Happy Birthday♡ Please be my first star!

アイカツスターズ きらあこss。
あこちゃんのお誕生日2022ss
「あこちゃんのお誕生日、二人でお祝いしたいな~」ってきららちゃんに言われて、「し、仕方ありませんわね。そこまで言うなら、一緒に過ごしてあげてもよろしいですけれど」と答えたあこちゃんだけど、そう上手くはいかなくて……?
きらあこ中3まだ付き合う前時空。

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「あこちゃんのお誕生日、二人でお祝いしたいな~」
 ちょうど二週間前、隣の彼女が唐突にそう言ったので、あこの心臓は飛び跳ねた。
 もうすぐお誕生日だねって、お仕事やレッスンで会った誰かからそう言われるたび、いつも浮かんでしまうのは彼女の顔だったからだ。もちろん、あこだってできればきららと一緒に過ごしたい。だから9月25日当日はしっかりオフが取れるように抜かりなく準備してある。それでも、自分の方からそのことをきららに言うのは、とてもではないが恥ずかしすぎて、どう伝えようか思い悩んでいたところだったのだ。
「し、仕方ありませんわね。そこまで言うなら、一緒に過ごしてあげてもよろしいですけれど」
 きららから誘ってくれて、喜びではち切れそうなのを悟られないように、あこはできるだけいつも通りに、胸を張って顎をクイと上げてそう言った。そのままの姿勢でちらりと片目を動かしてきららの方を窺がってみると、ぱあっとはじけるように笑っているのが見えた。
「やった~! あこちゃんのお誕生日~! 素敵なバースデーにしちゃうよ! プレゼントも、とってもきらきらで最高に可愛いやつ用意しちゃうね」
 ぎゅっと首元に抱き着きながら言われて、あこはにゃっ! と声を上げる。嬉しいのとドキドキするのとで、顔が上気しているのが自分でもわかる。
「ま、まったく、仕方ありませんわね。まぁ期待しないで待っててあげますわ?」
「うんうん! 楽しみにしててね♡」
 耳元でとろけるように甘い声でそう言われて、どうしたらいいのか分からなくなって困った。そんなにくっつかないでと言っているじゃありませんの、と言う声も蚊の鳴くようなか細さになってしまう。誕生日、きららと一緒に過ごして、素敵なプレゼントをもらって、そうしたら自分たちは一体どうなるんだろう……?
 きららとあこはフワフワドリームのWミューズで、何度も一緒にステージに立ち、一緒にアイカツをしてたくさんの時間を過ごしてきたパートナーだ。でも今以上のなにかになったら、自分は、きららはどんな風になってしまうのだろうか。それがちょっぴり怖いような、楽しみなような気もして、その後きららと別れた後もしばらく胸の鼓動がおさまらなかった。

 しかし物事はそう何でも思い通りにはいかないものである。
 なんと突然VAのライブツアーの追加公演が決まった。それも場所は海外、日にちは9月26日だ。それに合わせて、VAの学園艦はライブの二日前の夕方には日本を出発しなければならなくなってしまった。つまりあこの誕生日である25日、VA艦は海の上ということになる。
 VAのツアーは所属アイドル全員にステージが用意されているため、あらゆる仕事を優先して参加することが求められる。VAきってのトップアイドルの一人、きららはもちろん絶対参加だとエルザから言い渡されていた。

 潮騒と海鳥の声があたりいっぱいに響いていた。9月24日、午後6時。きららとあこはVAの船体が夕日に包まれるのを視界の端に収めながら向かい合っていた。
「あこちゃん、ごめんね。お誕生日は明日なのに、それなのに」
「いいんですのよ。ライブはとっても大事ですわ。最近VAは日本にいることが多かったですもの。海外のファンは早くあなたたちに会いたくてたまらないはずですわ。その思いにちゃんと応えませんと」
「でも、でも……」
 きららがしょんぼりと俯いたので、あこは大げさなくらいにため息をついてやる。それから目の前の水色とピンクの髪の生え際を優しく撫でた。
「まったくしょうがないですわね、あなたは。それなら、また帰ってきてからお祝いしてくださる?」
 優しく微笑んで言うと、きららは丸い瞳にじんわり涙を滲ませながら、強く頷いた。初秋の夕日は痛いくらいに赤くて、きららの顎の輪郭を余すところなく照らしている。頬にくるんとした睫毛の影が落ちて、きれいだなと思った。
 すると突然きららハッとして、後ろを向いてしゃがみこんだ。何かと思えば足元に置いてあった彼女のバッグをごそごそと探っている。ややあって振り向いたきららの手にはリボンのかかった箱があった。
「これこれ。せめてこれだけでも渡しとこうと思ったんだった。あこちゃんへの誕生日プレゼント! お誕生日の日になったら開けてね」
 手渡されたのはマカロン柄の包装紙に包まれた小箱だった。パステルパープルのくるくるカールしたリボンがついていて、彼女らしくてとってもかわいい。
「きらら……ありがとうございますわ。とっても嬉しいですわ」
 そう言って、あこは思いつく限り一番の笑顔になってみせる。それこそが、目の前で泣き出しそうなきららをちゃんと送り出せる唯一の方法だと知っていた。きららはまだ浮かない顔をしていたけれど、あこの笑顔を見てほっとしたのか、口角を上げてようやくいつもの調子を取り戻せたようで、足元のカバンを元気よく手に取った。船の汽笛が鳴る。出航の合図だった。
「じゃあ、行くね」
「ええ。気を付けて」
 きららは乗船口に向けて歩き出す。一度あこの方を振り返って名残惜しそうに立ち止まってしまったので、最高のステージにしないと許しませんわよ! と叫んで大きく手を振った。
 気づけば夕日はもう半分まで水平線に浸かって淡く滲んでいる。秋のひんやりした潮風を頬に受けながら、きららが乗った船がゆっくり港を出るのを、あこはじっと見つめていた。


 四ツ星学園の寮の自室、劇組S4の部屋まで戻ってくる頃には辺りはすっかり暗くなっていた。部屋に入るなり早足で奥まで進んで、ベッドに思いっきり倒れこむ。口から漏れ出たため息はふわふわのまくらの中に吸い込まれていった。
 きららの前では気丈に振舞っていたけれど、あこだって平気なわけじゃない。
 きららと出会って、1年と半年になる。Wミューズになってから初めてのあこのお誕生日。苦労の甲斐あって明日を完全オフにできたし、この間買った秋服を下ろして、髪を可愛くアレンジして、一番好きな自分で最高の日をきららと過ごすのだと思っていたのに。
 VAの船が戻ってきたら、お誕生日のやり直しはできる。それは頭ではわかっていても、限界まで膨らんでいた風船が急に割れてぐちゃぐちゃにしぼんでしまったみたいに、悲しい気持ちはどうしようもなくて、なかなかすぐに切り替えられるものではなかった。
 ふわふわの枕がじんわりと熱く湿っていく。外から聞こえる秋の虫の声の中に、ずずっと洟をすする音が混じった。ほかには何の物音もしない。それが余計に悲しくて情けなくて、更に涙が溢れてきて困った。


 どのくらい時間が経ったのだろうか。やがてあこは起き上がって、キッチンで水を飲んだ。見れば壁の時計はもうすぐ23時をさすところだ。あと少しで今日が終わってしまう。ハッとして、まだじっとりと濡れてしまっていた頬を慌ててぬぐった。
『お誕生日の日になったら開けてね』
 そう言って渡してくれたマカロン柄の箱のことを思い出したのだ。きららとの約束。日付が変わったら一番に開けなければ。せっかくきららが用意してくれたプレゼントの開封なのだ。こんな泣き濡れた顔ではいけなかった。
 すぐに湯船にお湯を張って、熱いシャワーを浴びる。真っ白い泡できれいに体を洗って、温かいお湯にじっくり浸かってリラックス。いい香りのするシアバターでボディケアをして、お気に入りのフワフワドリームの秋冬用のパジャマを着て、髪は丁寧にブローして。寝仕度が整う頃にはすっかりいつものあこに戻っていた。


 身も心も晴れやかな状態でベッドに腰を下ろした。お肌もお手入れしたのでつやつやだ。誕生日を迎えるに相応しいといえるだろう。
 ふとキラキラッターの通知を確認すれば、アイドルニュースのトップにVAの明日からのツアーの情報があった。エルザとレイとアリアと、それからきららが自信たっぷりの様子でポーズを決めている。愛しい気持ちが込み上げてきて、撫でるみたいに液晶の画面上をゆっくりなぞった。
 そうしていると、キラキラフォンの時計表示が23:59から0:00に切り替わった。
 9月25日になったのだ。あこは枕元に置いたままだった箱を手に取った。リボンをほどいて綺麗な包装紙を外し、ごくりと唾を飲み込んでから箱のフタをゆっくり開ける。中には薄くて柔らかい素材のラッピング紙にくるまれたものが入っていた。手に取ってみるとふわっと軽い。そのラッピング紙を開いていよいよ中の物を顕にしたところで、あこはおや? と首を傾げた。
 フワフワメリーがころんと出てきたからだ。白くてふわふわで、水色とピンクをした巻きヅノと、くるんとカールした睫毛が刺繍されていて、きららみたいで可愛い。言わずと知れたフワフワドリームのマスコットキャラクターだ。あこはそれに限りなく近くまで顔を近づけてみて、今度は遠く離してみる。大きさ的にもデザイン的にも最近ブランドから発売したばかりのチャーム付きぬいぐるみに違いなかった。
 あこはむむっと眉間の皺を深くして口元に拳を当てる。誕生日プレゼントとしては妙だと思った。なぜならこのぬいぐるみ、先月おこなった発売記念の配信の時に、あこときららはそれぞれ一つずつスタッフからプレゼントされていたからだ。その時もらったフワフワメリーが、ちょうどベッドとは反対側のドレッサー横のキャスケットの上に今も乗っている。
 確かきららは言っていたはずだ。とってもきらきらで最高に可愛いやつをプレゼントすると。その言葉と目の前のぬいぐるみがいまいち繋がらない。最高に可愛いことは可愛いが、とってもきらきらと言われると違うように思えるし、既に持っているものをプレゼントするというのも奇妙だ。
 もしかするとこれは仮のプレゼントなのかもしれない。突然の海外ライブで準備も色々あっただろうし、あこへのプレゼントまで手が回らず、ひとまず手元のぬいぐるみを渡して、本当のプレゼントは今度会った時に渡してくれるのでは? いやいや、いつも全力で物事にあたるきららがそんな中途半端なことをするだろうか? 
 脳内コンピューターをカタカタ言わせてみるけれど、なかなかピンとくる答えは出てこない。あこはそのままベッドに仰向けに倒れこんでふーっと大きく息を吐いた。ぬいぐるみをおでこにあててみるとふわふわで気持ちがいい。きららの真意は分からないがとりあえずありがたくもらっておくことにしよう。
「それにしてもフワフワメリーはやっぱりふわふわですわね……」
 どこもかしこもふわふわで、なんとなくきららみたいな甘い香りもするような気がして、頬で感触を味わいながらくんくんと匂いを嗅いでみる。
「……え?」
 一瞬少しだけ硬くて冷たい感触があって、あこは驚いてガバっと上体を起こした。改めてメリーをじっと見てみる。巻きヅノや睫毛など、刺繍になっている部分もふわふわ部分よりは少し硬いが、その硬さとは質が違う感触が確かにあった。
 そうだ、メリーの頬の片側の下のあたり。星の模様の刺繍が入っている部分、そこに『何か』があった。あこは浅く切り込みが入った星のとんがりの一番上のところをゆっくりと指で探り、それを取り出した。
 あこの手の中できらりと輝いたのは、星の形のペンダント。部屋の明かりを反射して黄金色にきらめいている。それと一緒に、折りたたまれた小さな便箋も出てきた。キラキラのラメ入りペンでこんなメッセージが書きつけてある。

『Happy Birthday♡ Please be my first star!』

 あこはひゅっと息をのみ、それからエメラルドの瞳を大きく見開いて、唇を噛む。胸の奥が熱く震えている。これこそが間違いなくきららからの誕生日プレゼントだ。彼女の言葉通り、とってもきらきらで最高に可愛いやつだ。便箋に刻まれた文字をもう一度じっくり見る。
――お誕生日おめでとう♡ きららの一番星でいてね!
 日本語にすればそんなところだろうか。あこの切れ長の瞳を縁取る長い睫毛に、またじんわりと涙が滲んでくる。でもこれはさっきみたいに悲しい涙じゃなかった。嬉しくて嬉しくてたまらない時のそれだった。ぎゅっと胸元で金色の星を握る。
「わたくしにとっての一番星も、あなたですのよ」
囁くように言ってから、きらめいている星のとんがりの一番上に、優しく唇で触れてみた。

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