文舵練習問題④問2 人面魚
人面魚を捕まえた。
水族館に連絡しようかいや役所だろうかとおたおたしていると、人面魚が自分の一番の宝をあげると言った。だから見逃してくれと。私はその提案を飲み、人面魚をどんぶりに入れ、もといた川に流してやった。
人面魚の宝はてっぺんが平たい石だった。適度に重く流れが急でも流されにくく、苔が効率よく生えて寝床にも食事にもいいのだそうだ。
それからしばらくして人面犬を捕まえた。
保健所に連れて行くべきかいや動物園だろうかとあたふたしていると、人面犬が自分の一番の宝をあげると言った。だから見逃してくれと。私はその提案を飲み、人面犬を助手席に乗せ、山奥で離してやった。
人面犬の宝は浅いU字の木の枝だった。他の犬と違ってマズルの深さがないので棒切れをすぐ落としてしまうのだが、これは曲がりの具合が良くていつまでも咥えて歩けるのだということだった。
それからまたしばらくあって、人面人を捕まえた。
人面人には手こずった。まずどこへ連れて行けばいいのか分からなかった。病院? 体は悪くない。警察? 犯罪者ではない。役所? 何をすればいいか分からない者にとっては最悪の場所だ。私はしばらく自宅で人面人の世話をした。
人面人は私に対して非常に無礼で敵対的だった。私の姿を見ると罵り、暴れ、唾を吐きかけた。あなたは私の尊厳を損なっていると私を責めた。それでも私が世話をやめないので、今度は水と食べ物を拒否するようになった。人面人はみるみる痩せ細り、ついに私を見ても暴れもせず、床にぼろきれのように横たわるだけになった。私は人面人にあなたの一番の宝をあげると言いなさいと言った。そうすれば解放されるからと。
「ふざけるな」
人面人は最後の力を振り絞った。その細腕からは想像もつかない力で立ち上がり、私を捕まえ、ばらばらに引き裂いて頭を川に残りを山奥に捨てた。
だから言ったのに。
だから言ったのに。
人面魚が川で、人面犬が山奥で私に囁く。
だから言ったのに。
だから言ったのに。
いや、言ってないだろ。
powered by 小説執筆ツール「arei」
90 回読まれています