2023/11/13 06.ラタタン
ラタタン
「あ゛~~~~終わったぁぁぁぁぁぁ」
ガックリと机にうっぷつすドレクスラーの後ろ頭を眺めてヴェルナーはため息をついた。そこにマゼルが「おつかれ」とやってきた。本日は政治学の小テストだ。日々きちんと授業を聞いていれば問題なくクリアできるレベルのものだが、座学は苦手意識がまず来るらしいドレクスラーには鬼門らしい。
二重の意味で「終わった」らしいドレクスラーが振り返る。
「ラスト、わかんなくてラタタンで決めたわ」
「お前なぁ、配点でかいぞ、アレ」
「ラタタン?」
こりゃ補修だな。と、意地の悪い笑みを浮かべるヴェルナーに、うげぇ。と顔をしかめるドレクスラー。そんな二人にマゼルが首をかしげた。
そんなマゼルにヴェルナーがひとまず教室を出よう食堂とに向かって歩き出す……と言うところでヴェルナーが足を止めた。
「あ、そうだ。試験が終わったら食おうと思って実家からケーキ預かってるんだ」
「お、ツェアフェルトの家のは美味いんだよなぁ」
「わぁ」
さすがに食べ盛りの二人だ。ドレクスラーの顔からはすっかりテストのせいでしょぼくれていた表情が消えている。
「そんじゃ俺の部屋に行くか。ドレクスラーは復習だけするぞ」
「うげぇ」
ふざけんな。俺が教えて補修とか許せん。などと軽口をたたくヴェルナーに、ドレクスラーはガクリと肩を落とした。
「で」
「うん?」
ヴェルナーが実家からもらってきたケーキは数種類のナッツがごろごろと入ったパウンドケーキだった。
食べ応えがあるな。と、二人にも好評なようで、ヴェルナーはカップを手に口元に笑みをにじませた。それはまるで若い子にお腹いっぱい食べさせたがる中年のような表情だったが、彼の精神年齢的には仕方がないのかもしれない。
それはそうと、部屋についている使用人に入れてもらった紅茶――なお、ティルラほどではないが彼女も紅茶を淹れるのが上手い――をソーサーに戻し、ヴェルナーはマゼルに視線を向ける。
「さっきはどうした?」
「あ、そうだ。ラタタ、ン? ってなに?」
「あれ、お前は知らないか?」
「王都だけか?」
ごっくんと、口の中を飲み込んだマゼルが尋ねる。その問いに二人は顔を見合わせた後、ドレクスラーが不意に歌い出した。
「Am, stram, gram,Pic et pic et colégram,Bour et bour et ratatam,Am, stram, gram.
Pic!」
「うん? アン……?」
「言葉に意味はないぞ。子供の遊び歌だ」
ドレクスラーが指を振りながらリズムをつけて歌う。それにマゼルが目をぱちくりとした後に首をかしげた。訳が分かってないマゼルにヴェルナーが付け加える。
ヴェルナーの前世でいうところの「どれにしようかな、天の神様に……」と言ったものだ。
「つまり?」
「あてずっぽうで答えたってことだな」
記述式ではなく選択問題だからある意味ラッキー問題なんだがな。と、ヴェルナーの顔が渋い。なるほど、それはそうだ。と、マゼルも忍び笑いを漏らす。
「それは、復習を頑張らないとね」
「そう言うことだ。おら、教科書を出せ」
「ヨロシクオネガイシマス」
ガクリと肩を落としたドレクスラーは、それでもおとなしく教科書とノートを取り出したのだった。
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