照れ屋なきみの誘い方/月山月(2024.5.14)

「ツッキー、手繋いでいい?」
 冬限定、月島家のリビングに設置されたこたつ。四つある辺のうち、あえてとなりの辺に足を入れて、膝やふとももがぶつかることにお互い何も言わない。二月の末はいまだ寒く、ぽかぽかの暖房器具が手放せない、自室に籠るよりは快適なここに腰を据えていた。
 春高を終えて、二学期に赤点を取ったメンバーのため、部活は早めに切り上げられるようになった。日向と影山が教えて欲しそうにこちらを見るのを谷地に押し付けて月島がさっさか歩くので、山口もそれを追いかけてお宅にお邪魔してしまった。買い物にでも出ているのか、月島宅には今誰もいないらしい。
 右手でシャーペンを握って、テキストに視線を落としたまま。山口の左に座る月島は、今は休憩と称して携帯を眺めている。提出を命じられた問題集を片付けてしまったらしく、退屈そうなあくび。
「いいよ」
 教科書が閉じてこないように押さえた左手でぺらりと次のページをめくる。
「そーだよねー」
 つたない、部活優先の恋人関係だし、月島はあまり表立った接触を好まない。そもそも、これまで時間を共に過ごしすぎたし、幼い頃から一緒に居すぎたせいか、ふたりきりの空間でも特別感が出ることは少ない。山口は何度も誘いを掛けてはすげなく断られることを繰り返していた。……ん?
「……? 繋がないの」
 右手ですいすいと操作していたはずの端末は左に持ち替えられ、そっと天板の上に乗せられているてのひら。身長の分、山口よりもおおきなそれ。「いいよ」、って? 言ったのか。……え?
「つ、つなぐ!」
「うるさいやまぐち」
「ゴメン‼︎」
 ぱっと離したせいでぱたむと教科書が表紙を見せる。それに構うこともできないまま、無防備に差し出された指をきゅっと握った。こたつのおかげであたたかい体温はすぐに馴染んで、あの月島が許してくれているのだ、と思えばもう、それだけで。
 こっそり息を呑む、どうしたって指先に気持ちが向いてしまう。ど、ど、と高鳴る心臓がそこから流れ出してしまうんじゃないかというくらい、触れ合う肌に自分の意識が集中する。顔、赤い、かも。月島がふっと笑う気配がして、山口は目を逸らした。
「自分で言ったんデショ」
「う、そうだけど……ツッキー、意地悪」
 くちびるをとがらせてみせるが、おもしろがっているだろうなというのは勘でわかる。だてに幼馴染みをやっていないので。案の定、反省するふうもなく月島はしらを切る。
「僕は悪くない」
「え〜……」
 うっすら瞼をあげて伺いみる月島は、予想していたよりもずいぶんやわらかい表情で。うれしそう、かも、そう思った次の瞬間にはまた一段階、頬に血が昇ったような気がした。どうしよう、課題が進む気がしない。

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