熱/悪犬同軸リバ(2023.7.23)
カーテンの向こうにはすっかり夜の帳が落ちていた。成人男性二人が並んで寝転がることのできる広いベッドは、ふたりで暮らし始めるときに購入したものだ。うっすらと差し込んだ月明かりが、寝室に置いてあるものの朧げな輪郭を浮かび上がらせる。
相棒はとなりで穏やかに寝息を立てていて、そのぬくもりは冬弥の肌にも伝わってきていた。先ほど着せてやったTシャツの下には、冬弥が何の遠慮もなくつけたおびただしい数の跡が隠されている。
「……あきと」
小声で名を呼んでも起きる気配はなかった。起こすつもりも毛頭ない。眠気は冬弥から少し離れたところに立っていて、手を伸ばせば簡単に掴まえられそうだ。今日は冬弥が、それなりにひどくしてしまったから、彰人は寝具に潜り込んですぐに睡魔に意識を明け渡したようだった。日々トレーニングを欠かさず、体力のある相棒だから、へとへとに疲れきったというほどではなかったが。
無防備な寝顔に手を伸ばす。壊れものを扱うよにそっと、指先で頬をなぞった。それは、幼い頃にピアノやバイオリンの手入れをしていたときの手つきに似通っていたし、ほかにも、杏やこはねが時折差し入れしてくれる繊細そうな菓子をつまむときや、ミクやレンが飛び出してきているスマートフォンを持つときとも近しい。その中でもいっとうやわらかく、愛情深く、冬弥は相棒に触れた。
「あきと、」
くりかえし、その三文字を舌に乗せる。何度呼んでも足りないくらいに相棒のことが好きだったから、冬弥は迷わずそうした。相棒の、行為中であれば赤面するところがかわいらしくて、最中の役割を問わず、冬弥の癖になった。
「ん、……」
彰人がむずかるような声をこぼして、冬弥はハッとして指を離した。ちいさく首を振っただけで、彰人はまた夢の中に入っていったらしく、その後はまた、規則的な呼吸だけが聞こえてくる。
眠気は冬弥のすぐ近くまで忍び寄っていた。本当は、皮膚のしたがざわざわと火照るような熱を持っていたけれど、片方だけしかしていないときはいつもだったから、気にしないことにする。次は俺が下をさせてもらおう、ひっそりと心に決め、冬弥は目を閉じた。
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