2023/10/27 おつまみ四品
「実家からワインぱちってきたから飲みに来ないか」
ヴェルナーがそう言ってドレクスラーとマゼルを誘ったので、二人はヴェルナーが暮らしているマンションの一室を訪れることにした。ヴェルナーは勝手に持ってきたかのように言っているが、おそらく先日の写真モデルの件で実家に呼び出された際、兄に持たされたのだろう。
マゼルの親友は、時々偽悪的にふるまうことがあるのだ。
「赤か? 白か?」
「どっちもある」
問いに対するヴェルナーの端的な答えにドレクスラーは短く口笛を吹いた。
🍷
「もうちっと、何か摘まみたいな」
「うーん、なにかあったかなぁ」
すでに酒盛りが始まって二時間。初めに用意したものはすっかり空になっていた。ワインもだいぶ笠を減らしている。三人ともがそこそこ酒に強いようで、酔ったというほどでもない。それでもどこかふわふわとする思考のままに、マゼルはヴェルナーの望みをかなえるべくキッチンへと向かった。
正直な話、本来の住人であるヴェルナーよりもマゼルの方がここの場所を熟知していると言っていい。
「刃物はあまり使うなよ」
「ん~~」
ドレクスラーの気遣いの言葉に返事を返す。彼が動かないのはマゼルの任せれば問題ないということもあるが、単純に狭さの問題がある。高級の部類に入るヴェルナーの部屋だが、それでも単身者用なのでキッチンの広さはそれなりだ。マゼルとドレクスラー、ともにそれなりに恵まれた体格の男性が二人が入るには狭い。
「えーと、クリームチーズの残りと、あ、ドライフルーツ出し忘れた」
「ん~それだけでもいいぞ~」
がさがさとビニールをあさっていたらしいマゼルの声が聞こえたらしい。酔っ払いは得てして声が大きくなるものだ。その声に、ヴェルナーがそう言ってきた。それでもいいが、と思いながらマゼルは冷蔵庫の中身をさらにあさる。ベーコンと溶けるチーズ、それにちりめんじゃこに桜エビがあった。
「ヴェルナー、ちりめんじゃこと桜エビ使っていい?」
「いいぞ~たしかそれ、フレンセンが持ってきたやつ~」
妙に高級そうなパッケージに一応確認すると、ふわっふわしているがオッケーが返ってきた。どうやらあまり自炊をしない次男のために、実家がよこして来たもののようだ。なお、冷凍庫を見るとこれまた一食分ずつに冷凍された白米が見えた。減った形跡があったので良しとしよう。と、マゼルは酔った頭で判断する。
「ドレクスラー、ピーナッツ残ってたらちょっと持ってきて」
「おー」
たしか乾き物はもうちょっと残ってたはず。と言ってそう言うと、ドレクスラーがのっそりと器を持ってきた。ついでにミネラルウォーターを二本冷蔵庫から持って帰っていった。
それを見送ることなくマゼルは手早くつまみを四つ作ると、部屋に戻っていく。
「はい、干しアンズのクリームチーズのせ、プレーンのベーコン巻き、じゃこナッツに、カリカリチーズの桜エビのせ」
「おぉぉ」
「お前、いい旦那になれるぞ」
「僕ここで、酒のつまみしか作ってない気がする」
「あと朝食な」
「いつも助かってます」
ハハハー。と、わざとらしく拝むヴェルナーとドレクスラーにマゼルは苦笑いをした。賄い付きだからと選んだバイト先なのだが、まさかこのようなところで役に立つとは思わなかったのである。
「プルーンとベーコンがいける」
「アンズとチーズの安定のうまさ」
「じゃこ、一味か? ピリッとしてていいな」
「「そしてチーズ、説明不要」」
ドレクスラーとヴェルナーの言葉にマゼルははじけるように笑う。気の合う友人たちの酒盛りはまだ少し続くようだ。
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