Happy Birthday Night どうか、あなたにいい夢を

アイカツスターズ きらあこss。
2019年の花園きららちゃんお誕生日おめでとう小説です。


******************************

 ネオ・ヴィーナスアークの艦内、いつもはエルザサイズなどが行われているこの場所は、今日は綺麗に飾り付けられ、楽しそうな声が溢れている。
 テーブルの上には、フィッシュ・アンド・チップス、ラム肉のローストにハンギ料理、それにフルーツの入ったカフェ風サラダなど、たくさんのニュージーランド料理が所狭しと置かれていた。
 その場にいた一同がハッピーバースデーの歌を歌い終えると、たっぷりのクリームとイチゴを乗せたパブロバケーキに刺さっていたロウソクの火を、一人の少女が吹き消した。
 少女とはもちろんネオ・ヴィーナスアークのトップアイドルにしてフワフワドリームのミューズの1人、花園きららだ。
 彼女を囲むアイドルたちはみんな――ネオ・ヴィーナスアークの者も、四ツ星学園の者も、拍手をしながら口々に「おめでとう」と声をかけた。
 今日は3月30日。きららのお誕生日だ。夕方、船にきららが戻ってくると、一斉にクラッカーが鳴らされ、パーティーが始まったのだった。
「みんな本当にありがとう~!」
 きららは嬉しいサプライズに、いつも以上にご機嫌な様子だ。
 参加者はめいめいに持ち寄ったプレゼントをきららに手渡しては、アイカツモバイルでツーショット写真を撮ったり、アイカツのことを話したりしている。
 ひつじのアップリケのついた可愛いハンカチに、お花の形のバスボム、美味しい木苺のジャムにフォトフレーム。代わる代わる渡されるプレゼントにきららははしゃいで、うっすらと頬を上気させていた。
 そんな様子を早乙女あこは満足げに眺めていた。
 誕生日パーティーにはゆめ達S4をはじめとした、四ツ星学園のアイドル達も招かれているが、あこ自身は〝招かれた〟わけではない。このパーティーの準備にも携わった側だ。
 先週、エルザから一緒にパーティーの企画をしないかと電話があって、二つ返事で引き受けた。
 きららが喜んでくれて、こういうのは準備した側も嬉しくなるものですわね、と素直に思う。自然に喜びが込み上げてくるが、まだパーティーは終わりではない。
「ああ、もう、いけませんわ」
 あこは顔をぺちぺちと叩きながら緩む口元を引き締めるのだった。

 やがてパーティーは参加者の有志による出し物へと移っていく。
 ゆめと小春の息の合ったショートコントに真昼の瓦割チャレンジ、そしてエルザの圧倒的な歌唱パフォーマンスで、会場は最高潮の盛り上がりを見せた。
 そしていよいよ、あこと、そして本日の主役であるきららとのステージだ。
 舞台袖でお互いの顔を見合わせる。
「きらら、ステージがあるなんて予告していませんでしたけれど、大丈夫ですの?」
「あったりまえじゃん!それにあこちゃんとだったら、どんな時でも最高のステージになっちゃうんだから!」
 きららは白い歯を見せながら笑う。あこの方も本気で心配していたわけではない。寧ろきららからの返答があまりに予想通りだったので、可笑しくて、ふふふ、と声を出して笑ってしまった。
「もうっ!あこちゃん、笑ってないで行くよっ!」
「ええ!分かってますわ!」
 差し出されたきららの手を取る。これまで、何度も繋いできたきららの手。自分のそれよりも、少しだけ大きい手のひらと重ね合わせると、いつだって言いようのない安心感が湧いてくる。
 今日だってもちろん――……
「――え?」
 その瞬間、あこは驚いてきららの顔を見た。そしてきららの頭の先から足の先までじぃっと眺めると、顔をこわばらせた。
「どうしたの?あこちゃん。行くよ?」
 あこの様子を不思議に思いながらも、きららはもう一度繋いだ手を引っ張る。しかし、あこはそこから動かなかった。そして反対に、自分の方にきららを引き寄せた。
「今日は、ステージは出来ませんわ」
「えっ!?どうして!?」
 どこか怒ったような顔でそう告げるあこに、きららは困惑してしまう。さっきまで確かに二人ともステージに向かう気満々だったというのに。突然のことに思考が追い付かない。
 だが、あこは有無を言わさないといった様子で、きららをステージから引き離すようにその手を引くのだった。それから、エルザの元に行き、エルザに何事かを耳打ちすると、そのままきららを引っ張って早足で人波をかき分けて歩き、パーティー会場を出て行くのだった。

 あこが向かった先は、きららの自室だった。
 これまで、一緒にドレスの案を練ったり、時々お泊りすることもあったこのきららの部屋。最近はお互いの仕事の都合もあり、あこが部屋に来るのは久しぶりだ。
 でもどうして今?まだパーティーは終わってないのに?後でよくない?
 きららの脳内にはたくさんのハテナマークが浮かんでいっぱいになっていく。
 部屋の扉を閉めると、あこは再びきららの手を引いて、それからベッドにきららを放り投げた。
「ちょっと!あこちゃん、ほんとうになんなの!?きらら達のステージ、やんなきゃなのに!どういうこと!?」
 手足をじたばたとさせて抗議するきららに、あこは大人しくなさい!と一喝した。
「どういうこともなにも、それはこっちのセリフですわよ……」
 あこは暴れるきららの肩をぐっと押さえて体重をかけてくる。そしてその顔がきららの顔に近づいてくる。
――まさかあこちゃん、きららとここでイケナイこと、したいの!?まだパーティーの途中なのに、我慢できなくなっちゃって!?でもそんな、こんな突然、こんなに強引にするなんて……でもあこちゃんになら、きらら、なにされてもいいかも……
 頭の中はぐるぐる回ってなんだか本当に目が回っているみたいに感じる。
 顔がとっても熱くって、心臓はバクバクと音を立てていた。
 いよいよあこの顔が迫ってきて、エメラルドグリーンの瞳に自分の顔が映っているのがハッキリ見えて、そして――……

 コツンとおでことおでこが触れ合った。
「え……?」
「ほらやっぱり、熱がありますわね」
 あこは、はぁ、と深い溜息をつくと、きららから顔を離して胸の前で腕を組んだ。
「え?ええ?」
「ええ?じゃありませんわよ!まったく、自分が一番よく分かってるでしょうに。さっき手を繋いだ時、すぐに分かりましたわ。びっくりするほど熱かったんですもの。いつからですの?」
 その口調にきららはうっ、と言葉に詰まって目を反らす。
 先程イケナイ妄想をしてしまって、顔が熱くなったのは確かだけれど、それ以前に身体中は熱いし身体は重い。それを誰にも悟られないように振舞っていたというのに。
「ほら、白状なさいな!」
 あこの切れ長の目に睨みつけられてはもう言い逃れなんてできない。きららは、言いにくそうにしながらも、その、と切り出した。
「昨日、サマーコレクションのコラボドレスの撮影だったんだ。スタジオ撮影だったんだけど、でもお外はとってもよく晴れてたでしょ?だからもったいないって言って、スタジオからすぐの自然公園に行って……」
「昨日は確かに日差しはありましたけれど、まだ肌寒かったじゃありませんの!そんな中で、自分から言って無理して夏服で撮影をしたっていうんですの!?」
「はい、そうです……」
 きららの弱弱しい返答を聞いて、あこは再び重たい溜息をついた。
「それで熱が出て、今日は帰ってきて早く休もうと思ったのに、パーティーが始まった、それで言い出せなくてずっと我慢していた、そういうことだったんですわね?」
「はい、もう、本当にその通りです……」
 恐る恐るあこの方を見れば、その口調に反してあこはどこか泣き出しそうな、心配そうな表情を湛えていた。そして、きららの熱いおでこに手を置いて、優しく撫でてくれた。
「本当に、馬鹿ですわね。あなたのためのお誕生日ですのに、あなたが我慢してどうするんですの」
「だって、せっかくみんなが用意してくれたのに、パーティーしないなんてメェ~ッだよ。ね、ほんとにステージ、勝手に抜けてきちゃったけど、大丈夫かなぁ?」
「エルザさんに言ってきましたから、後のことは上手くやって下さっていると思いますわ。だからあなたはもう何も心配しないで、今日は寝なさいな」
「うん……」
 囁くように優しく言うあこに、きららはようやく頷いて、ゆっくりと目を閉じた。

 停泊するネオ・ヴィーナスアークの船体に触れる波は、とても穏やかだ。そのゆったりとしたリズムに合わせながら、あこは子守歌代わりに「おねがいメリー」を口ずさんだ。優しいメロディーが、きららを安らかな眠りに導いていく。
 やがて規則正しい寝息が聞こえてくると、あこはやっと安心して微笑んだ。
「本当に、大変な日でしたわね、きらら」
 ピンクと水色の髪をそっと撫でてやる。先程よりも、僅かではあるけれど、熱さが和らいでいるような気がした。
「せめて今日のうちに、もう一度くらい言っておいてあげますわ。お誕生日、おめでとう、ですわ……」
 言って、少し汗ばんでいるその額にキスを落とした。

 どうか彼女が、ふわふわないい夢を見られますように、そう、願いをこめて。

powered by 小説執筆ツール「notes」

138 回読まれています