5/17 21:00

 夢で、要と話をした。
 あんまり幸福だったから、途中まで夢だと気づかなかった。気づかないまま、夢を見たことすら忘れてしまえたら良かったのかもしれない。そうすれば、目を覚ましたあとの巨大な『うろ』みたいな喪失感を、唇が破れるまで噛み締めなくても済んだのに。

 その後天城とは一週間言葉を交わしていない。
 むろん仕事をする上では問題ないように振舞った。椎名と桜河は、おそらく何かを察していたのだろうけれど(彼らには本当に申し訳ないことをした)。
 ──ラスベガス、手づくり弁当、俺とあいつの共通点、メッセージアプリのスタンプ。ふたりだけの秘密。頭の奥で要の呼ぶ声がする。
 きっと、そう、表層を均して綺麗に飾るだけでは意味がない。正月やクリスマスではないのだし、恋人の誕生日祝いに臨むなんて初めてのことだから、完璧を目指したところで何が満点かなんてわからないのだ。
「……うん。わかってるよ、要」
 ちゃんと伝えるよ。なんか照れ臭くておまえには言ってやれなかったから、あのあと後悔したんだ、俺。
「……、よし」
 あと三時間で明日になる。明日には、何かが変わる。変わらないよう、守るよう必死に努めてきたけれど、今度は変わる。たぶんだけど、良い方に。要が勇気を出してアイドルになったのと同じように、俺もそう願うことにした。
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