26.06.28 発行予定【色々衣】サンプル(仮)
※羂髙こばなし詰め合わせコピー本(A5 / 全年齢 / 40ページ予定)
※付き合ってたり、まだ付き合ってなかったりの羂髙のお話が三本収録されています
※関係性は各話ごとに独立していますが、全体的には甘かったり、羂索がぽんこつだったり、面倒くさかったりする、だいたいいつものうちの二人です
※以下、各話サンプル
【家出の行方】
※付き合ってる二人 / 約9,500字
※羂索とケンカしてぷち家出をする髙羽のおはなし
羂索とケンカをした。
きっかけは本当に些細なことだ。
どれくらい些細かといえば、その詳細を語る時間も労力も何もかもが勿体ない、一年も経てば当事者である髙羽たちもきっと忘れてしまうような、そういう類のものだった。
だが、いかに発端が些細でくだらなくとも、ケンカから一晩経った今もなお、髙羽の胸には怒りの炎が燃えていた。
十代や二十代の頃ならいざ知らず、これは最近の髙羽にしては大変めずらしいことである。
いつもはこうではなかった。
ケンカの理由がなんであれ一晩経てば髙羽の怒りは自然と収まったし、「羂ちゃんも悪いけど、俺も悪かったよな」と、ケンカ両成敗の精神で、自分から羂索にあやまり、お互いにごめんなさいをして仲直りをする、それがいつもの自分たちの姿だった。
だけど、今回ばかりはちっともそんな気になれない。
それもこれも、今回は全面的に羂索が悪いせいである。今回のケンカに関して髙羽は自分にはまったく非がないと断言できる。
おかげで、ケンカから一晩経ったというのにちっとも怒りが収まらない。
寝室もベッドも一つしかないから、ケンカをしてもこうして一緒のベッドで寝ているのだけれど、いつもは寝て、起きて、隣の羂索の寝顔を見ればなんとなく「まぁ、いっか」という気持ちになるのに──というか、なるからこそ「俺も悪かったよな」という気持ちになるのに、今回はまったく駄目である。なんだったら、そのやすらかな寝顔にすら腹が立つ。
昨夜からいらいらむかむかが収まらず、自分はまったく安眠なんて出来なかったのに、なんでこいつはぐっすり寝てるんだばかやろう、ってなもんである。
髙羽だっていつまでも羂索とケンカをしていたいわけではない。すぐ仲直りできるならそれが一番だし、ケンカなんか長引かせたっていいことは一つもない。そんなことはもちろんよく分かっている。
でも、どんなに分かっていても駄目だった。理性と気持ちは別である。どう頑張ったところで、今回はいつもみたいに先にこちらから謝る気になんてなれない。
というかいつもは自分のほうから謝ってるんだから、たまには羂索のほうから謝ったってよくないか? そもそも今回、髙羽には謝るべき非など一つもないのだ。やっぱりどう考えても、今回は羂索が先に謝るのが筋だろう。なんだったら自分が起きる前に起き出して、目覚めて一番に謝罪でもいいくらいだ。
だというのに、何故こいつはこんな何事もなかったかのようにぐーすか寝ていられるのだろう。どう考えても百パーセント自分に非があるケンカをして仲直りもしないままベッドに入った人間の姿ではない。普段から傍若無人が服を着て歩いているような男ではあるが、流石にこれはひどいと思う。
天下泰平とでも言わんばかりの羂索の寝顔は、見る人が見れば平和の象徴にでもなり得るのかもしれない。だけど、今の髙羽にとってはまったくの別だった。見れば見るほど、いらいらとむかむかが増す。心の健康に悪いことこの上ない。
不意に、もしかして羂索は今日もいつも通りの朝が来る──髙羽のほうが先に謝ってくる、と思っているからこんな平和な顔で寝ていられるのじゃないか、と髙羽はそんなことを思った。思ったら、にわかに怒りが増した。真実のところは知らないけれど、もしそうだとしたら馬鹿にしているにもほどがある。
こうなるともはや怒りの無限スパイラルだった。怒りが怒りを呼び、火のないところに煙を見つけて更に怒りが燃やされる。
──決めた。
こうなったら家出だ。家出してやる。
家出と言っても今日は夕方からコンビの仕事が入っているから、本当に家出ができるわけでもないのだけれど、夕方までぷち家出をしてやる。
行き先も告げずに、スマホも切って、羂索のことなんかすっかり忘れて夕方まで遊んでやる。
起きて自分の姿がなくったって羂索が慌てることなんかないのは分かってる。自分が仕事を放り出せるような人間じゃないと知ってるから、夕方には会えると高をくくって心配すらしないだろうということも分かってる。でも別にいい。これは自分のための家出だ。羂索のことを頭から追い出して、自分がすっきりするための家出だ。
幸い、今日は天気がいいし、どこに出かけようと気分転換はできるだろう。外を散歩するだけでも気持ちがいいだろうし、羂索と一緒に今度行ってみようかと言っていた定食屋に一人で行ってみてもいい。まったく知らない場所に足を運んでみたっていい。こうなったら一秒でもながく、家出の時間を満喫してやる。
そう思ったらもうじっとしてはいられなかった。
髙羽は冷めやらぬ羂索への怒りと家出への意欲を沸き立たせて、さっさとベッドから抜け出した。
(後略)
○
【夜にしずむ】
※ただの相方?の二人 / 約6,500字
※宅飲みの最中うっかり変なことを言ってしまった髙羽のおはなし
「ねぇ、ちゅーってどうやんの?」
アルコールのせいで呂律の怪しい髙羽の問いに羂索はぱちり、と瞬いた。
鳩が豆鉄砲食らったような、とでも言えそうな、普段とは正反対の何のてらいもない羂索の表情に「こいつもこんな顔すんだな」と髙羽は人ごとのように思った。
夜も深まった髙羽のぼろアパートでのことである。
「どうって……君、したことないの?」
「あ、いや、そういうわけじゃないんだけど……」
だが、髙羽が人ごとのような気持ちでいられたのはほんの数秒だった。世にも珍しい天然記念物を見るような目で見られたうえに、羂索にしては珍しいくらい邪気のない口調で訊ねられて「あれ? 俺、いまもしかして変なこと言ったかも……?」という自覚が今さらながらに湧いてくる。
なにか深い意味があってした発言ではなかった。
だが、よくよく考えれば羂索がこんな反応をするのも当然といえば当然だった。だってさっきの発言=私はキスの仕方がわかりません、ないしはキスをしたことがありません、と言っているようなものだ。どちらにせよ男として大変なさけない発言である。
別に、髙羽だってわざわざこんなこと羂索に訊くつもりはなかった。
たぶん、というかほぼ確実にBGM代わりにつけてたテレビが悪い。
今日も今日とて、羂索はいつものように髙羽の部屋を訪れた。事前になんの連絡もなく来訪した羂索を髙羽はいつものように受け入れ、そのままいつものように髙羽がつくったネタを二人であーだこーだ言いながら詰め、そして気づけば、いつものように陽は暮れ、夜になり、いつものように二人で買い出しに行って、戻って、髙羽の部屋でご飯を食べて、そのまま流れるように宅飲みがはじまった。
ゆるゆるとした空気でアルコール片手に羂索とくだらない話をするのもいつも通り。脇にあるテレビをなんとはなしに見ながら、流れている番組にツッコミを入れたり、感想を言い合ったりするのもいつも通り。こういうときの話なんて、深いことなんか考えず、脳直で言ってることがほとんどだ。
だから、その延長線上にさっきの発言があっただけ。
流してたテレビがバラエティからニュースになって、ニュースからドラマになって、ドラマでキスシーンが流れて、それで、なにも考えずぽろっと言ってしまっただけだ。
アルコールが入っていたのも悪かったのだろう。じゃなきゃいくら気を緩めてたとはいえ、絶対こんなこと言わなかった。
「そういうわけじゃないって……じゃあ、そういうわけじゃなければ、どういうわけなの?」
──が、今さら自分の発言に後悔したって後の祭りである。
このままだとどう足掻いても情けない告白をするしかなく、髙羽はえーっと、あー、その、などの意味をなさない言葉を繰り返して場を繋いだ。なんとかこの場を切り抜けられるような上手い誤魔化し方はないかと必死に頭を働かせるが、残念ながらそんなものはちっとも浮かんでこない。
せめて、羂索も自分と同じくらい酔っていてくれれば言い間違いだの、聞き間違いだので有耶無耶にできたかもしれないのに、残念ながらこちらを見る羂索の目は酔いが全く見えないほどしっかりしていた。呂律だって自分とまったく怪しいところはなく、どう足掻いても有耶無耶にできそうな隙はない。
それでも何とかこの場を打開できないかと髙羽はえーっと、えっと、とそのまま悪あがきを続けた。──が、
「っ、ごめんなさい嘘つきましたした全く一回もしたことないですぅ……」
じわじわと険しく寄っていく羂索の眉根によってその悪あがきは二秒もかからず終了した。
情けなさの極地で声を震わせながら口早に告白する髙羽に、羂索が「だろうね」と呆れ顔で息を吐く。
「君さぁ、君が私相手に嘘とか誤魔化しとか上手く出来るわけないんだから無駄に足掻くのやめな」
「……はい」
羂索の言っていることはまったくもって正論でしかなくて、ますます髙羽の肩が縮こまる。
男として情けない告白をさせられたうえに、反論の余地もないほど正しい言葉で詰められて髙羽はちょっと泣きそうな気分だった。さっきまであんなに楽しく飲んでたのに。なんでこんなことになっちゃったんだ。いや、俺の迂闊な発言のせいだけど。
みじめ、という単語を辞書で引いたら今の自分が出てくるんじゃないだろうか、そんなことを肩を落としながら髙羽が思っていると、
「──で、君キスしたことないって?」
(後略)
○
【アフターエフェクト】
※付き合ってる二人 / 約7,500字
※最近の髙羽に色々思うところがある羂索のおはなし
最近の髙羽はちょっと調子に乗っていると思う。
他の人間が聞いたら秒でそんなことはない、とこたえが返ってきそうだけど羂索がそうだといったらそうなのだ。世界で誰よりも髙羽を理解している自分がそう断言しているのだからそうに違いないのだ。調子に乗っているという言い方がダメなのなら、羂索の愛情にあぐらをかいている、と言い換えてもいい。とにかく、最近の髙羽に対して羂索は言いたいことがいっぱいあった。
最近の髙羽はよそ見が過ぎる。
羂索以外の誰かに時間を使うことが増え、羂索を二の次、三の次にするのだ。これは由々しき事態である。
付き合いたての頃はまったくこんなことはなかった。羂索が求めれば、いつだって髙羽は羂索のそばにいた。よそ見や、わき見なんてもっての外。髙羽のいちばんは羂索で、羂索のいちばんは髙羽──それが世界の不文律だった。
なのに今はどうだろう。
羂索が呼びかけたというのに、羂索が求めたというのに、髙羽はいま羂索のそばにいないのだ。
まったくもってありえない。髙羽の相方兼恋人となってはや二年。まさかこんな日が来るとは思わなかった。永遠の蜜月が続くと思っていたのに。いやまあ、蜜月はいまだに続いているけれど。スケジュールの合間を見つけては、ベッドの上でぐちゃぐちゃのどろどろになっているけれど。慣れないそぶりでたまにあっちから誘ってくるときの髙羽の可愛さなんて、いまだに言葉が見つからないくらいで、そういった日はぐちゃぐちゃのどろどろという表現すら生ぬるい夜になるのだけれど。話が逸れた。
とにかく、恋愛は惚れたほうが負け、というその言葉の意味を最近の羂索は痛切に感じている。
もちろん、羂索はちゃんと髙羽によそ見はダメだと伝えている。なんで私だけを見ないの、と詰め寄ることもある。
でも何度言ったところで髙羽には響かないのだ。毎回、気づけば髙羽の手のひらの上でよしよし、と転がされていつの間にか有耶無耶にされている。色んな意味であり得ない。色んな意味で由々しき事態になっている。
なんでこんな状況になっているのか。恋人がいるのによそ見なんて絶対に許されないことだ。なのに、髙羽はよそ見をしている。恋人である自分以外の男と過ごしている。なぜだ? どう考えてもおかしい。世間一般的にもこれは許されないことじゃないのか?
もしかして、髙羽は羂索にだったら何をしてもいいとでも思っているんだろうか。なにをしても許されるとでも思っているだろうか。ちょっと他の男にふらふら~っとするくらい羂ちゃんは許してくれるよねー、とでも思っているんだろうか。馬鹿な。そんなことあるか。
いくら髙羽のことを愛しているからって、大切にしているからって羂索だって髙羽のすべてを許すわけではない。
むしろ、愛しているからこそ許せないことだってある。
今回のこれがそうだ。髙羽はすぐ近くにいるのに、その髙羽の隣にいるのは自分ではなく別の男なのだ。恋人を別の男に取られて、どうやって心を穏やかにしていろというのだろう。
やはり考えれば考えるほど今の状況はおかしい。
髙羽の恋人である自分がひとりでぽつんといて、髙羽は楽しそうに他の男のところにいるなんて。
というか、よそ見だわき見だと言葉をオブラートにしていたけれど、やっぱり髙羽が今しているこれは浮気じゃないのか?
むしろこれが浮気じゃなくていったい何が浮気になるのだ。これを羂索が許すと思っているのなら、やっぱり最近の髙羽は調子に乗っているし、羂索の愛情にあぐらをかいていると言わざるを得ない。
出会った頃はこんなじゃなかったのに……、いったい何が髙羽をここまで変えてしまったのだろう。
(後略)
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