19. 抹茶黒豆玄米茶 風鈴(たたうら)
※再録集に収録
――そうだ。黒豆だ。
書類仕事中。不意に天啓を受けたように思いついた。わけではなく、ちょうど捌いていたのがツェアブルクの農作物関係の書類だったのだ。アーレア村の村長と、代官の歪んだ関係をきっかけにうちの領でも似たようなことがないかと調査中だ。
もちろん、実際に調査したり精査しているのは俺じゃないんだが、言い出しっぺの責として挙げられた調査結果に目を通しているところだった。
そこで、思い出したのが黒豆茶だ。ついでにそば茶もあったな。ってことを思い出す。この国では主食は小麦だが、蕎麦も作っている。作物としての蕎麦は荒地や寒冷な地でも育つことができるため、水はけが悪い土地なんかで作っている。使用用途は主に粥とか粉にして水に溶いて薄く焼いたりしてクレープみたいに巻いたりしたりして食べているようだ。ちなみにソバはない。そもそも麺パスタもないしな。しかしフォークはある謎。
とまぁ、ともかく蕎麦の実はあるわけだ。
そして思い出したのが、黒豆も蕎麦もお茶があったな。ということだ。俺が知っているのは上司が一時期健康にいいとかで飲んでいたからだ。何の健康にいいかは知らん。多分、俺自身はまだそこまで気を使う必要がない年齢だったんだろう。うん。さっぱり記憶にないが。
ちなみにソバの作り方も知らん。定年退職した取引先のお偉いさんに招待された時に、最近は待ったとかいう自作ソバをご馳走になったが、うん、まぁ。なんで年をとるとソバ打ちに目覚めるんだろうな? ともかくそんな感じなので作り方はわからん。
そんなわけで、とても曖昧な俺の記憶で申し訳ないが、多分焙煎すればいいんじゃないかなぁ。ということで、俺の私財で購入した黒豆と蕎麦の実を厨房に渡し、試してもらうことにしたわけだ。毎度丸投げしてすまん。
「それで、出来たのがこれですか?」
「あぁ」
しげしげと、香ばしい香りを立てるカップの中身をリリーが見つめる。そもそも薬草茶もあるから、紅茶の茶葉以外からお茶を作るというのはそこまで目地らしいことじゃない。ただ、身を焙煎させて。というのは珍しがられたかな。魔法学の教授の薬草茶、あれどうやって作ってるんだろうか。刻んで搾って……?
「飲んでみてほしい。大丈夫そうなら、多めに作ろうかって話が出てるんだ」
何せ紅茶よりも単価が安い。特に蕎麦の実。あと、黒豆はうちでも多く作っているので加工先が増えるのはありがたいそうだ。ただ、蕎麦の方はアレルギーが怖いので、基本は黒豆茶を優先してもらっている。確認したら蕎麦の産地でもちょくちょく聞く話ではあるらしい。
「はい。……香ばしいですね。それに苦くないというか……ほのかに甘いです」
リリーの反応は良さそうだ。あとはフレンセンやノルベルトにも確認して……。まぁ一般受けしなくても俺が飲めればいいしな。
あーカフェインではないけど、これはこれでいいよな。
後日、文官たちから目の疲れが取れたとか、メイドからむくみが取れたとか、夜の冷えが少しマシになったという話が聞かれることになるんだが、それはまた別の話だ。
ついでに王宮の俺の執務室に黒豆茶が常備されることになったのは、もっと別の話だ。
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