2022年2月22日猫の記念 みんなであこにゃん×2プラスきらら

アイカツスターズ きらあこss。
毎年猫の日に配信をやっているあこちゃん。そこに今年はきららちゃんが乱入!?
みなさんも一緒にあこにゃん×2してください


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 日付が変わった頃、ある動画の生配信が始まった。その名も「2022年2月22日猫の記念 みんなであこにゃん×2」である。
 スピーカーとマイクを確認して、一つ咳払いをしてからあこはPCのカメラに向かって笑顔を向けた。
「みなさまこんばんは! 今年も始まりました、わたくしのゲリラ配信、猫の日記念 みんなあこにゃん×2。みなさま今年も楽しんで頂けましたら幸いですわ」
 ウインクして手を振ると、それに応えるようにコメント欄には歓迎と喜びのメッセージが溢れるように流れていく。
「今年は2022年、にゃーおにゃんにゃん年ですわ。そんな年の、にゃん月にゃんにゃん日。スーパー猫の日なんて言われてますわね! とびっきり盛り上げていきますわよ! それではまずはみなさまから届いている猫ちゃんフォトの紹介ですわ」
 画面を切り替えて、事前に届いていた猫写真を紹介していく。飼い主が添えているコメントを読み上げ、分かりますわこのアングルが最高にキュートですものね、なんて共感することもあれば、一体どんなことが起こったらこんな写真が撮れますのよ~と、面白写真にツッコミを入れたりもする。
 いつもながら大変な盛り上がりだった。
 この配信の見ている中には、あこを好いていてくれる人がいるのはもちろんだが、猫が好きで楽しみにしている人もたくさんいる。大好きな猫の話をして、猫が好きな視聴者と交流できる。あこにとっても至福の配信なのだ。実は仕事ではなくて無給の、完全に個人的な趣味で続けている配信でもある。事務所に許可は取ってあるが、すべてあこが一人でプロデュースしている。番組内で必要な情報の整理やお便りの募集、それに参加者申込みや抽選の作業、当選者への配信URLの送付など、流石に一人ではまかないきれないので、心ある猫好きのスタッフに声をかけボランティアで協力してもらってはいるが、それらに責任を負っているのはあこだ。また、番組内で保護猫活動をしている団体への寄附を募ることもしていた。
 それもこれも、猫に対する愛と情熱ゆえであり、そんなあこの姿勢に多くの人が好感を寄せている。
「それでは続いては、最近の猫カフェ事情を――……」
 そう言って次のコーナーに移ろうとしたとき、どこかからメェ~という声がした。まさか。
 振り向くと同時に扉が勢いよく開き、彼女が手を振って現れた。
「はーい、きららだよ~!」
「にゃ――!?!? 入って来ないでって言ったじゃありませんの!!」
「だぁって、配信、毎年楽しそうなんだもん。やっぱりきららも出たいと思って」
「ええっ、そんなこと急に言われましても……」
 突然の事態に目を白黒させるあこ。一体どうすればいいのか、恐る恐る画面の方に視線を戻せば、そこは好意的なコメントで溢れかえっていた。
『きららちゃん!?』
『やばい!! 最高のサプライズ!』
『フワドリが揃って嬉しい~』
『もう死んでもいい……』
『尊すぎか』
 きららもそれに気付いて、えへへ~ありがと~♡とカメラに笑顔を返す。コメントが怒濤の勢いで流れていく。
「ああもう、仕方ありませんわね。今日は特別にみんなであこにゃん×2プラスきららってことにしてさしあげますわ」
「やった~! あのね、きらら実はねこちゃんの帽子を用意してたんだ。ほらあこちゃんもかぶって!」
 お揃いのねこちゃん帽子は、あこの方がパステルグリーンで、きららの方がパープルの色違い。
 大好きな自分の番組に、大好きな子が一緒に出ていて、カメラには見えないようにきららが手を繋いできていて……なんだかそのシチュエーションにどぎまぎしてしまう。いつものアイドルのお仕事ならきららと一緒だったとしても何の問題もなく進行できる。けれど趣味と実益を兼ねたプライベートに近い感覚でやっているこの場所では距離感が狂うのだ。そういえばM4のコンサートにきららがついて来たときもこんな風だったような……。
 それにしたって猫の日生配信は毎年やっている番組だ。なのにこんな些細なことで調子が狂ってしまうのだとしたら情けないことだなと思った。
「あれ? どしたのあこちゃん? 次のコーナーいくんだよね?」
 きららがこちらとモニターの方を交互に覗き込んでいる。ハッとしてあこはブンブンと頭を振って気を取り直した。
「そ、そそそうですわよ……こほん。猫カフェの情報をみなさまに教えてさしあげますわ!」
「はーい、きららがおすすめのところはねぇ、きらきら市の海の近くにあって、この前あこちゃんとデートで行ったところでーす!」
 調子を取り戻そうとした直後にこの爆弾発言である。心臓が飛び出るかと思った。あこは顔が熱くなっていくのを自覚しながら、きららに向かってシャーッと吠えてやる。
「なにを言ってるんですのよーっ! 」
 まったく油断も隙もない。そうなのだ、あこが情けないのではない。きららが想像も付かないことをしてくるから、そのせいなのだから。ふぅとため息をついた。
「だって、ほんとのことでしょ?」
「……まぁそにょ、確かにこちらの猫カフェさんにはきららと一緒にお邪魔いたしまして。本当に居心地がいいところでしたから、みなさんにもぜひ行って頂きたいですわ」
「うんうん。ねこちゃんがみんな可愛かったなぁ。特に三毛猫のミィちゃん」
「ええ。ミィちゃんはとっても人に慣れていてすぐに後ろに付いてくるのが可愛らしかったですわね」
 具体的な猫の名前が出たので、記憶が一気に鮮明になった。ミィちゃんはあの猫カフェの看板やHPに写真がたくさん使われている看板猫的存在だった。自然とあこの顔はほくほくと上気する。
「お店の入り口にも大きなミィちゃんの写真がありますからぜひ目印にしてくださいな」
「あとはね、印象に残ってるのは黒猫のリンちゃん。警戒心が強かったけどあこちゃんがすぐに手なずけちゃってビックリしたなぁ。あこちゃんすごすぎだよ~!」
 猫のことで褒められるといつもよりも何倍も嬉しい。あこは顔を斜め上にあげ、得意そうに胸を張った。
「まぁわたくしの手にかかれば造作もなかったですわ。リンちゃんはおもちゃのぬいぐるみがお気に入りと聞きましたから、それを持って優しく迎えてあげましたの。金色の瞳がとってもきれいな子でしたわね」
 隣のきららもそのときのことを思い出したのかうんうん、と深くうなずいた。ようやく落ち着いて番組を続けられそうだ。あこは画面の向こうには悟られないように小さくほっと息をついた。
 と思ったのに、きららの腕があこの肩に回ってきた。それで体を引き寄せられて、肩と肩が触れあって、呼吸がほんのすぐ側に感じられるほど密着してしまう。驚きとときめきの鼓動があこの体を駆け抜けていった。
「にゃにゃにゃ!? きららちょっと……っ!?!?」
「でも一番可愛いのはあこちゃんだけどね! きららのねこちゃん、みんなとらないでね♡」
「にゃ!?!?!? あなたなに言ってるんですの~~!! シャ――――ッ!!!!」
 そんなこんなでそのあともにゃんにゃんしたりメェメェしたりして、配信は大好評に終わった。一部のオタクが心配停止したらしいなど様々な噂が飛び交ったが詳細は不明である。
 この年以降はあこ一人の配信に戻ってしまったため、ファンの間では伝説の年として語り継がれているという。

 何はともあれ、みなさんもどうか素敵な猫の日をお過ごしくださいね。せーの、みんな一緒に……あこにゃん×2!!

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