もう二度と相談してくんな

 まあぶっちゃけ、恋愛なんてゲームみたいなもんでさ。相手をいかに自分に振り向かせるか、自分に夢中にさせるかが楽しいわけで。相手の気持ちが自分に『おちた』って分かった時点でゲームは終了するんだよ。いやだって、付き合ったら恋人っていう大義名分を振りかざして次はこっちの行動を制限してきて鬱陶しいだけだから。しかも行動だけじゃなくて『自分のことを一番に考えてほしい、常に自分を見ていてほしい』って気持ちまで強要してくるんだぜ? 結局最後はお互い罵り合って別れる羽目になる。最悪だろ? だから、楽しさが最高潮に達したときにスパッと切って次に移るのが、両者にとってもっとも平和的で後腐れなくていいわけ、って感じ。恋愛っての引き際さえ見誤らなければ楽しいぞ~。まぁ、そういうのはお前に苦手そうだよな。ああ……なるほど、そうかそうか。そもそもまだ恋したことないのか。ならなおさら初恋は拗らせると面倒だから気をつけろ。つっても初恋なんて基本実らないけどな。そうそう、実らない実らない。実ったとしても最長三ヶ月程度で終わるもんだから、初恋は軽い気持ちで始めて散らせろ。失恋したら飲んで忘れりゃいい。そのときは俺を呼べよ、失恋宴会開いてやるからさ。

「っていう会話をけっこう前に洛軍とした結果、それをしっかり覚えていた洛軍が『俺が信一に抱いているこの気持ちは迷惑になる。かといってとても捨てられそうにもないし、捨てたくない。だからこの思いは胸にしまって墓場まで持って行く。大丈夫、俺はみんなに受け入れてもらえて居場所ができただけで十分満たされた。だから信一の重荷になることは絶対にしないとここに誓う』って燕芬姐に確固たる意思を込めた瞳でもって決意表明をしたらしい。なあ、誰か洛軍に告ればワンチャンあるかもよって伝えてくれね?」
 信一から大事な話があると呼び出され、何事かと来てみたらコレだった。
 同じように呼ばれたらしい四仔を見てみると、ものすごい形相になっていた。城砦を取り戻してから四仔はマスクを外すようになっていたが、ここまで露骨に嫌悪と怒りを顔面に出しているのは王九とその取り巻きどもと対峙したとき以来だと思う。
 普段は四人で集まり麻雀したり駄弁ったりする、本来は憩いの遊び場であるはずの空間にいるのは俺と四仔、そして呼び出した張本人の信一の計三名。本来の人数が一人足りない上に、信一の果てしなくくだらない話のせいで無駄にピリついた空気が流れてしまっている。っていうかわざわざ呼ばれて何を聞かされてるんだ俺らは。
「お前が告白すればいい。それで全て解決する」
 吐き捨てるように言って四仔が早速部屋から出て行こうとした。
「俺から言ったら確実に振られるだろ」
 信一が二本しかない右手で四仔の裾を掴んで引き留める。そっちの手を使われると四仔が振り払うのを若干躊躇すると分かっていてやっている。相変わらず人の懐に入るのが上手い奴だ。こいつの自分の持っているものを最大限利用するところは、自分の価値を分かっていて嫌いじゃない。真似をしようとは思わないけど。
「ああ、潔く振られてこい」
 予想通り四仔は信一の手を振り払わなかった。言葉だけで突き放す。
 洛軍の信一に対する感情には俺も四仔も気付いていた。もちろん信一が気付かないわけがない。口先では「一時の気の迷いだろ」などと言っておきながら満更でもないのは明らかだった。何事も自分の気持ちをはっきり伝える洛軍のことだから、信一に胸の内を明かすのは時間の問題だと思われた。だが待てど暮らせど洛軍が行動に移す様子は一向になく、当初は余裕で様子見を決め込んでいた信一も流石に焦れ始めた。なんせ受け入れ体制はとっくに万全だったのだから。
 まさかこんなロクデナシ発言をしていたとは思わなかった。
 おそらくお互いに意識をしていなかった頃に交わされた会話だろう。それでも当時の信一にとっては本心でもあったはずだ。だから洛軍はその言葉をしっかりと受け止めて、自覚後には自分の中でしまいこむ決意をした。
 心を墓場まで持っていくと決めた以上、今になって信一が求めてもきっと首を縦には振らない。洛軍は素直だが頑固だ。自分で決めたことを曲げるような真似はしない。
 焦れすぎて燕芬姉に探りを入れたらこの結果。あの口が堅そうな彼女が洛軍の打ち明け話を教えてくれたのは、身から出た錆であることをその身に刻み、しかと振られろというメッセージだ。
「なあ信一、諦めて振られてこいよ」
「嫌だ。っていうか両想いで振られるとかマジで意味分かんねえよ」
 あれだけよりどりみどりで来る者拒まず去る者追わずだった色男が、今や大本命相手に失恋の危機に陥っている。第三者としてなら面白可笑しく茶化せたが、巻き込まれるとこの上なく面倒くさい。こんなときポケベルが鳴ってくれたら即座に帰れるというのに、こういうときほどちっとも鳴らない。会合カチコミ兄貴のお世話、誰でも何でもいいからこの場から去る口実を俺に与えてくれ。
「恨むなら軽薄で浅慮な過去の自分を恨め。おい、本当にいい加減帰るぞ。午後の診療が始まる」
「待て。帰ってもいいけど、この難題を解決する策をひねり出してから帰れ」
「だからお前が告白すれば全て終わり、その後には平穏が訪れる」
「終わらせてたまるか」
 信一は未だに四仔の裾を掴んで離さない。無駄にいい顔が真摯に四仔に訴える。台詞だけなら決まってる。だが全体としての流れは最低だ。これが恋ってやつなのか。果てしなく厄介だ。
「ああもうメンドクセエなあ。こうなったら秋兄貴に話し合いができる部屋を貸してもらえ、壊したらヤベェような調度品で囲まれた部屋をよ。あの人はこっちに借りがあるんだからその程度はしてくれるだろ。部屋の圧とお前の得意な数字を混ぜた屁理屈で洛軍が気を散らかしまくってくれれば、せめて過去の発言ぐらいは撤回なり脇に置くなりできるんじゃねえの? 勝つときも負けるときも一緒なんだろ、こんな時こそ気張れやオラ」
 適当抜かして発破をかける。後先のことなどもちろん考えない。だってこれは俺や兄貴のシマの話じゃない、信一と洛軍の二人の問題だ。
「……! そうだった。十二の言うとおりだ」
 無事、信一は気付きを得たらしい。しつこく掴んで離さなかった四仔の裾をあっさり離すと出て行った。
「くそっ、今日は予約が詰まってるのに……疲れた……」
 ひどく疲れた声のまま、次いで四仔も出て行った。
 俺も疲れた。体は全然動かしていないのに、普段の揉め事治めの五倍くらいの疲労感を感じている。信一、しっかり当たって砕けてこい。失恋宴会はド派手に開いてやっからよ。

 後日、四仔から「あの二人が成立した」と知らされた。
 マジかよ。

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