お題:休日

※[手当て]から続きの時系列ですがこちらだけで読めます。


「穹、あんたは今日一日お休みよ」
 模擬宇宙オーバーヒート事件から更に数システム時間後、姫子から突如そう通達されラウンジ車両のソファから思わず立ち上がった。つい先程まで操作していたスマホの画面上では、敵機に撃墜されゲームオーバーになったシューティングゲームが物悲しいBGMと共に壊れた機体が墜落していくアニメーションを流している。完璧なタイミングと演出で、僅かな油断が命取りになる教訓と今の俺のテンションを見事に体現していた。
「ヘルタから連絡をもらったのよ。宇宙ステーション「ヘルタ」の医療課でも異常はなかったけれど、しばらく様子見をしてほしいって」
「大丈夫だ姫子、もうこんなにピンピンしてる」
「いいことだわ、でも駄目よ。そうでなくても仙舟「羅浮」の一件でずっと動き回っていたのだから、たまの休みだと思って大人しくしていること。いいわね?」
「……分かった」
 渋々返事をすると、姫子は念押しのようににこりと笑ってからコーヒーカップに口をつけた。姫子の横で見ていたヴェルトに視線で助け舟を求めても、姫子同様ににこりと笑って首を横に振られた。更に少し離れた所にいるなのとパムにも救援を求めて視線を送ってみたけれど、「そんな悲痛な顔をしてもダメ!」と2人とも腕で大きなバツを作り却下された。こういう状況を何と言うのだったか――
「……っていう事があって」
「四面楚歌、だな」
 その答えを求めて我々はアーカイブ室の奥地――我々と言いつつソロパーティな上、出入口から3mもないお手軽な奥地である――へやってきたところ、この部屋の主と化している丹恒から案の定正解を得ることができた。
「四面…文字通り4人」
「俺も姫子さんたちに同意だ」
「五面楚歌」
 丹恒なら譲歩してくれるのではという淡い期待は残念ながら儚くも打ち砕かれ、敵を増やしただけだったので失意のあまり丹恒の布団へ突っ伏した。紙と布と、丹恒とハグした時の匂いがする。
「呉越同舟、という言葉もあるんだが、こちらの方が状況としては近い」
「……うん?」
 布団の真ん中を占拠していたところへ上から何かが乗ったような感触を受け、確認しようとするも更にその何かに軽く押さえつけられて体を起こすことは叶わなかった。その代わり真横に人の気配がして、かろうじて首を捻り確認すれば同じく横たわった丹恒の顔が見えた。言葉の意味も、丹恒が真横にいる意味も分からずクエスチョンマークを浮かべると、ぽんぽんとリズムよく背中をたたかれる。ようやく自分の体の上にあるものが丹恒の腕だと理解した。
「敵対者同士が共通の目標で協力すること」
「俺と丹恒の共同作業」
 端的に要約したら丹恒がもの言いたげに言葉を止め、しかし結局そのまま話が続行される。背中をあやす手もそのままだ。
「俺もそろそろ仮眠をとろうと思っていた。だからおまえも休め」
「分かった! それじゃあ俺は子守歌を歌うな!」
「……静かに休んでくれ」
 そう言って目を閉じた丹恒はしばらくの後に寝息を立て始め、俺も釣られて重くなる瞼を逆らわずに閉じた。共同作業の成果は果たして。



2024.11.16 丹穹Webオンリー「もっと恋の探求! 一意専心」にて
リクエストありがとう御座いました!

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