第1話の裏話_“神話”を書くにあたって

 読者の方は、私に(というかこの作品に)引用やオマージュをかなり使用する傾向があることに気づいているのではないかと思います。第4話のあとがきでも一部元ネタを紹介しましたし。第1話でも、エジプト神話の概要だったりエピソードだったりを引っ張ってきています。そういう「ネタ」の水準の神話モチーフが見落とされることは比較的少ないと思うのですが、もっと大きな枠組み、つまり「第1話の話全体」が神話的な語られ方をするよう意図されていることに気づけた方は、あまりいないのではないか(私が単に失敗しているだけかもしれませんが)と思っています。案外、大枠より細部の方が目に入りやすいものですし。ですが、せっかくなら目に見えやすい水準ではない、抽象的なところまで「神話」の要素を詰めてみようと思ったんですね。ちなみに、以前アンケートで「オシリスのユメを読む動機」を尋ねたところ、かなり多くの方が「神話要素」を選んでいました。この神話的な枠組みに気づいてもらえたのか、実は結構気になっていたりします。

 今回はその裏話を、肩の力を抜いて綴っていきます。

 さて、結論から言うと、第1話の話全体の構造は、ジョセフ・キャンベル『千の顔をもつ英雄』の「出立」の章を踏襲する形で書かれています。なんのこっちゃ、と思う方もいらっしゃるでしょうが、この本はスター・ウォーズの初期3部作の“元ネタ”でもあります。スター・ウォーズと対応させながら、どうスター・ウォーズ(そしてその元ネタ)を翻案したのか、という切り口で説明するとわかりやすくなると思うので、このやり方で今回は説明してみようと思います。流石に昔の映画なので大丈夫だとは思うのですが、スター・ウォーズ(特にエピソード4)のネタバレを以下含みます。気にする方はご注意を!







 さて、そもそも『千の顔をもつ英雄』とは、神話学者ジョセフ・キャンベルがまとめた「英雄物語/神話の共通パターン」です。ざっくり言うと、古今東西の神話に通底する“旅の骨組み”を抽出して、「こういう順番で出来事が起こりがちだよね」という道筋を示した本です。繰り返しになりますが、このパターンを下敷きに作られた代表例としてしばしば挙がるのが『スター・ウォーズ』初期三部作です。ジョージ・ルーカスが意識的に参照したことで有名です。

 この「英雄の旅」は大きく三幕に分かれます。

①出立:日常から非日常へ踏み出す
②イニシエーション:試練を通じて変化する
③帰還:得たものを持ち帰る

 第1話で扱うのは最初のブロック、出立です。「出立」は①日常生活、②冒険への召命、③召命拒否、④超自然的援助、⑤第一関門の通貨、⑥鯨の胎内、の6つの要素からなり、これらの構成要素を『スター・ウォーズ』に当てはめると以下の様になります。

日常世界:砂漠の農場で暮らすルーク
冒険への召命:レイアのホログラムを見つけ、外の世界へ誘われる
召命拒否:伯父伯母が反対し、ルークも即決できない
超自然的援助:オビ=ワンが“フォース”とライトセーバーを授ける
第一関門の通過:モス・アイズリーから宇宙へ飛び出す
鯨の胎内:デス・スターに捕獲され、ゴミ圧縮室で死と再生の象徴的体験をくぐる
(※ここが「胎内」。閉ざされた汚濁の空間で、一度“旧い自分”が圧殺されかける→生還=境界を越えたことの証。「鯨」と聞くと実際の生物としての鯨をイメージしてしまいがちだが、ここでは「自分より大きな存在に呑み込まれる」ようなモチーフのことを象徴的に表現したもの)

 本作第1話は「出立」をこう翻案しています。
 下の対応表は、主人公=オシリス(顕現以前は冥界ドゥアトにいる神)という軸で作っています。

1) 日常世界 
本作:オシリスはドゥアトで「重い心臓」の増加=秩序崩壊(マアトの破れ)を遠巻きに観測。
スター・ウォーズ(以下SW):農場のルークが「広い世界」を夢見るけど、まだ旅立たない段階。

2) 冒険への召命―器(梔子ユメ)の接近
本作:オシリスは“適合する器”の接近を感知し、それがきっかけで現世へ行く決断を固める。
SW:レイアのホログラム=外からの呼び声。

3) 召命拒否―砂漠で死にかける(外的障害型)
本作:顕現直後、極限の渇きと疲弊。内心の躊躇ではなく、環境が旅立ちを阻むタイプの拒否。
SW:家族事情による足止め。

4) 超自然的援助
本作:巡回兵に発見され、水を分けてもらい命拾いする。また、移動手段の援助を受けて、次の舞台(カイザーPMC本拠)へ進む。
SW:オビ=ワンが“フォース”という見えない道具立てを授ける。ハン・ソロから移動手段の援助を受ける。

5) 第一関門の通過―権力の腹に入る
本作:カイザーPMCの本拠=現世権力の“異域”へ踏み込む。理事は第一関門の「門番」というポジション。
SW:辺境(タトゥイーン)から宇宙へ飛び出す=世界の境界越え。

6) 鯨の胎内―理事室=胎内空間
本作:敵の本拠地である理事室に閉じ込められる。オシリスは関門の「門番」である理事を倒し、こちらの世界で神として再起動を果たす。
SW:デス・スター内部、とりわけゴミ圧縮室。閉ざされた汚濁の箱で圧殺されかけ、突破。試練を突破したことで“旧いルーク”が終わり、新たな一面をもって再起動を果たす。


 こうやって照らし合わせると、物語上の働きが同じイベントや、登場するモチーフを愚直に対応させていることがわかります。いま見返すと真面目過ぎるくらいですね。

 余談ですが、「鯨の胎内」はそのタイトルの通り、“水に浸される”イメージを含むことがよくあります。SWの圧縮室は汚泥まみれで、べちゃべちゃでしたよね? 本作の理事室も、湿度が上がって金属が曇り、革がぬめる=水気が空間を支配するモチーフをさりげなく配置していたりします。加えて「鯨の胎内」で怪物が登場するのも踏襲しています。スター・ウォーズではダイアノーガ、本作ではアメミットです。違うのは、怪物や水気が主人公サイド由来だというところです。自分は思いつかないのですが、こういう逆転現象がある作品って、他にもあるんでしょうかね?

 再度まとめますと、『千の顔をもつ英雄』は様々な神話をパッチワークして、古今東西の神話を「単一神話(モノミス)」という枠組みで統一的に説明した書ですが、本作も「単一神話」の枠組みを使って第1話を構成してみた、ということです。せっかくオシリスという神の旅立ちの話なのですから、オシリスを動かすルールとか話の構成自体も神話っぽくしようと思ったんですね。「ブルーアーカイブ」だけじゃなく、「神話」の二次創作にもしてみたい、みたいな。(極論を言ってしまえば、本作に限らずブルアカを含む世の作品のほとんどが神話の二次創作とみなせるんでしょうが)

 ちなみに第4話「戦闘」に登場するオシリスのセリフに「それが“神”、そして“英雄”の物語の文法であり、作法だ」という部分がありますが、これはオシリスが「英雄神話の物語」のルールで動いているよ、というヒント(自白?)でした。「青春の物語」のルールで動く“先生”と対比する意味もあります。とはいえ両者のルールは全くの別物という訳でもなく、種類が違うとはいえ、「試練を乗り越え成長する物語」のルールで動くという点では共通しています。そういう「物語」の枠組みを懐疑する「文学」という立場を象徴するゴルコンダの前では、英雄も先生も同じ「物語の住人」に見えるのかもしれません。他にも、書いた内容の背景やそれを作品に落とし込む際の「手口」になどについて、チマチマ分かりにくい自白をバラまいていますが、読者の方がそこまで突っ込んで探してくれたりなんかした日には大喜びです。

 ところでゴルコンダって、学問としての文学を経由したことがある読者からすると、自分の分身のようなものがヴィラン扱いされているわけで、なかなか心穏やかではいられなさそうですよね。そう考えると、なかなか皮肉な構図だと思います。普段はもっぱら文学側が物語を懐疑するのに、ブルアカにおいては物語が意図的に文学に反抗してきたようで。

 話が脱線してしまいましたが、実はこんな感じで第1話は神話の理論を下敷きに書いていましたよ、という雑談でした。当初はせっかく生やしたふた○りチ○コでバカみたいな下ネタをもっとやっていくつもりだったのですが、才能がないのでなんだかんだ理屈頼りになってしまいます。才能がある人は理屈無しで書けてしまうんですよね。要はここまでの話は自虐トークみたいなものでもあります。

 ここまで長々と裏話にお付き合いくださり、ありがとうございました。これからも気が向いたらまだ紹介していない元ネタを紹介していこうかな、と思います。今後もよろしくお願いいたします。

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