白布に誓う
日が傾きかけている。
バランは森で動物や魔物を仕留め、村に時折売りに出る。
幸い今回は大きめの魔物の毛皮が手に入ったので、少しまとまった金が入った。
不思議なものだ。人間の生活というものは。
転移呪文で入った森の木々を抜ける。
人間ならまず迷ってしまいそうな道なき道だが、バランには我が家の位置がはっきりとわかっていた。
結界でも張れればよかったのだが。
生憎戦いしか知らぬ身には、代々引き継がれた記憶にもそんな物は存在していなかった。
天界の精霊たちにでも、聞いておけば良かったか。
小さくため息をつき、歩みを進める。
ひっそりと息を潜めるように森の中に立てられた小屋が、バランを待っていた。
「ソアラ」
妻を呼ぶ。
裏に張られたロープから、シーツを外したところだった。
「動いて大丈夫なのか」
妻は身重だ。大分腹も目立ってきた。
「大丈夫よ。無理はしてないわ」
「少し金が入った。子供に必要なものが買える。何が必要だ」
「そうね……」
思案しながらソアラは手元のシーツを見た。
肌着はほとんど縫ってしまった。
おくるみもじきに編み終わる。
おむつは……まだ何枚かシーツがあるからこっちから仕立てるとして……
「ソアラ?」
腹の子が、小さく動いた。
ふわりとシーツをかぶる。
――大丈夫よ。問題ない。
ソアラはシーツの影の下で僅かに唇を引き結んだが、すぐバランに顔を見せて笑った。
「ねえ、誓いの口づけをしましょう。結婚式よ」
「結婚式?」
「そう。花嫁がこうして、ヴェールを被っているから、誓うのよ。」
――健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、愛し、敬い、共に歩む事を誓います。
「誓う……?」
一体、誰に誓うというのか。
神に?なぜ?
いや、これはソアラの遊びだ。
花冠を編むような、小さな遊び。
「いや、誓おう」
「そうしたら、ヴェールを上げて、口づけして」
「ああ」
言われたとおり、シーツを捲れば愛しい女が目を閉じて待っている。
バランは目を閉じ、そっと唇を重ねた。
……ごめんなさい。
反対にソアラは目を開き、きっと言われたとおり愛を誓っているのだろうバランを見た。
――神様、お願いです。この人を連れていったのは私です。どうか、この人をお責めになりませんように。
ソアラもまた、目を閉じた。
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