10.APPLE

 それは昨秋のこと。セカンの町中クエストでクランでリンゴ狩りを行いました。えぇ、いつもの通り魔物型の林檎の木を狩るお仕事です。『赤星リンゴ』、『緑星リンゴ』、『黄星リンゴ』の三種類。上から見るとゆるく星の形をしているというリンゴだ。名前の違いはそれぞれ皮の色で、味の違いはあまりないとのこと。
 他には葉っぱやら枝やら、苗やらがドロップし、レアドロップは『白星リンゴ』なんだが、こちらは人間は食べられない。ハズレか? と思ったがどうやら精霊やモンスターの好物なんだそうだ。おそらくはペットの餌枠。白や黒のためにもモリモリ倒しました。
 それぞれ納品用以外のリンゴは私の【ストレージ】の中へと納まりました。

 その後、収穫したリンゴは出荷する分を除いては村の女集総出で来年までもつように加工すると聞いて、それに参加するべく数日後に再び村を訪れる。なお、レオの同行は断固として拒否りましたとも!
 そしてリンゴを切り分け、切り分け、切り分け、切り分け、切り分け、うんざりするほど切り分け、大きな鍋があちこちの薪の上にセットされ、お湯が沸いていく。そこに切ったリンゴを放り込み煮ていく。
 煮詰めたリンゴは、あるものは裏ごしされてペースト状に、あるものはジャムにされていく。
 ペースト状にした者には砂糖を入れてさらに煮詰める。

「緩めに煮詰めたのとそうでないのの違いは何なんだ?」
「緩めの方は生地に直接入れる、そうでない方は塗ったり挟んだ理で焼いたりするときに便利さね」
「ほー」

 どっちもパンに塗ったり、お茶のお供にしたりすることがあるとのこと。ジャムも同様。他にもリンゴを燻してチップスを作ったりと、大忙しだ。
 一仕事終えて、本日のお茶はリンゴの皮入りのお茶に、林檎入りの蒸しパンケーキっぽいもの。おばちゃんたちに生活の知恵とかご家庭のレシピなんかを聞きながらその日は過ごしました。


「で、その時にドロップした『白星リンゴ』で作ったアップルティです」

 カチャと、呼び出した白の前にいつものティーカップを出す。ちなみに齧ってみた感想としては「味がない」でした。黒にあげてみた時には甘いみたいなこと言っていたので、人間が食べても味がしないのだろう。マーリンにあげたらこちらも味がしたらしい。うーん、PET枠の謎よ。

「おぬし、忘れておったな?」
「ははははは」

 笑ってごまかしましょう。ジト目で見られつつ白に『白星リンゴ』のアップルティと切り分けたリンゴを出す。私は普通に『赤星リンゴ』のアップルティに、リンゴのジャムを巻いた一口サイズのペストリー。うん、サクサクにできた。
 てちてちとお茶を飲む白のふわさらの毛を撫でる。

「うまいか?」
「うむ、なかなかじゃな」

 それはよかった。と、目を細める。春の気配がすぐそこまで感じられるある日の話だ。


 

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