餞別
@JW@KU1「えーー、これ大丈夫か? 聞こえるなら返事してくれ。」
@shi_miyasaka「聞こえてる。」
@Kazunari1995「聞こえる。」
@JW@KU1「悪いな、宮坂。夜中にこんな用事で。」
@shi_miyasaka「くだらなくはないでしょ。部屋の片付けって、人手がないと面倒になっちゃうことくらい分かるわよ。むしろ、昼に手伝えなくてごめんねって感じ。けど、黒須くんまでなんでいるの? 外に買い物に出たとか?」
@JW@KU1「一也のやつは邪魔になってきたから自分の部屋に戻らせた。お前もうちょっと体積減らせ。」
@Kazunari1995「こっちから手伝うって言ったのに悪いな、譲介。」
@shi_miyasaka「なるほどね。和久井君が使ってる部屋、寝て勉強するだけって感じだもんね。」
@JW@KU1「おい、見たのか?」
@shi_miyasaka「見たって言うか、この間、食事の後に読んでた本、置きっぱなしにしてたでしょ。麻上さんから、和久井君の部屋に戻しておいてくれる、って頼まれちゃったのよ。あ、部屋にあった着替え、ちゃんとパーカー上にして畳まれてたから大丈夫よ。見てません。」
@JW@KU1「……麻上さんって割とそういうとこあるよな。」
@Kazunari1995「うーん、……。」
@shi_miyasaka「ところで、和久井君、片付け始めなくていいの? このままだと雑談を喋り倒すだけの会になっちゃうけど。」
@JW@KU1「分ったよ。えーー、まず机の上の本をまとめます。」
@shi_miyasaka「いきなり丁寧語。」
@JW@KU1「突っ込むとこそこかよ。」
@Kazunari1995「譲介、そっちの部屋にある本全部持っていくのか?」
@JW@KU1「いや、K先生や村井さんから貰ったのと、自分で買った本を分ける。全部荷造りしてもいいって朝倉先生には言われたけど、暫くは学生寮だから部屋が狭そうで。電子書籍出てるのはまあそっちかな。僕の使ったのを置いて行って、新しいのを買って持って行く方がいいのか?」
@shi_miyasaka「うーん、逆じゃない? 新しい本を置いていって、自分のメモとかあるのを持って行く方がいいと思うけど。」
@Kazunari1995「オレも宮坂さんに賛成。譲介は自分の使ってた本を持って行くべきだ。先生も村井さんもそう言うさ。」
@JW@KU1「そうだな。じゃあ分けて紐で縛っていくな。お、これ気が付かなかったけど、裏表紙に富永って書いてある。例の先生が置いて行った本か。」
@Kazunari1995「あ、譲介、それ持って行くか?」
@JW@KU1「いや、別にこれはなくてもいい。お前がいるなら部屋に置いておく。」
@shi_miyasaka「そういえば、和久井君よくアメリカ行こうって思い切ったわね。高校の時から英語得意だっけ。」
@JW@KU1「まァあの頃割と授業で寝てたからな……今は勉強中だよ。村井さんから本を貰ったし、インターネットの教材もある。今は時間もあるから、移動中に朝倉先生に英会話の先生になってもらってるし。」
@Kazunari1995「そういえば、毎日朝倉先生に付いて、どういうことをしてるんだ?」
@JW@KU1「財団が関わってる関連施設に挨拶と顔出しがてらって感じであちこち回ってる朝倉先生の後ろについて、ほんとにただ朝倉先生と出歩くだけだ。その間に編入手続きとか書類関係――これも、結局クエイド大学の学費は給付の奨学生って扱いになったから金を使わなくてありがたかったよ――を片付けて、そうだな、今の自分がやってることを理解出来てるとは言えないな。朝倉先生は、外科医と組織運営の維持の二足の草鞋で忙しくしてる、ってことが分かるくらいで。」
@shi_miyasaka「和久井君、秘書見習いみたいなことしてるのね。それにしても、朝倉先生って、なんだか不思議な人よね。私たちは毎日来る患者さんを来た順に診るし、それが私たちのするべき仕事だと思ってるけど、朝倉先生は、仕事の優先順位とかを判断して、自分から動く時を待ってる感じがする。自分の使いどころを見定めてるというか。そういうところ、和久井君とウマが合うかもね。」
@JW@KU1「だといいけどな。」
@Kazunari1995「譲介、不安なら、………いや、うーん、……。」
@shi_miyasaka「あのね、黒須君。和久井君はここでずっと一緒に私たちと、って訳にはいかないでしょ。K先生が言わずにいることを私たちが言っちゃダメじゃない。」
@Kazunari1995「宮坂さん、いや、オレは。」
@shi_miyasaka「親友がこの時節柄、送別会をしなくていいって言ってるからって、送り出す方がそんな弱気でいいと思ってるの?」
@Kazunari1995「え………親友?」
@shi_miyasaka「黒須君……そこでオレたちそうなの、みたいな顔はしないでよ。誰がどう見たってそうでしょ。村の人たちも八割方そう思ってるわよ。『譲介君が渡米したらわしらが泣いてる一也ちゃんのことを励ましてやらにゃあ!』みたいな話、私もう百回くらい聞いてるんだけど。」
@Kazunari1995「オレ、もう二十歳超えてるんだけど。」
@JW@KU1「プハッ、お前ら変わらないな。……まあ一也の心配も分かる。僕が大学に編入して、落第せずに進学出来ての前提で、僕が医者の資格を取るのは三十半ばだからな。気が遠くなる話だよ。……高校の時から医者になるつもりではいたけど、まさか二十年かかるとはなァ。」
@shi_miyasaka「和久井君、今やけに感慨深い声出してるけど、まさか手、止まってないわよね?」
@JW@KU1「……やってるって。この部屋、本が多いんだよ。宮坂が見てないベッド下にも山になって積んである。……っと、ここに来た頃に見てた救急医療の本が出て来た。こういうのって、持って行くか悩むよなァ。必要なところはノートに抜粋してるからいいような気もするし。」
@shi_miyasaka「分かる。医学書ってどれも重いわよね。」
@Kazunari1995「宮坂さんのはオレが半分持つよ!」
@shi_miyasaka「黒須君、あのねえ、そういう気遣いは無用っていつも言ってるでしょ。」
@JW@KU1「……いちゃつくなら僕の聞こえないところでやってくれないか。」
@Kazunari1995「いちゃ、……譲介!」
@shi_miyasaka「和久井君、私思うんだけど、黒須君に廊下に居て貰って本の仕分けが終わった分から手伝ってもらったら? ふわあ。」
@Kazunari1995「え? 宮坂さん?」
@shi_miyasaka「ごめん。眠くなって来た。先に落ちます。」
@JW@KU1「分かった。お疲れ。」
@Kazunari1995「み、宮坂さん、おやすみっ。」
@shi_miyasaka「和久井君、黒須君、今日はお疲れ様。おやすみなさい。」
@JW@KU1「もう十時半か。一也、お前も寝るか?」
@Kazunari1995「いや、譲介に付き合うよ。こっちの接続を切って、そっちに行く。そういえば譲介、本当に送別会しなくていいのか?」
@JW@KU1「送別会か……これが最後の機会になるかもしれない人たちが多いことは分かってはいるんだけど、コロナ前と同じようにはいかないだろ。何かあったら責任をK先生が取ることになるなら、なおさら。」
@Kazunari1995「そうだな。」
@JW@KU1「しんみりするなよ。あっちへの移動はせいぜい一日ちょっとだから、宮坂と一緒に遊びに来ればいい。あと、お前これまだ通話にしておく気か?」
@Kazunari1995「あ、悪い。今行く。そういえば、オレも譲介に渡すものあるんだった。」
@JW@KU1「餞別か。」
@Kazunari1995「いらないならオレが預かっててもいいけど、一応いるか聞いておこうかと。……あ、怒るなよ。夜だし、先生がいないから、物置の箱に仕舞ってたのを出して来たんだ。」
@JW@KU1「お前がそこまで勿体付けるなんて、何かあるのか。」
@Kazunari1995「まあ、そっちの部屋に行ったら話すよ。」
powered by 小説執筆ツール「notes」
319 回読まれています