2023/11/13 05.テ・オ・レ カル
ハルさんのミルクから作った生クリームと『神の蜜糖』から作った砂糖でキャラメルを作る。ふわふわと上がる甘い香り。もうそれだけでカルとレーノが後ろでそわそわとしている気配を感じる。二人とも武術の達人っぽく気配を消せるはずなんだが、こういうところはなんとなく子供っぽくて可愛らしい。
カラメルを冷やしている間に別のボウルの計量した材料を入れて混ぜ合わせ、粗熱が取れたカラメルをざっくりと混ぜ合わせ、半分に分ける。半分には白が好きな『ルビーベリー』と『ブラックジュエルベリー』をたっぷりと。もう半分はそのままだ。
オーブンに入れてたら今度はアーモンドスライスのフロランタンを作る。汁気が飛んでねっとりしたら火を止める。それを15分ほどたった生地をオーブンから取り出し、ベリーを入れた方の生地の上の全体に乗せ、もう一つは濡れたナイフで真ん中に切り込みを入れる。そしてもう一度、今度は35分ほど焼けば出来上がりだ。
オーブンを開けると、キャラメルの甘い香りとフロランタンの香ばしい香りがキッチンに広がる。いよいよそわそわが頂点に達するが、残念ながら冷ましてから食べるもので、夕飯の……わかった、『時間経過』を掛けよう。
「カル、ミルクティを入れてくれ。この前買った茶葉があるだろ」
「わかりました。ミルクをたっぷりですね」
「あぁ」
ぱぁぁぁぁと、小花の花畑が一斉に開花したかのような笑みを浮かべるカルに思わず目を細めたのはしょうがないと思います! 春の日差しのようないつもの笑みもいいけど、小さい花が乱舞しているような笑顔はそれそれで破壊力がある。
レーノにはカミラとマーリンを呼んできてもらう。
買った茶葉と言うのは、プレイヤーの露店で買った茶葉だ。ミルクティ用にブレンドしたとか言っていたものらしい。濃厚でコクがあり、ミルクを入れて飲むとそれにまろやかな甘みが加わる。
適度に冷ましたパウンドケーキ、ベースにしたカラメルのパウンドケーキと、|フリュイルージュ《赤い果物》のフロランタンを二人には厚め、いや分厚く切り分け、私以外にはそこそこに。甘さの調整に生クリームとジャムも添える。
カルが用意したカップはベリーを入れているのを見ていたか、イチゴの絵柄のあるものだった。これはフォスの街で買ったものだ。カルの淹れる紅茶が美味しいものだから、ついつい気になるカップを見つけると買ってしまう。最近はプレイヤー作のものもいいものが出ている、と言うか、スキルが上がれば感性はそっちの方が合うというかなんというか。
飾るタイプのカップボードとか買ってしまいそうだ。私もレベルを上げねば、際限がなくなりそうで怖い。もう遅いとか言わないように。
「うん、上手くできた」
「美味しいです」
「えぇ、カラメルの甘さにベリーの酸味が混ざって変化があっていいですね。上の、フロランタンでしたっけ? それの食感もアクセントになっていいです。もちろんもう一つの方もどっしりとして食べ応えがある。シンプルですが奥深さを感じますね」
言葉少なく、でも本当にうれしそうに微笑むカルと、種族柄表情が読みにくいのを理解しているか言葉多く語ってくれるレーノ。いや、最近はずいぶんわかるようになりましたが。レーノはそろそろグルメレポーターになれそうだな。
ひとまず一枚はそのまま食べて、それぞれ生クリームやジャムを加える二人。はい、もう二枚目です。
それをいつものこととして視線を向けず、マーリンから今なんの研究をしているのかとか、カミラに迷宮がどこまで行ったのかなどの話を聞く。とある冬の午後の一幕である。
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The au lait フランス語でミルクティのこと。
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