小春日和の女の子


春日井 雀 (かすがい すずめ)

凛の最初の引き取り先から通っていた私立中時代の同級生。
藤島凛の対女性における「女の子は守るもの」の決定打を作った子。
内部進学が当たり前の学校だったので、外部からの編入生である凛が目新しくて仕方なかった。

「すずめちゃん、プリント、…? 俺の顔、なんかついてる?」
「△△くんは綺麗なお顔なのね!」
「へ?」
「んふふ、プリントありがとう」

ぽややんふわふわな雰囲気を全開にしている根っからの箱入り娘なお嬢様。
蜂蜜色のお嬢様のテンプレみたいな子。世間知らずで普通に憧れているような。

私立中時代の凛は、引き取り先(以下△△家)から今まで通りでいい、と言われていたので
持ち前のコミュ力で友達作り等は困っていなかったし明るく振る舞っていたけれど、
定期的に感覚が違うことを思い知っていたので100全部出せていたかというと微妙なところ。
(仲の良い男友達がみんなマックだとか駄菓子屋にほとんど興味がない、行かないような環境)

「ねぇ△△くん、すぅ、マックに行きたいのっ」
「…え? なんで?」
「1回だけ食べたことがあるんだけどね、とっても美味しかったなあって」
「いっかい…って、それ行っても大丈夫なの?」
「だいじょうぶ! ね、ね?一緒に行こう?」

好奇心に忠実だし、その割におっちょこちょいでドジで何もないような所で転ぶ女の子。
すずめが凛の等身大の目線に興味があるお陰で、それを素直に出してくれるお陰で、
凛も自分の物差しにあったものに触れることが出来てほっと落ち着けていたのも事実。
当時の凛は引き取り先の△△家を窮屈だとは思っていなかったけど、
そもそもが庶民とは言い難いそれなりに敷居のある家だから、無意識に緊張していたのは事実で。
本来の感覚でいるからこそ喜んでくれるすずめといるのが心地良くて安心出来た。

すずめにとっては凛はヒーローというか、知らないことを教えてくれたり連れて行ってくれたり、
困ったことがあったら一緒に悩んで、守ってくれる。でも少しおばかさんで、それも可愛くて。
自分が知っているような内部生の男の子たちとはちょっと違う。それが庶民故だったとしても。
顔だマックだ色々と言葉を投げ掛けてはいたけど、興味があるのは最初から凛自身のことだった。

俗に言うお付き合いへ進展していくのも自然だった。
その辺のスーパーに入ってコーラや駄菓子を買って公園で食べたり、肉まんを食べたりもした。
すずめの家にお呼ばれした時も、すずめの両親が凛を庶民出身だと罵ることは全くなかった。
寧ろ笑顔で迎え入れてくれて、一緒にファミリーパックのお煎餅を食べたりした。
学年でもお似合いだと認識されるくらいには円満で、穏やかな恋愛をした。

「んふふ、すぅね、凛ちゃんのことが大好き」
「んぅ、俺の好きの方がおっきぃと思うけどな」
「どうかなぁ? だってすぅは凛ちゃんが凛ちゃんになる前から好きだもん」
「…それはずるいよぉ」

どんどんと空気が悪くなる家に帰りたくなくなるくらいには、凛はすずめが好きだった。
でもただの中学生に家での揉め事をどうにかできる愛の力なんてあるわけがなく。
2年生も終わりかけの、寒さが残る3月に凛は孤児院に“行く”ことにした。

別れは凛から、素直に全てを伝えた。
自分が△△家の養子だったこと、本来は孤児であること、元々いた孤児院に戻ること。
好きだったはずの△△家が今は窮屈で仕方がないこと、転校すること、もう会えないということ、
義父母にすずめについて何一つ伝えていないこと、伝えられないくらい自分は無力だということ。

すずめも知った。
聞いて尚何も出来ないと分かってしまうくらい、自分も無力だったということ。

「すーちゃん、またね」
「…うん、またね、凛ちゃん」

この“また”がないことが分かるくらいには、二人は大人だったのに。




□□蛇足

お付き合い中の会話はいちゃいちゃした内容じゃないのになんかふわふわ花が飛んでいるような。
真っ当な中学生の恋愛だった。多分何事もなく△△家の子として凛が生きていけていれば
当たり前に結婚してたのでは、ってくらい相性も良くお似合いな二人だったと思う。
とはいえ中学生でわざわざ恋人の形を取っちゃうくらいのマセガキ、色々な初めても踏み込んだ。

すずめちゃんは暫く泣いた。凛も孤児院に戻る数日前にこっそり泣いた。
でも泣いて発散出来てしまうくらいには、お互いがいない世界がすぐに馴染んでしまうくらいには
やっぱりどこか幼い恋だった。だからこそ今はお互いに至上の思い出ではない。思い出程度。

再会云々はちゃんと考えてないけど、現在の凛からしたらすずめちゃんは思い出補正もあって
眩しいくらいに世界が違う人なので、出会ってもあの時の気持ちが再燃することはないと思う。
すずめちゃんも焦がれていないしマックには行かなくなったけど、コーラと駄菓子は今でも好き。
なんかの機会があったら再会して、穏やかに話すことがあったら嬉しいですね。

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