ちょっと贅沢な土産物

 カミハルムイ城下町には、木工ギルドを中心に栄えた市場がある。
 そこではエルトナ地方にしかない特殊な商品を求め、各大陸からやってきた商人や冒険者達で賑わっていた。

 時は遡ること数日前。俺達はカミハルムイ城下町の片隅にある安い宿を取り、数日間滞在する事を決めた。
 旅の同行人であるモカさんには「調べたいこと」があり、城に納められている本を何冊か読む必要があったのだ。

 そんな訳で暫く手隙になった俺は、小遣い稼ぎに手頃な討伐依頼を済ませた後に、食料を調達の為この市場へ立ち寄るのが日課になっていた。

 カミハルムイの食文化は他の大陸より少し独特で、何も調べずに料理屋に入ると腐った食べ物が平気で出されるとか……とにかく、人によって好みが分かれる料理が多い。したがって、直接選んで買う方が都合が良いのだ。
 特にモカさんは「ツケモノ」というエルトナ料理が大の苦手だった。
 今日は討伐依頼が早く終わり日が暮れるまで時間に余裕があった為、まだ行っていない通りを見て回ろうと歩いていたら、あるものが目についた。

 これは、紅茶の専門店……なのだろうか?

 不思議と落ち着く香りが漂うその店頭で、見本として飾れている紅茶……なんとその中に「花」が咲いているではないか。
 とても不思議な光景だったので思わず足を止めて見ていたら「珍しいでしょう?」と店の主である老婆が声をかけてきた。

「工芸茶といってねえ。それはユリ……あなたがたの大陸で言う『りりぃ』と、キンモクセイというお花が入っているのさ。味も見た目も楽しめるお茶、おひとつどうだい?」

 紅茶の中で咲く色とりどりの花は幻想的で、飲み物というより一つの作品のように思えた。
 正直、俺には「綺麗なもの」「美しいもの」に対する理解が無い。
 しかし彼女と一緒に旅をしてきた影響か、少しでもそれに興味を持つようになってしまったようだ。

 ああ、きっとこれは彼女が好む「芸術」なのだろう……と。

 老婆から工芸茶についての説明を一通り聞いた後に、工芸茶を二つ欲しいと告げる。
 どうせ彼女は長い間飲まず食わずで調べ物をしている。きっとこれは良い気分転換になるだろう。

「しかしお兄さん、見たところ冒険者でしょう?工芸茶を嗜むなんて、珍しいわねぇ」
「冒険者の方はあまり買っていかないんですか?」
「そうねえ、工芸茶は作り手が少ないからちょっとだけ(カミハルムイ基準)お高いのよ。一度にふたつもお買い上げくださるなんて、まだお若いのに、腕の立つお兄さんなのねえ」
「……へ?」

 慌てて値札と所持金を確認し「明日は討伐依頼の量をいつもより増やそう」と心に決めた俺は、泣く泣く工芸茶の数を一つ減らすよう老婆に告げる。

 ここ数日はゆっくり羽を伸ばすことが出来ると思っていたが、明日からまた忙しくなりそうだ……。

powered by 小説執筆ツール「notes」