我妻・惇③
我妻 惇
もう殺さないって言ったら、いきなり怒鳴られて縛られて殴られて色々言われた。よく分からなかったけど、俺が我妻だって分かったから世話してたし、使ってたらしい。そういうもんだってことらしい。
きっと、昔からそうだったってことなんだろう。俺が殺さないとって思って殺してたのは、俺が殺さなくたって良い奴らだったんだ。それなら勝手にやっててくれれば良かったのにな。
不意に笑ったら連中ビビってた。ガキ一人に可笑しくてまた笑ってやったら、怒鳴りながら殴ってきた。手も足も出ねぇから噛みつこうとしたら大げさに退がって、悲鳴まで上げやがる。空振った歯が鳴る音が面白くて、音が鳴るたびに反応する連中が面白くて、何度かカチカチ鳴らしてやった。
◆
こいつらは俺を殺さない。俺のやり方は他より巧いらしいから。金になるのに捨てれるほど、こいつらは気前の良い奴らじゃない。こいつらは俺を殺せない。それほど肝も据わってない。だから俺を使ったんだ。
知ってりゃ、分かってりゃ、こういうことも考えられるもんだ。だからこいつらも、あいつらも、俺たちに知恵をつけさせなかったんだ。
俺が知らないこと、知りたいことは、どうやら知らなきゃいけないことらしい。そしてきっと、ここにいたら知れないことだ。それならここを出るしかない。
怒鳴る言葉を分かった振りして、おとなしく従う振りをして、縄を解かせて一晩寝てから、次の仕事をすっぽかしてばっくれた。
さて、これからどうしようか。そういえば、まともな生き方は教えてもらってなかったな。
◆
道でゴミ拾ってるガキに、これやったら金もらえるか聞いたら泣いて逃げられた。何人か聞いてたら他のやつ呼ばれた。多分殺しちゃいけないやつだから、様子見てたらビビりながら怒られた。
そんで話して、どっか連れていかれて、また別のやつが話しかけてきた。何がやりたいって聞かれたから、飯が食いたいって答えたら鼻で笑われた。よくよく聞いてみたら、仕事を紹介してくれる所だった。知らねえよ。分かるかよ。
色々聞かれて色々答えて、言われた通りにやってみたら、俺にもできることは意外とあった。ゴミ拾いとか届けもんとか、用心棒とか仇討ちとか、殺す以外にも……殺すのも含めて、色々。できなかった色々で、できるようになったこともある。それでもまだ、できないこと、わからないことも、ある。
◆
あいつは、最後になんて言いかけたんだろう。殺さなかったら聞けたことなんだろうか。殺さないと終わらなかったんだろうか。あの時、今くらい俺がものを知ってれば。
この武器は、槍で、わざものらしい。せんまいどおしとも言われた。どれだって言ったら知るかって小突かれた。どれだよ。
この武器のことが分かって、あれくらい使いこなせるようになったら、言いかけたことも分かるようになるだろうか。それか死ぬときには、同じ気持ちになるだろうか。
どっちにしても俺がやりたいことは、これを振り回して暴れ回ることらしい。
分かるまで。それか死ぬまで。それまでにあの言葉を忘れないようにしておこう。
……なんだ、結局殺さないといけねぇんじゃねぇか。それなら一番得意なことだ。
powered by 小説執筆ツール「notes」
43 回読まれています