていることに、まるで気付いていない。
「や、やだ、やだぁ、待って、けんじゃく……!胸ぇっ、~~お、おっぱい、揉まれるの、きもちい、ぁふ、キスもぉ、っ♡ご…ごめん、なさ、ぁむッ!んぅ♡ぅ、れろ、…はふぅぅ…♡♡」
「謝ることないよ。どうされるのが好きか、教えてくれたらそうしてあげる。……ね。舌、出して」
「……し、しひゃ…ふぁっ♡…ぁ…♡ぁんッ♡…ひぅ♡ぁ、っはぁ、…ァ…ッ♡おっぱい、ぎゅうって強く…ぅぁッ♡ち、…ちくびもぉ、スリスリしてぇ…びりってくんの、すきぃ、……っ」
 謝っておきながら、タカバは私だけを見ている。私に快楽を得ていた事実を自供する。私の『面白い』を付けない緩やかな命令に従う。ぴちゃっ、れろっ、舌を絡めることに抵抗どころか甘えたような声と涎を零し続けて、御主人様だけの言葉は既に頭から飛んでいるのだろう。
 解放してやってもそこから溢れるのは従順に快楽をねだる言葉だ。私だけに向けた。気分が良いまま、きつく全体を揉んで形をぐにぐにと弄び既に勃起している乳首をピンと弾いてやる。
「おねだりできて偉いねぇ、タカバ。躾の成果かな。無能じゃなくて、私の。っくく、いい子、いい子」
「きゃうぅッ!♡♡はっ、……はぁ、……ァンッ!?♡♡ンっ♡ンン、ァ…ち、ちくび、ぎゅうってすりゅのぉ、~~~ッ♡♡♡」
「……いい子のタカバなら、教えてくれるね?するのが、何?君の口から聞かせて?」
「ンぁ、……す、……すき、ぃ……♡んむ、ぅ、しゅき、きしゅもぉ、はぅ、ンッ♡♡おっぱいぐりぐりもぉ、お、おれ、おれ…♡♡」
 言葉にならない犬猫の鳴き声に似た声を上げてタカバが小さく仰け反る。軽くイったらしいが、止めてとは言われていないので甘やかすに務める。おねだり通りの繰り返し、そこに少しばかりサービスを添えて、戸惑っている彼に優しく次を促してやる。千年を生きて、ここまで甲斐甲斐しいことは初めてかもしれない。
「タカバ」
 だが、私は欲しいのだ。無限の可能性に満ちた術式、それを目覚めさせた彼の全てが、既に捻じ曲がっていようとも。
「は、…はぅ…ッ……♡……お、おちんぽ……♡おちんぽ、ずぽずぽされんの、いちばん好きぃ……っ、好き、で、……っ……好き、好きなんだよぉ、やだ、しゅきぃ、おかしく、なっちまう、ごめ、ごめんなさいぃ……っ♡♡♡」
 決定的なモノをねだるタカバの言葉には、御主人様の言葉も私の名もくっついていない。欲しいといったストレートにねだる言葉もない。ただ、好きを繰り返すだけだ。好きを白状すればそうしてやる、私の言葉に縋るように何度も、何度も。誰に向けてなのかわからない、恐らくはタカバ自身もわかっていない謝罪と一緒に。体を起こす。そのままスッと立ち上がってやったのは、見せ付けるためだ。
「いいよ。……じゃあ。君がどうすればいいか、わかってくれてる?」
「っ、……ご、ごめ……」
「謝れなんて言ってないだろ。理解度合いを聞いてるだけ。君の大好きなチンポハメがして欲しいときのお作法の話ね」
 ワザと卑猥な言葉を使ってやれば、かあっとタカバが頬を染め、くくっと笑ってやれば尚更に赤く色づいていく。彼というものがそれなりにわかってきた。道具としての躾しか知らず、歪な依存を抱える彼は、恋人が睦み合うような言葉や行為に弱い。こく、小さく頷きを返した通りに、だ。
 しゅる、ごそ、返事に応えて熱烈なラブコールを受けたそれを露わにし、突き付ける。積極的に男を抱く趣味はないが、興味関心高揚の塊である彼に関しては別だ。既に少しばかり反応していることにタカバがはっと息を吐いて、垂らした舌で触れようとする。
「あ、そうだ。私ばかり気持ちよくなるのも不公平かな。君が気持ちいいこと、していいよ。……ねぇ。タカバ」

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