しあわせのために エピローグ

ライアンを包み込んだ、白い光が消えていく。

私はそれが完全に消えるのを見届けたあと、ぺたんと座り込んだ。
途端に、我慢していた感情が溢れ出てくる。

(……っ、だめだ 今こんなとこで泣いてる場合じゃ、ないのに)

最後にライアンが持たせてくれた、万能薬。
彼が管理してくれていたそれは、まだほんのり体温が残っていて。
これを妹のところに持っていけば、元気になる。私の願いは、「しあわせ」は叶う。

私が「作り物」だと知っても、精神が崩壊せずにいるのは、自分自身で妙に納得してしまったからだ。
心のどこかで、ライアンの「しあわせ」を願わずにはいられなかった。
それは、叶えられる願いが一つだけ、と知って。なんとなく聞くのを憚られてきて、やっと彼の願いを聞いたあの瞬間もだった。

だから、「あなたの願いを叶えてよ」って真っ先に言った。
あなたのしあわせを叶えてほしかった。

なのに。
その気持ちは彼も一緒、だなんて、思いもしなかった。
「現実世界のことは帰ってからなんとでもなる」
「けど今この世界を救えるのは、この魔王の心臓だけなんだ」
「俺のしあわせは、俺とクリアがしあわせになることだ」

この世界は作り物なのに。私は作り物なのに。
「お前は人間だ」って力強く言ってくれた言葉が忘れられなくて。

いかなくちゃ。
ライアンが救ってくれたこの世界を、精一杯生きなきゃ。
しあわせにならなきゃ。だって。そう約束したから。
それで妹の病気が治ったら、みんなにライアンの話をするんだ。
この世界の救世主の話を。
私の、誰よりも大切な相棒の話を───


『ライアンという名の冒険者が、魔王を倒し、そしてその影響で滅びかけた世界をも、何でも願いが叶うという魔王の心臓で救ったのだ』
この話は伝承として、街から街へ、親から子へ、語り継がれることになった。
銅像と石碑に掘られ、書物に綴られ、詩にもなり、色んな形で、ずっとずっと残されることになる。

でも、この話には表になっていない部分がある。
「──そしてその傍らには、一人の少女が、彼のことを支え続けていたんだ。
とても強く優しく、この世界のことを、そして彼のことを大切に思っていた、赤毛の少女が。」
そう、みなに聞かせて語るのは。
あの時、城にいたときまだ子供だった、大人になった魔人だった。

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